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清掃-1
しおりを挟むゾイは、ヴィルヘルム邸に住み込みで働くことになった。与えられた館の一室は広々としていて、調度品や家具が残されたままだった。どう考えても使用人にはそぐわない造りだったが、ヴィルヘルムが「この部屋を使え」と言うので、おっかなびっくりながらも寝泊まりをしている。
館は想像よりも遥かに広く、部屋数の多さにクラクラした。全ての部屋を掃除するのに一体どれだけの時間がかかるのだろう。掃除用具庫から引っ張り出てきた箒を片手に、館の清掃に取り掛かる日々が始まった。
埃を払い、床を掃いて窓を拭く。高価そうな装飾品や家具を傷つけないよう、細心の注意を払う。特に期限のある仕事ではない。その点では、とても気楽だと言えた。
掃除に夢中になって打ち込んでいると、時間はすぐに過ぎていった。窓の外を見ると、いつの間にかとっぷりと日が暮れている。
ヴィルヘルムは、ゾイの働きぶりを覗きに一旦顔を出したきりで、ずっと自室に閉じこもっているようだった。彼はゾイの仕事について「身の回りの世話」と説明したが、働き初めた今も、ヴィルヘルムとの接触は少ないままだった。
特に、彼が部屋に籠ってしっていて、ゾイはどうしたらいいのか分からなくなる。自室で仕事に打ち込んでいるのか、何か別の理由があるのかは分からないが、触らぬ神に祟りなし、だ。ゾイはヴィルヘルムが自分から出てくるまで放っておくことにしていた。
××××××
当たりはすっかり暗くなっていた。ゾイは空腹を解消するべくキッチンへと足を向けた。場所はヴィルヘルムの案内で把握済みだ。なかなか立派な造りと広さで、料理人が腕を振るう在りし日の光景が目に浮かんでくるようだ。
キッチンにあるものは好きに食べていい、と言われていた。ヴィルヘルムの言葉通り、ゾイは使用人として館を自由に動きまわっている。
足を踏み入れると、暗がりに大きな影が見えた。
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