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日乃本 義に手を出すな
伍
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「ここが、…階川迎賓館か」
荘厳にそびえ立つ迎賓館の前には、高級車が所狭しと停まっていた。
電車、それも最安で済ます為にわざわざ時間のかかるルートで来たのなんて自分だけじゃないだろうかと、柾彦は自身の境遇を恥ずかしく思った。
しかも道中乗り継ぎに失敗したり、似た名前の駅で間違えて降りそうになったお陰で到着時刻はギリギリとなり、観光する時間がすっかりなくなってしまった。食品系の土産は階川駅でなんとか工面出来そうだが、木綿子に買ってくると約束した御守は、現地まで足を運ばないと手に入れられない代物だ。どうしたらいいものか。
「とりあえず別のものを買って、正直に謝るか…」
柾彦はふう、と一息つくと、急いで受付へと向かっていった。
受付では護衛と間違えられ、建物の外でお待ちくださいとの案内を受けた。「参加者です」と答えると、一瞬困惑の表情を向けられたが、柾彦が招待状と免許証を見せると、それ以降は顔色一つ変えずに淡々と案内をしてくれた。
内心思うことは多々あっただろうが、こういった不測の事態?への対応能力は、さすが皇室お抱えの職員、といったところだろうか。
マスコミやSNS対策なのか、会場内は電子機器や貴重品を含む一切の持ち込みが禁止されていた。
ボディチェックを受けた後、スマートフォンを含めた荷物をクロークに預けると、柾彦は会場となるメインホールに通された。
天井には煌びやかなシャンデリアが幾つも吊り下げられ、赤と白を基調としたテーブル上には、豪華な料理と豊富な種類のドリンクがずらりと用意されていた。立食形式だろうか、決められた座席はないようで、高めの丸テーブルがいくつか配置されていた。
既にたくさんの令嬢達が集まっており、テーブルを囲み、グラスを片手に談笑している集団も見受けられた。
会場内に一歩足を踏み入れると、周囲がしん、と静まり返り、令嬢達からの突き刺さるような視線が柾彦を襲った。更に進んでいくと、通りがかりに「なにあれ…」という動揺した呟きが聞こえてきた。
明らかに浮いた存在になるだろうとは十分予測していたが、ここまで針の筵だとは…。余りの居心地の悪さに、胃がキュッと縮むような不快さを感じていると、会場内に男声のアナウンスが流れた。
『皆様、本日はお集まり頂き、誠に有り難うございます。
間もなく義様が、会場内にご到着なさります。
ご到着までの間、しばしご歓談をお楽しみください』
静まり返っていた会場内が、先ほどのアナウンスによって再び黄色い声の活気を取り戻した。
柾彦に向けられる関心がなくなった事で、居心地の悪さが大分ましになった。柾彦は会場の端のほうに誰もいない丸テーブルをひとつ見つけると、ひとまずその脇に立った。
この中で、第二皇子に選ばれるのは唯一人。
会場に集められた彼女達が、これからどんなキャットファイトを繰り広げるのだろうか――頭に過った下賎な考えを鼻で笑い、柾彦は本日の主役の登場を待った。
荘厳にそびえ立つ迎賓館の前には、高級車が所狭しと停まっていた。
電車、それも最安で済ます為にわざわざ時間のかかるルートで来たのなんて自分だけじゃないだろうかと、柾彦は自身の境遇を恥ずかしく思った。
しかも道中乗り継ぎに失敗したり、似た名前の駅で間違えて降りそうになったお陰で到着時刻はギリギリとなり、観光する時間がすっかりなくなってしまった。食品系の土産は階川駅でなんとか工面出来そうだが、木綿子に買ってくると約束した御守は、現地まで足を運ばないと手に入れられない代物だ。どうしたらいいものか。
「とりあえず別のものを買って、正直に謝るか…」
柾彦はふう、と一息つくと、急いで受付へと向かっていった。
受付では護衛と間違えられ、建物の外でお待ちくださいとの案内を受けた。「参加者です」と答えると、一瞬困惑の表情を向けられたが、柾彦が招待状と免許証を見せると、それ以降は顔色一つ変えずに淡々と案内をしてくれた。
内心思うことは多々あっただろうが、こういった不測の事態?への対応能力は、さすが皇室お抱えの職員、といったところだろうか。
マスコミやSNS対策なのか、会場内は電子機器や貴重品を含む一切の持ち込みが禁止されていた。
ボディチェックを受けた後、スマートフォンを含めた荷物をクロークに預けると、柾彦は会場となるメインホールに通された。
天井には煌びやかなシャンデリアが幾つも吊り下げられ、赤と白を基調としたテーブル上には、豪華な料理と豊富な種類のドリンクがずらりと用意されていた。立食形式だろうか、決められた座席はないようで、高めの丸テーブルがいくつか配置されていた。
既にたくさんの令嬢達が集まっており、テーブルを囲み、グラスを片手に談笑している集団も見受けられた。
会場内に一歩足を踏み入れると、周囲がしん、と静まり返り、令嬢達からの突き刺さるような視線が柾彦を襲った。更に進んでいくと、通りがかりに「なにあれ…」という動揺した呟きが聞こえてきた。
明らかに浮いた存在になるだろうとは十分予測していたが、ここまで針の筵だとは…。余りの居心地の悪さに、胃がキュッと縮むような不快さを感じていると、会場内に男声のアナウンスが流れた。
『皆様、本日はお集まり頂き、誠に有り難うございます。
間もなく義様が、会場内にご到着なさります。
ご到着までの間、しばしご歓談をお楽しみください』
静まり返っていた会場内が、先ほどのアナウンスによって再び黄色い声の活気を取り戻した。
柾彦に向けられる関心がなくなった事で、居心地の悪さが大分ましになった。柾彦は会場の端のほうに誰もいない丸テーブルをひとつ見つけると、ひとまずその脇に立った。
この中で、第二皇子に選ばれるのは唯一人。
会場に集められた彼女達が、これからどんなキャットファイトを繰り広げるのだろうか――頭に過った下賎な考えを鼻で笑い、柾彦は本日の主役の登場を待った。
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