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他国

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中へ入るとゆっくりと扉を閉め、二人きりになった。
机の上には昨日飲んだワインと二つのグラスがそのまま残されており…。

「……昨日、わたし」
「気にするな。誰にだってある。それより体は大丈夫なのか?」
「はい、もう大丈夫です」

昨日の事に触れる事はほとんど無く…。

「あ、お盆……」
「あぁ、リックが持っていった。……それとお前を部屋まで運んだのもあいつだからな。後で会ったらお礼言っておくんだな」
「そ、そうですか」

私は昨日の事はエレーナさんから聞かされているが、記憶は全く無く、これがお酒の怖い所なんだ、と思い知らされた。

「それより……」

この話はもう終わりとなりアルバート様は次の話題へと移していく。

「お前、菓子作れるか?」
「えっ。あ、はい」
「なら一つ頼み事がある」
「なんでしょう?」
「近々、他国に用がある。そこの王女が甘い物が好きでな。お前の前任者が作っていたが……」
「それを私に作れ、と」
「なんでもいい。……いや、確か俺と同じだったな、あいつは」
「同じと言うと?」
「栗だ」
「栗、ですか」

栗と言われ、すぐに思い出した。
姉が口うるさく注文を付け、作らされたモンブランを…。
それを思い返した私の顔は少し曇った。

「どうした?無理なら他でいいぞ?あくまで第一希望みたいな物だからな」
「い、いえ!大丈夫です。作ります。……いつ行くんですか?」
「3日後だ」
「分かりました」
「それと……」
「まだなにか??」

アルバート様は私の事を頭から下へとみていく。

「あの……」
「エレーナから聞いてるか知らないが、その格好では、な」
「あっ」

そういえば前に教えてくれた。
他国に行くにはこの格好では行けず、それなりの『正装』がある、と。

「あまり日が無いから俺の世話はリックに頼む。お前はエレーナと共に仕立て屋にでも行け」
「わかりました」

こうして私は他国に行くことが決まった。
栗を使ってのお菓子を作って…。





ーーーーーー





「そう、いいわね、他国かぁ」

私はエレーナさんを自室に呼んだ。

「……エレーナさんは仕立て屋の事を知ってるんですか?」
「えぇ」
「あの、どんな格好なんですか?あまり派手なのは私、恥ずかしいから着たく無いんですけど……」
「そんな気負わなくていいのよ、私達は使用人よ。レオナ様みたいに将来の王妃となる人は煌びやかな物よ。うんと豪華なドレスになると思う」
「そ、そうですか……」

姉の事を言われると胸がチクリと痛くなった。
いつ、アルバート様と婚姻するのかは分からないが、徐々にその日が近づいているのだと思うと喜ぶ事は出来なかった。

「時間無いから、街にいってみましょうか」
「今から、ですか?」
「そうよ、だって3日でしょ?仕立てるって言ったって明日には出来ないわよ。もし間に合わなかったらそれこそ大問題じゃない」
「確かに……」
「じゃあ、行きましょ」


私とエレーナさんは使用人の仕事を一旦解かれ、街へと行く事にした。





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