30 / 69
2-5.薬師試験の条件、シルクの日常
しおりを挟む
日課の採集依頼後に完了のため冒険者ギルドに来ていたミラは、スフィアにある提案をされた。
「ミラさんは、もう薬師見習いを卒業されたと聞いています。ギルドの薬師試験を受けてみませんか?」
ミラは少しだけ驚いて聞き返す。
「もう受けられるんですか?」
「はい。国家試験の前段階だと思ってください。ただ、先に条件を揃える必要はありますけどね」
「条件ですか?」
スフィアが言うには、ギルドの薬師試験は『薬師の見習い卒業』と『採集依頼の規定数達成』、『魔物の討伐依頼達成』、『その他、人柄考慮』となっているらしい。
採集と討伐は、正式な依頼を受けての達成が必要で、ミラは魔物だけは依頼を受けて倒せていない。
「ミラさんは、今日で採集の規定数に達しましたが、『魔物の討伐依頼達成』だけクリアできていません。普通は、パーティに依頼してクリアするのが一般的です。薬師は、戦闘力を求められません。でも、薬師は依頼を出すので、魔物の脅威を身を持って体験しておく必要があるんです。その意味で、魔物討伐の規定があるんです」
「その、つまり私に足りないのは魔物討伐だけってことでしょうか?」
「その通りです。どうしますか? 必要なら冒険者パーティを手配しますけど……」
スフィアは、ミラの強さがわからないからパーティが必要かどうか聞くことにしたのだ。
ミラとSランク冒険者セファエルとの模擬戦は、まったく目で見えず、ミラが強いかも知れないとはわかったが、実感がなかった。
だから、「必要なら」と中途半端な言い回しになったのである。
「深海クラゲなら倒せそうですけど、他の魔物は倒せるかもわかりませんし、ちょっと怖いですね。パーティ同伴をお願いしたいんですけど、どんな魔物討伐の依頼を達成する必要があるんですか?」
「必要なのは、トレントとストーンゴーレム、ライノバイソンですね。どれも、薬師がポーションや薬の原料を採取するために指定する場所に多く生息します」
ミラはその説明に、魔物の生態を頭の中から本の情報を思い返す。
どれもランクは低いがG~Eランクの初級冒険者には単独討伐の難しい魔物となっていた。
「わかりました。まとめて受けます」
「では、パーティの準備ができましたらまたお声がけします」
その後、少しだけ雑談をしてギルドを後にしたミラ。
***
ミラはいつもの日課で、ギルドを出た後に街の市場へと向かう。
そこで、肉を大量に購入し、工房に持っていく。
肉を抱えて工房に付くと、中で少しの下処理と焼き目を入れた後、皿に盛り付けてシルクの前に置く。
ミラが帰ってきたときに小屋の中から姿を見せたシルクは、しっぽを振って待っていた。
「はい、今日のご飯よ」
シルクは皿の前で止まり、ミラを見た。
「いいわよ、食べても」
山盛りに乗せた肉を、シルクはまるで野獣のように鋭い歯で噛みちぎって食べた。
ガウガウ。
ミラはその姿を見てうっとりとした表情をした。
普段は愛らしいのに、肉を食べるときだけ、獣のように貪り付いているのがたまらなかった。
「それにしても、日に日に食事量が増えてきたわね。最近、少し大きくなった気もするわ」
ミラは最初、シルクに肉をあげたが、量が全然足りず、何度も買い直すことになった。そのため、まとめて食事の肉を調達するようになった。
それでも食べる量は増え続けている。
本には、犬がこんなにも沢山の食事を食べるとは書いてなかったが、食事は犬種や体格で個体差があるとのことで、あまり気にしなかった。
人間でも食欲には差があるからなおさらだ。
ミラはシルクに呟いた。
「シルクは食いしん坊なのね」
***
シルクの食事が終わると、ミラは工房で調合の練習を始めた。
それを窓から覗くシルク。
だが、ミラは集中してそれに気づかない。
シルクは、ミラの様子を確認した後に、工房の敷地から出て街を歩き、こっそり門を出て森の方に歩く。
途中、肉の匂いに誘われて、定食屋の前で少し立ち往生はするが、そこが目的地ではなかった。
シルクは、そのまま歩いて森に入り、さらに魔物の生息域へと足を運んだ。
グルルルゥ。
シルクは、周囲に鋭い目を光らせる。
魔物の生息域は、さまざまな魔物が住んでいた。
武器も戦闘能力もない一般人が迷い込めば、魔物の餌食となる。
ふと、シルクは立ち止まった。
蛇のような魔物が木にぶら下がっていた。
それがシルクに襲いかかる。
シルクは飛び退いて、回避した。
そのまま体を翻し、それを鋭い爪で引き裂く。
紫の血を流して地面に倒れる。
その正体は、Dランクの魔物、スネークソルジャーだ。
毒が強力で、噛まれると毒が回りじわじわと体を蝕む類の厄介な攻撃で知られていた。
そのまま、魔物の生息域を徘徊し、数々の魔物を狩っては、その中にある生体器官を食らう。
すると、纏っていた何か淡い光のようなものが少し膨れ上がり、満足そうに次の獲物を探した。
しばらくして、工房に戻ると、ミラがまだ作業をしていているのをシルクは確認する。
何事もなかったかのように、小屋に戻って、ミラが出てくるのを待った。
そして吠えるのだ。
ワンッ、と。
3日後、ミラの魔物討伐の同伴パーティが決まった。
「ミラさんは、もう薬師見習いを卒業されたと聞いています。ギルドの薬師試験を受けてみませんか?」
ミラは少しだけ驚いて聞き返す。
「もう受けられるんですか?」
「はい。国家試験の前段階だと思ってください。ただ、先に条件を揃える必要はありますけどね」
「条件ですか?」
スフィアが言うには、ギルドの薬師試験は『薬師の見習い卒業』と『採集依頼の規定数達成』、『魔物の討伐依頼達成』、『その他、人柄考慮』となっているらしい。
採集と討伐は、正式な依頼を受けての達成が必要で、ミラは魔物だけは依頼を受けて倒せていない。
「ミラさんは、今日で採集の規定数に達しましたが、『魔物の討伐依頼達成』だけクリアできていません。普通は、パーティに依頼してクリアするのが一般的です。薬師は、戦闘力を求められません。でも、薬師は依頼を出すので、魔物の脅威を身を持って体験しておく必要があるんです。その意味で、魔物討伐の規定があるんです」
「その、つまり私に足りないのは魔物討伐だけってことでしょうか?」
「その通りです。どうしますか? 必要なら冒険者パーティを手配しますけど……」
スフィアは、ミラの強さがわからないからパーティが必要かどうか聞くことにしたのだ。
ミラとSランク冒険者セファエルとの模擬戦は、まったく目で見えず、ミラが強いかも知れないとはわかったが、実感がなかった。
だから、「必要なら」と中途半端な言い回しになったのである。
「深海クラゲなら倒せそうですけど、他の魔物は倒せるかもわかりませんし、ちょっと怖いですね。パーティ同伴をお願いしたいんですけど、どんな魔物討伐の依頼を達成する必要があるんですか?」
「必要なのは、トレントとストーンゴーレム、ライノバイソンですね。どれも、薬師がポーションや薬の原料を採取するために指定する場所に多く生息します」
ミラはその説明に、魔物の生態を頭の中から本の情報を思い返す。
どれもランクは低いがG~Eランクの初級冒険者には単独討伐の難しい魔物となっていた。
「わかりました。まとめて受けます」
「では、パーティの準備ができましたらまたお声がけします」
その後、少しだけ雑談をしてギルドを後にしたミラ。
***
ミラはいつもの日課で、ギルドを出た後に街の市場へと向かう。
そこで、肉を大量に購入し、工房に持っていく。
肉を抱えて工房に付くと、中で少しの下処理と焼き目を入れた後、皿に盛り付けてシルクの前に置く。
ミラが帰ってきたときに小屋の中から姿を見せたシルクは、しっぽを振って待っていた。
「はい、今日のご飯よ」
シルクは皿の前で止まり、ミラを見た。
「いいわよ、食べても」
山盛りに乗せた肉を、シルクはまるで野獣のように鋭い歯で噛みちぎって食べた。
ガウガウ。
ミラはその姿を見てうっとりとした表情をした。
普段は愛らしいのに、肉を食べるときだけ、獣のように貪り付いているのがたまらなかった。
「それにしても、日に日に食事量が増えてきたわね。最近、少し大きくなった気もするわ」
ミラは最初、シルクに肉をあげたが、量が全然足りず、何度も買い直すことになった。そのため、まとめて食事の肉を調達するようになった。
それでも食べる量は増え続けている。
本には、犬がこんなにも沢山の食事を食べるとは書いてなかったが、食事は犬種や体格で個体差があるとのことで、あまり気にしなかった。
人間でも食欲には差があるからなおさらだ。
ミラはシルクに呟いた。
「シルクは食いしん坊なのね」
***
シルクの食事が終わると、ミラは工房で調合の練習を始めた。
それを窓から覗くシルク。
だが、ミラは集中してそれに気づかない。
シルクは、ミラの様子を確認した後に、工房の敷地から出て街を歩き、こっそり門を出て森の方に歩く。
途中、肉の匂いに誘われて、定食屋の前で少し立ち往生はするが、そこが目的地ではなかった。
シルクは、そのまま歩いて森に入り、さらに魔物の生息域へと足を運んだ。
グルルルゥ。
シルクは、周囲に鋭い目を光らせる。
魔物の生息域は、さまざまな魔物が住んでいた。
武器も戦闘能力もない一般人が迷い込めば、魔物の餌食となる。
ふと、シルクは立ち止まった。
蛇のような魔物が木にぶら下がっていた。
それがシルクに襲いかかる。
シルクは飛び退いて、回避した。
そのまま体を翻し、それを鋭い爪で引き裂く。
紫の血を流して地面に倒れる。
その正体は、Dランクの魔物、スネークソルジャーだ。
毒が強力で、噛まれると毒が回りじわじわと体を蝕む類の厄介な攻撃で知られていた。
そのまま、魔物の生息域を徘徊し、数々の魔物を狩っては、その中にある生体器官を食らう。
すると、纏っていた何か淡い光のようなものが少し膨れ上がり、満足そうに次の獲物を探した。
しばらくして、工房に戻ると、ミラがまだ作業をしていているのをシルクは確認する。
何事もなかったかのように、小屋に戻って、ミラが出てくるのを待った。
そして吠えるのだ。
ワンッ、と。
3日後、ミラの魔物討伐の同伴パーティが決まった。
288
お気に入りに追加
2,635
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
婚約破棄と追放をされたので能力使って自立したいと思います
かるぼな
ファンタジー
突然、王太子に婚約破棄と追放を言い渡されたリーネ・アルソフィ。
現代日本人の『神木れいな』の記憶を持つリーネはレイナと名前を変えて生きていく事に。
一人旅に出るが周りの人間に助けられ甘やかされていく。
【拒絶と吸収】の能力で取捨選択して良いとこ取り。
癒し系統の才能が徐々に開花してとんでもない事に。
レイナの目標は自立する事なのだが……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる