実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
16 / 69

1-14.初めての調合魔法

しおりを挟む
 メリエラは、指導のメリハリを付けるためか、手をパンパンと叩いて鳴らす。


「じゃあ、気を取り直して、いまから魔法で大きく工程を省略した調合方法を教えるわね」
「はい、お願いします」

 メリエラのポーション製作工程は、ルーベックの工程よりも機材が最小限だった。
 ポーションに必要な材料とさまざまな工程を経て、メリエラは薬草を液体にし、その色を変化させていく。
 基本的には、ポーションに必要な薬草を調合する段階で魔法を使用。分解や成分の凝縮なども頻繁に魔法をかける。

 なかでも、大きな違いは時間だ。

 魔法を使うことで、調合作業に必要な時間が短縮された。
 一般的に、ポーションになるには時間がかかるが、その短所がなくなったのだ。
 もちろん、魔法で工程を飛ばすポーションづくりにはリスクや欠点もある。だが、メリエラがいうには、いまは気にしなくても良いとのことだった。

「どう? 薬師と言ってもこれだけの違いが出るの。調合向けの魔法が使えれば、私のように魔法メインの調合もできるのよ。ちまちまとした作業も必要ないの」

 メリエラはどうやら、そういう作業が得意ではなさそうだった。
 部屋の様子からしても大雑把な性格かもしれない。
 そこで、ミラは気になることを質問した。

「勉強になりました。ただ、私が魔法を使えるかわからないのですが、使えるようになるでしょうか?」

「そうねぇ、私は人向けの鑑定は使えないから、あなたの才能について詳しいことはわからないけど、最初に分岐点となるのは魔法を使える『素質』があるのかどうかよ」

「それって、まずは試しに魔法を使ってみるしかないってことですか?」

「ええ、そうなるわね。もちろん、調合に必要な魔法だけだから、素質があれば、試しに使うだけならすぐできるのよ」

 ミラは顎に指先を当てて、上に視線を向け、昔のことを思い出す。

「実は昔、魔法の知識を本で勉強していたことがあって、でも実際には使えなかったんです。けど、それでも大丈夫ですか?」

「魔法は本を読むだけじゃダメなのよ。魔法を使える人がその人の魔力を引っ張り上げて、外に出すという感覚的な疑似体験が必要なの。魔法の才能がいくらあっても、勝手に魔法が使えることはないのよ」

「それでは、試しにお願いします」

 ミラは魔法で調合する利点が大きいことから、自分も使ってみたいという、キラキラした目というか、興味津々な表情をしていた。



 そのまま2人は工房の外に出ると、裏手に森林のある場所にたどり着く。

「まずは手を広げて、深呼吸。私の手を掴んで、力を込めてみなさい」
「こうですか?」
「そのまま、中の力を外に押し出すように」
「こ、こう……ですか?」

 ふわり、と大きくて薄い透明な塊のようなものが外に飛び出る。

「あれは、あなたの魔力が少しだけ温度の低い空気を生み出したの。体内の魔力が魔法に変換される感覚ね」

 ミラはメリエラの言う通りに魔法を使っていく。
 どうやらミラの悪い想定とは違って、ちゃんと魔法が使えるようだった。

「あ、また出来ました」

 気弾は調合時に空気を送り込むのに必要な魔法の1つである。

「それにしても、気弾の大きさが結構大きいわね。魔法の大きな素質があるかも知れないわ」
「本当ですか?」
「ええ、あなたは魔法寄りの調合を覚えたほうが効率が良いわ。ルーベックが使う原始的な調合の工程をあなたが覚える必要はないと思うわよ」

 暗に、ルーベックのところにはもう通わなくても良い、と言っているようだった。
 とりあえず、ミラをルーベックのところにはどうしても通わせたくない、という意気込みが伝わってくる。

「ええ、でも約束してしまいましたし、魔法でない方法も色々と知っておきたいので、一応通いたいと思います」

 ミラは、やんわりと、また彼のもとに通うことを伝えた。

「そ、そう……そういうのも大事よね。魔法も万能じゃないし」

 少しだけ言葉に覇気がなくなったメリエラ。
 ミラは他にも調合で必要になりそうな魔法の基礎を教えてもらうことにした。
 しばらくして、メリエラはミラに今日は終わりと一区切り付くと解散の流れになった。

「今日はこれくらいね」

「はい」

 メリエラは今日1日でミアの魔法の才能に驚嘆した。
 教えた魔法をわずか数回見ただけで再現し、しかもメリエラより魔法の規模が大きい。魔法を繰り返すほどその精度も上がっていく。

「あなた、すごいわね。こんなに魔法が上達するなんて。末恐ろしいとさえ思ったわ。ルーベックなんて1週間かけても、小指ほどの魔法気弾しか作れなくて、師匠直伝の調合を早々にあきらめたくらいだし」

「でも、まだ基礎魔法だけですよね? さっきの工程に必要な調合魔法はまだ……」

「しかたないわ。魔法は基礎から順に上げていかないと使えないのよ。いきなり上級魔法とかは、どうやっても無理だからね」

 基礎魔法だけでは、魔法調合の工程をカバーできず、仕上げの辺りで基礎より上の魔法が必要となる。

「その、お願いなんですが、また暇なときでよいのですが、魔法の訓練や調合魔法の工程を教えてもらえませんか?」
「う~ん、でも私も時間が惜しいし……」
「魔法の工程が教えてもらえないと、原始的な調合工程しかマスターできないですし、ルーベック様に通い詰めるしかないんですけど、それも依頼のあるときしか――」

 最後までミラがセリフを言う前に、メリエラが言葉で遮る。

「師匠をやるわ!」

「え? でも時間を使ってしまうのでは……」

「あなたを弟子として教えるわ。その代わり、私のところにちゃんと通いなさい、ね?」「あっ……、はい」

 ミラは、気づいた。
 メリエラがルーベックではなく、自分のところに通わせたいなにか理由があるのだと。
 そこで、さっきのことを思い返す。

 メリエラが懸念しているのは、ミラがルーベックの工房兼自宅に通うことを気にしているのだと。
 そのことにメリエラは自分でさえ気づいていない予感がしたのである。

「わかりました。これからよろしくお願いします」

 メリエラは少し変わっているが、ちょっと可愛い人だなとミラは思いながら、師事を受けることにしたのである。

 ミラはいろいろなことを言われたが、メリエラから悪意をほとんど感じなかったのだ。姉や兄のことがあって、少し悪意に敏感になっていたはずのミラがそれを感じないのだから。
 ミラは改めて工房を見回して、窓際のクマのぬいぐるみを目にして微笑(ほほえ)む。
(私はメリエラ様のこと、少し気に入ったかも知れないわ……)

 ミラは嬉しそうにメリエラを見た。
 その視線を感じてか、首を傾げた後、メリエラはミラに伝え忘れていたことを話すことにした。

「あ、そうそう、気をつけてほしいんだけど、その魔法は魔物にあまり使わないようにね?」
「それって、魔物に『魔法耐性』があるからですか?」
「へえ、勉強していただけのことはあるわね。その通りよ。私が教えたのは調合魔法で、攻撃用の魔法じゃないし、魔法耐性がある魔物には、攻撃用の魔法でも通じにくいのよ。調合魔法では全く攻撃なんて通らないわ」
「わかりました。気をつけます」

 もしもの話だが、ミラが森で魔法を少しでも使えて、フレアボアにとっさに反撃しようとしたなら、その時に間違いなくミラは死んでいた。フレアボアには上級魔法ですら効かない、高い魔法耐性があるからだ。ほぼ魔法無効といっても良い。

 この魔物に出会うと冒険者パーティが崩壊するのは、盾役が吹き飛び、後方支援の魔法が効かず、物理的に倒すしかなく、その火力を魔法で補えないという、致命的な問題があるためだ。
 かといって、剣や弓で倒せるような魔物ではない。耐久力が並ではないフレアボアならなおさら。出会ったら誰かが囮になって逃げ延びるしかない。決して1人で遭遇してはいけない魔物である。

 その後、師事するのに通う日程などを決めた。それ以外は婚活で忙しいとのことだ。
 ただ、どんな婚活をしているのかは、ミラには教えてもらえなかった。

「採集のときは魔物に出会うことがあるから特に気をつけるのよ。また5日後に待ってるわ」

 メリエラは念を押すように手を降って帰りを見送ってくれた。

「年上の方を可愛いと思うのは失礼かしら?」

 ミラはそんなどうでもいいことを考えながら、振り向くのをやめると、ギルドのある方へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...