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28 追跡【優奈子】

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やられた―――!
マンションの部屋はもぬけの殻だった。
どこから抜け出したっていうの!?

「あなた達!それでもプロのSPなの!?」

「申し訳ありません」

謝られたって、もう遅い。
今日は婚約パーティーの打ち合わせだったのよ!?
婚約者不在で大恥をかいた。
ホテル側の担当者は途中でいなくなったのをいぶかしく思ったらしく『キャンセルについての説明をしますね』なんて言い出すし、父の後妻となった義母は『大丈夫なの?あなた達』とこれ見よがしに心配する始末。
ギリッと爪を噛んだ。
イライラする。
手に入らない物なんて今までなかった。
欲しいと思った物は私が『あれが欲しいかも』とか『気に入ったわ』といえば、両親や周りがなんとかしてくれたのに今回は何かが違っていた。
斗翔とわさんにスーツや時計、車にマンションを購入して、プレンゼントしたっていうのに一度も喜んだ顔をしてくれない。
私がどれだけ尽くしていると思っているの?
今日だって、私を裏切っていなくなって!

「どこへ行ったのかしら」

斗翔さんはスマホの電源を切っていて、連絡がつかない。
どうして!?
もう何もかも消したのにまだ彼女への未練を断ち切れないというの?
婚約パーティーの招待状のサンプルを握りしめた。
今夜はこの招待状の話を斗翔さんと二人でして、誰を招待するか楽しく話す予定だったのよ!

「そうだわ。斗翔さんが自分で気持ちに踏ん切りをつけれないというのなら、向こうから別れを告げてもらえばいいのよ」

そのためには夏永さんの居場所を知る必要があるわね。
私が渡した斗翔さんの新しいスマホにはGPS追跡ができるように設定してある。
自分のスマホから、彼がどこにいるか見れるのよ。
この間、いなくなった後から彼がどこにいるか、わかるようにしてあるんだから。

「……まだ電源が入ってないわ」

盲点だった。
追跡するためには電源が入ってないと追跡できないということを忘れていた。
電源がオフになっているから、今はわからない。
早く、早く電源をいれて。
私の悲痛な願いも神様は聞き届けてはくれず、夜中になってもスマホの電源は入らなかった。
マンションの部屋に帰らない彼がどこにいるかなんて、想像したくない。
クッションを壁にたたきつけた。

「許せない!」

そんな声もむなしく広い部屋に響くだけたった。
次の日の昼過ぎ、彼のスマホの電源が入ったのを確認した。

「……やっとなの?」

寝不足で頭痛がする。
眠れなかった。
当り前よね。
自分の婚約者が昔の女の所にいるかもしれないのよ?
落ち着いてなんかいられないわ。

「島―――?」

GPSを見ると島にいるようで、移動しているところをみるとこれから、こちらに戻る最中のようだった。
いったい、こんなところに何があるっていうの?
いえ、分かりきったことよ。
夏永さんしかいない。
そう思っていると、スマホが鳴った。
SPからだった。

『居場所がわかりましたので、ご報告します。急な仕事だったらしく、朝日奈あさひな建設の方と一緒に島の橋の建設説明会に出席していたそうです』

「そんなわけないでしょう!嘘よ!」

『朝日奈建設の社長からメールが来ていましたので間違いございません』

「そう……」

SPは淡々と報告すると『では』と言って通話を終えた。
朝日奈建設は建設業界トップの大企業。
それは知ってるわ。
でも、SPを騙せても私の女の勘は騙せない。
ここに夏永さんがいる!
間違いないわ。
無職になったあげく、こんな小さな島に逃げ込んで斗翔さんを忘れようとしていたのね。
こんな田舎じゃ仕事も見つからないだろうし、お金にも困っていそうだもの。
手切れ金を渡せば、すぐにとびつくわ。

「簡単よ」

いくらでも払ってあげる。
斗翔さんを手に入れるためのお金だと思えば、安いものよ。
ガチャッとマンションの鍵が開く音がした。
帰ってきた?
走って出て行くと、斗翔さんとお父様だった。
どういうこと―――?

「こら!優奈子!結婚前に相手の所に押しかけるとは何事だ!斗翔君が『お嬢さんが押しかけてきて困っています』と言われなかったら、わからなかったじゃないか!」

「そ、それは」

「まったく!そんな娘に育てた覚えはないぞ!ふしだらな!」

お父様は顔を赤くして怒っていた。
斗翔さんはお父様に言った。

「できれば、仕事中も遠慮していただきたいのですが。集中できずに仕事が遅れていまして」

「もちろんだ!森崎建設に融資を決めたからには赤字では困る!きちんと利益をだしてもらわねばならん。優奈子、お前はしばらく斗翔君の邪魔にならないように近づくな!いいな!」

どうして私が叱られなきゃいけないの?
一晩、昔の女の家で過ごした斗翔さんの方が悪いに決まってるのに!

「待って!お父様!斗翔さんは昔の女のところで浮気をしていたのよ!」

「浮気相手の一人や二人いるものだ」

お父様に愛人は三人いる。
私が言うだけ無駄なことだった。

「それでは、連れて帰っていただけますか」

「もちろんだ。きなさい!優奈子!婚約パーティーまでは連絡だけにしておきなさい。男には仕事が一番大切なんだからな!」

仕事人間のお父様の言うことはいつも仕事、仕事って!
そればかり!

「わかりました……」

悔しい。
だけど、斗翔さんを睨んでも彼は以前の斗翔さんとはどこか違う。
だって、一度も笑った顔を見せたことがないのに笑っている。
まるで、自分が優位だと言わんばかりに。
こんな状況で?
今はまだ私の方が優位よ?
そうよ。
私は夏永さんの居場所を手に入れたのだから。
婚約パーティーまでには別れさせてみせる。
そして、私だけを愛してもらうわよ。
絶対にね―――
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