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食べるか眠るか(5)
しおりを挟む──雪哉。おい、雪哉。
名前を呼ばれて目を覚ます。一瞬奏斗かと思ったが、紛れもなく白鳥だった。
「……ん」
いつの間に帰ってきてたのか。
「夕食は何が食べたい?」
「あー……腹減ってねえ」
そう言うと、白鳥は少し困った顔をした。
「具合が悪いのか?」
「別に今は大丈夫」
ぐうっと腕を伸ばして元気であることをアピールするが、白鳥の表情は変わらない。
「今日は軽いものだけを入れて、早めに寝るといい」
本気で心配しているらしい白鳥。
やり方はおかしいけれど、こいつも悪いやつではないのだ。しかも、それは雪哉がおかしくさせたと言っても過言ではない。
「待ってろ。今水を持ってきてやる」
監禁はされてるし、超強引だけど、一番気にかけてもらっていたことも事実だった。きっと、この束縛もしばらくしたら解けるはず。
だから、雪哉は余計、複雑な思いを抱えていた。
だって、こんなに白鳥に尽くされていても考えるのは別の男のことなのだ。
何度も考えるのをやめようと思った。
……でも、たまに褒める口、宥める手、冷たそうに見えて温かい瞳。
裏のない稀に見せる笑顔に、たわいのないやりとり。
今振り返ってみると、あの普通すぎるとムカついていた態度も雪哉にとっては楽だったのだ。それは、なんだかんだあいつが雪哉を放っておいたりしなかったから。
あそこにいた時はそこまで意識していなかったのに、時間が経てば経つほど鮮明に思い出される。……こんなのは、初めてだった。
「具合はどうだ?」
翌朝一番にそう聞いてきた白鳥は、昨日の夜は何もせず、ただ雪哉を横で寝かせた。
「大丈夫だ。ていうか、仕事は?」
「今日は休むことにした」
「え、なんで?」
「いや、お前が心配だから……」
珍しく殊勝な感じで言うものだから、雪哉は内心首を傾げた。
携帯を確認すると今日は土曜日。とはいえ白鳥は土日構わず忙しいので、自分を優先されたことに少し驚いた。
「……まあ、わかった」
白鳥がおかしいのは今に始まったことではないが、今日は一段とおかしい。あれが雪哉を脅していた男か? と思うほどであった。
先にベッドから出て、軽く水を飲む。相変わらず食欲はないので、そのままソファに腰掛けると、後から部屋から出てきた白鳥も雪哉の横に腰掛けた。
そして、こちらに近づいたかと思えば、いきなり抱きしめられた。
「白鳥?」
しかも優しめに。いつもはもっと、痛いくらいだというのに。
一体どうしたんだ、と変に思いながらも、指摘するほどではないので黙って腕の中に収まるしかない。
それから、適当に時間を潰し、少しだけ昼ご飯も食べて、またソファで適当に過ごす。いつも通りに。
ただ、いつもと違うのは、ずっと白鳥がいることだった。
いつもはすぐセックスの流れになるのに、今日はそうもならず、ただいるだけだ。
別にいいけど、と思いつつ、さすがに違和感が募った────そのとき。
めったにならないインターホンが、部屋に鳴り響いた。
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