7 / 35
日乃本 義に手を出すな
伍
しおりを挟む
「ここが、…階川迎賓館か」
荘厳にそびえ立つ迎賓館の前には、高級車が所狭しと停まっていた。
電車、それも最安で済ます為にわざわざ時間のかかるルートで来たのなんて自分だけじゃないだろうかと、柾彦は自身の境遇を恥ずかしく思った。
しかも道中乗り継ぎに失敗したり、似た名前の駅で間違えて降りそうになったお陰で到着時刻はギリギリとなり、観光する時間がすっかりなくなってしまった。食品系の土産は階川駅でなんとか工面出来そうだが、木綿子に買ってくると約束した御守は、現地まで足を運ばないと手に入れられない代物だ。どうしたらいいものか。
「とりあえず別のものを買って、正直に謝るか…」
柾彦はふう、と一息つくと、急いで受付へと向かっていった。
受付では護衛と間違えられ、建物の外でお待ちくださいとの案内を受けた。「参加者です」と答えると、一瞬困惑の表情を向けられたが、柾彦が招待状と免許証を見せると、それ以降は顔色一つ変えずに淡々と案内をしてくれた。
内心思うことは多々あっただろうが、こういった不測の事態?への対応能力は、さすが皇室お抱えの職員、といったところだろうか。
マスコミやSNS対策なのか、会場内は電子機器や貴重品を含む一切の持ち込みが禁止されていた。
ボディチェックを受けた後、スマートフォンを含めた荷物をクロークに預けると、柾彦は会場となるメインホールに通された。
天井には煌びやかなシャンデリアが幾つも吊り下げられ、赤と白を基調としたテーブル上には、豪華な料理と豊富な種類のドリンクがずらりと用意されていた。立食形式だろうか、決められた座席はないようで、高めの丸テーブルがいくつか配置されていた。
既にたくさんの令嬢達が集まっており、テーブルを囲み、グラスを片手に談笑している集団も見受けられた。
会場内に一歩足を踏み入れると、周囲がしん、と静まり返り、令嬢達からの突き刺さるような視線が柾彦を襲った。更に進んでいくと、通りがかりに「なにあれ…」という動揺した呟きが聞こえてきた。
明らかに浮いた存在になるだろうとは十分予測していたが、ここまで針の筵だとは…。余りの居心地の悪さに、胃がキュッと縮むような不快さを感じていると、会場内に男声のアナウンスが流れた。
『皆様、本日はお集まり頂き、誠に有り難うございます。
間もなく義様が、会場内にご到着なさります。
ご到着までの間、しばしご歓談をお楽しみください』
静まり返っていた会場内が、先ほどのアナウンスによって再び黄色い声の活気を取り戻した。
柾彦に向けられる関心がなくなった事で、居心地の悪さが大分ましになった。柾彦は会場の端のほうに誰もいない丸テーブルをひとつ見つけると、ひとまずその脇に立った。
この中で、第二皇子に選ばれるのは唯一人。
会場に集められた彼女達が、これからどんなキャットファイトを繰り広げるのだろうか――頭に過った下賎な考えを鼻で笑い、柾彦は本日の主役の登場を待った。
荘厳にそびえ立つ迎賓館の前には、高級車が所狭しと停まっていた。
電車、それも最安で済ます為にわざわざ時間のかかるルートで来たのなんて自分だけじゃないだろうかと、柾彦は自身の境遇を恥ずかしく思った。
しかも道中乗り継ぎに失敗したり、似た名前の駅で間違えて降りそうになったお陰で到着時刻はギリギリとなり、観光する時間がすっかりなくなってしまった。食品系の土産は階川駅でなんとか工面出来そうだが、木綿子に買ってくると約束した御守は、現地まで足を運ばないと手に入れられない代物だ。どうしたらいいものか。
「とりあえず別のものを買って、正直に謝るか…」
柾彦はふう、と一息つくと、急いで受付へと向かっていった。
受付では護衛と間違えられ、建物の外でお待ちくださいとの案内を受けた。「参加者です」と答えると、一瞬困惑の表情を向けられたが、柾彦が招待状と免許証を見せると、それ以降は顔色一つ変えずに淡々と案内をしてくれた。
内心思うことは多々あっただろうが、こういった不測の事態?への対応能力は、さすが皇室お抱えの職員、といったところだろうか。
マスコミやSNS対策なのか、会場内は電子機器や貴重品を含む一切の持ち込みが禁止されていた。
ボディチェックを受けた後、スマートフォンを含めた荷物をクロークに預けると、柾彦は会場となるメインホールに通された。
天井には煌びやかなシャンデリアが幾つも吊り下げられ、赤と白を基調としたテーブル上には、豪華な料理と豊富な種類のドリンクがずらりと用意されていた。立食形式だろうか、決められた座席はないようで、高めの丸テーブルがいくつか配置されていた。
既にたくさんの令嬢達が集まっており、テーブルを囲み、グラスを片手に談笑している集団も見受けられた。
会場内に一歩足を踏み入れると、周囲がしん、と静まり返り、令嬢達からの突き刺さるような視線が柾彦を襲った。更に進んでいくと、通りがかりに「なにあれ…」という動揺した呟きが聞こえてきた。
明らかに浮いた存在になるだろうとは十分予測していたが、ここまで針の筵だとは…。余りの居心地の悪さに、胃がキュッと縮むような不快さを感じていると、会場内に男声のアナウンスが流れた。
『皆様、本日はお集まり頂き、誠に有り難うございます。
間もなく義様が、会場内にご到着なさります。
ご到着までの間、しばしご歓談をお楽しみください』
静まり返っていた会場内が、先ほどのアナウンスによって再び黄色い声の活気を取り戻した。
柾彦に向けられる関心がなくなった事で、居心地の悪さが大分ましになった。柾彦は会場の端のほうに誰もいない丸テーブルをひとつ見つけると、ひとまずその脇に立った。
この中で、第二皇子に選ばれるのは唯一人。
会場に集められた彼女達が、これからどんなキャットファイトを繰り広げるのだろうか――頭に過った下賎な考えを鼻で笑い、柾彦は本日の主役の登場を待った。
61
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる