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2-3.衝撃の事実、告げる

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 次の日、ミラはギルドに足を運んで、護衛対象が来るという時間まで応接室で依頼の詳細を聞くことになった。

 応接室のソファーに座ったスフィアが、ミラに説明した。
 反対側に座ったミラ。

 目の前にはスフィア、その隣りに中年で体格が良い男性がいた。
 彼はギルドマスターである。

「実は、このタイミングで詳細を話すことには理由があります。それは、ある御方がこの街に来るという情報をギリギリまで伏せておきたかったのです。情報の漏洩対策ですね」

 ギリギリに話すのは、暗殺や襲撃を防ぎ、誰が来るかを漏らさないようにするためだという。
 その説明を聞いたミラは、かなり偉い人がこの街に来るのだと理解した。
 ここまで厳重な対策ということは、3大公爵の誰かか、王家に関わる者のはずだ。

「護衛対象は一体、誰なのでしょうか?」

 スフィアが答える。

「それは……王族の方です」

 王家の人だった。

「そのような偉い方がなぜ私に指名を?」
「詳しくはその方から聞いてください。私もすべてを聞いたわけではないのですから」

 スフィアは少し後ろめたそうに、返答する。

「もしかして、私の出自ですか?」
「……言えません」

 その返答は、YESと答えたようなものだ。
 
(じゃあ、私が名家の貴族令嬢だということもバレたの?)

 だとすれば、ミラの存在が実家に伝わってしまう。
 ミラは、両の手を軽く握り、少しだけ手が震えた。
 実家の現当主である父が、捜索依頼を出した可能性もあると考えたのだ。

(どうすれば、いいのかしら……ここから逃げる?)

 居場所がバレてしまったのではないかと、本気で心配するのだった。

 トントン。
 扉を叩く音がした。職員が入ってくる。

「失礼します、例の御方々おんかたがたが到着になりました」

 いよいよ来てしまった。
 ミラはこの街から逃げ出すか、おとなしく状況に従うか、どちらか迷う。


 ふと、スフィアを見る。

 ここで逃げ出して、次もうまくいく保障はない。
 いろいろ気遣ってお世話してくれたスフィア。

 こうなったら、逃げ出すのではなく、スフィアを信じることにする。
 
(結局、私ったら、前と同じことを考えているのね)

 信頼した家族に一度捨てられ、ここまで来て。今度はスフィアを信頼して、もしかしたらまた裏切られるのかも知れないと思い逃げ出そうと考える。
 しかし、ミラが信頼するのをやめてしまえば、それこそ、兄・姉と同じではないかという結論に至った。


***


 ミラは応接室から出て、冒険者ギルドの前に止まる王家の紋章がある馬車を見つけた。 そこから、誰かが降りてくる。
 それはミラが見たことのない身分の高そうな青年とミラと同い年くらいの女の子だった。

 周囲には王族を守る王国騎士ロイヤルナイトが守護していた。
 他にも1人、風貌の異なる黒いマントを羽織った目の鋭い男性。つまらなそうに馬車の上に座っていた。

 もし一般人が王家の馬車の上に座るようなことがあれば、不敬罪で即座に斬首、つまり死刑である。
 おそらく護衛のために、王家の許可を得ているのだろうが、それを誰も注意しないことに驚くのだった。

 馬車から出てきた2人こそが王族だ。

「あれが、我が国の王族なのね……」

 ミラは現王家の王族を直接見るのは初めてだった。
 そして、心のなかで本音を吐露する。

(こんなに厳重な護衛がいるのに、私が護衛をする意味なんて……絶対にないわ)

 ミラは今回の護衛依頼には、何か裏があると理解した。

 そこにスフィアが声をかける。

「さきほど、領主の館に挨拶されたんです。あの御二方が王家のご子息・ご息女。第三王子のレオ様。お隣は妹のフローラ第2王女ですね。なんと、ミラさんと同い年なんですって」

 ミラはスフィアからもたらされる情報を頷きながら聞いた。
 スフィアは緊張から少しテンションがおかしいが、見て見ぬ振りをしておくミラ。

 上の2人の王子と長女は有名だが、それ以外はあまり詳しくは外に知られていない。
 というのも、その3人が非常に目立つため、他が霞むのだ。

 眉目秀麗で、勉学や武道にも優れているのだという。
 なにより、長女のエリスは、王家の中でも特に美しく、実家の長男|《ミラの兄》が執着するほどだ。

「なぜ、王族の方が直々にこの街に……」

 ミラは、頭の上に多くの疑問符を浮かべるのだった。


***


 その後、護衛をぞろぞろ引き連れて、近くの講堂の会議室に移動した。
 そこにスフィアとミラ、ギルドマスターらと一緒に向かう。

 円卓に腰を掛けたのは、ごく一部の護衛とミラたちだけだった。
 他の護衛は外で待機している。

 黒いマントの鋭い目つきの男も、会議室の中に入っていた。
 第三王子のレオが立ち上がってミラを真剣な表情で見た。

「さて、我々がこの街に来た理由から早速話したいところだが、まずは確認だ。あなたはミラ・バレインス本人か?」

 ミラはその第一声に、体が硬直した。
 名指しでバレインス家の家名で呼んだということは、ミラがあの家の娘であることはすでにバレているらしい。

 スフィアの態度からこういう展開にはなるかもと思ったが、まさかいきなりその部分を突いてくるとは考えもしなかった。
 護衛というのはやはり、ミラと接触するための口実でしかなかったのだ。

(連れ戻される前にこの場から逃げるべき? 実家に連れ戻されたら、今度こそ、どうなるかわからないわ……)

「……」
「どうしたんだい? 答えてくれないと話が進まないんだ」

 そこで、第2王女のフローラがフォローした。

「レオお兄様。それ、詰問みたいになっています」

「ああ、それもそうか。まず、先に伝えておきたいのは、我々王家はバレインス家とは通じていない。そこは安心してくれ」

 ミラは少し安堵すると、さっきの質問に答えた。

「はい、私はバイレンス家の娘です」
 
 レオはうなずいて、話を進める。

「やはりそうか。われわれ王族がそろって出向いたのには理由がある。それは、妹が君を聖女に推薦していたんだが、その件は取り下げさせてもらうことにしたんだ。だから無理に聖女になる必要はない。それを直接、王族の人間が伝えに来た。そういう決まりなのでな」

「……え? 聖女?」

 ミラは彼が何を言っているのかよくわからなかった。
 顔には驚愕の表情が浮かんだ。

「その反応……。まさか知らなかったのか?」

 ミラはゆっくりとうなずいた。

「はい……」

 レオは驚愕の表情で、妹のフローラと顔をつき合わせる。

 フローラは、ミラに直接このことを伝えるためにここに来ることを自ら志願したのだ。
 ポツリとフローラは言った。

「もう大丈夫だと言いに来たんですけど……。これ、私達が想定する中でも最悪のパターンだったかもですね?」

 フローラは、ミラが逃げ出しただけ、という希望的観測をこの瞬間に捨てた。

 ミラは実家から自主的に逃げて来たのではない。
 兄姉に追い出され、森で魔物に襲われるか餓死して死ぬことを望まれたのだ。

 ポツポツと、ミラは経緯をかいつまんで話した。


***


 レオは、ミラの置かれている状況が相当に悪いと判断した。

「今後についてなのだが、王家は君をどうこうする気はない。もともとバイレンス家の者たちは追い出して死んだことにしたのだから、君はこの街で、ただの平民『ミラ』となった。だから、もはや貴族でもないが、バイレンス家とは絶縁したものとして処理する。それでいいか?」

 ミラは、ふと実家の人達の顔が浮かび、ミラがいなくなっても笑顔で暮らしている想像をした。
 いや、むしろ、心の中で喜んでいるのかも知れない。

 当主の父親の顔だけは古い記憶だ。あの人とは会話どころか顔すらここ数年見ていない。

「構いません。私はもうバイレンス家とは無関係な平民として生きます」
「わかった。母上にはそう伝えておく」

 この国の第一きさきは、ミラの処遇で後々問題が起きないようにしていた。もし、家を追い出されていた場合は、平民として身分を変え、バイレンス家の支配が及ばないものとするように対処したのだ。
 これで暗殺の必要は基本的に無くなるだからだ。

 それにより、王家はバイレンス家に対し、ミラの発見を報告する理由も同時になくなった。


 ミラは、レオたちの段取りの進め方に驚いた。

 最初からある程度の状況を想定して、ミラのことまですでに決めていたからだ。
 王家には、その想定ができる人間が存在するということである。

(もともと、見つからないように一般庶民に紛れて生活していたのだし、何も変わらないわよね?)
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