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24 家族
しおりを挟む「髪をちゃんと乾かしなさいよ!」
夏向はバスルームから濡れた髪のまま、出てきた。
髪をしっかりタオルで拭いていないせいで、びっしょりとしていた。
まるで、水遊びをした犬みたいになっている。
「桜帆、乾かして」
床に水滴を落として、夏向は言った。
「もう!髪はちゃんとふいてって言ったでしょ?ここに座って」
リビングに連れて行き、私の前に座らせるとタオルで髪をふきながら、ドライヤーのスイッチをいれた。
「朝のこと、会社の皆さんにちゃんと謝ってくれた?」
「どうして?」
「あっ…当たり前でしょ!?会社でよ?あ、あんな…醜態をさらして」
「皆、差し入れ、喜んでいたよ」
「差し入れの話じゃないわよっ!」
わざと?わざとなの!?
思い出しただけでも顔が赤くなる。
夏向の髪の毛を乾かしながら、さっきまで読んでいた雑誌をちらりと横眼で見た。
「ねえ、夏向。いつモデルなんてやったの?」
「知ってたんだ……」
「一緒に働いている住吉さんから、雑誌をもらったのよ」
ほら、と雑誌を見せると夏向は嫌そうな顔をした。
「前髪をあげてるけど、誰にしてもらったの?」
「朗久だよ」
社長に!?
「着ているスーツは朗久の奥さんが働いている所の商品なんだ。モデルになってほしいって頼まれたから」
「なんだか、夏向じゃないみたいね」
「恥ずかしい」
「……いつもの行動に比べたら、こっちのほうが恥ずかしくないから安心して」
むしろ、似合っている。
意外にも。
「ひどいなー」
いや、事実だからね……。
「こんな雑誌に載ったら、モデルみたいだし、会社でモテるんじゃない?」
「モテたことない」
夏向が気づいてないだけだと思う。
顔だけはいいからね。
「スーツ姿の夏向もたまにはいいわね」
「スーツは疲れる」
はあ、と夏向は溜息をついた。
髪をとかしながら、もういいかなと思っていると、夏向が真剣な顔をして、私を見ていた。
「なに?」
「桜帆。結婚のこと、考えてくれた?」
ドキッとして、ドライヤーを落としそうになったのをなんとか、こらえた。
「は、早いわね」
「桜帆は考えすぎて一周まわったら、また元に戻るから早く聞かないとね」
余計なお世話よ!
慎重と言ってほしい。
「それで、答えは?」
先延ばしを許さないとばかりに夏向から威圧感を感じた。
「考えたけど……夏向はいいの?倉永の家だって嫌がると思うのよ……」
「そういう難しいこと、全部なくして、桜帆はどうしたい?」
何もかも、全部なくして考えたらそれは―――
「夏向と一緒にいたい」
「そっか!そうだよね!?」
バッと夏向は嬉しそうに振り返り、わーい、と子供の様に体を抱き上げた。
非力なくせにどこにこんな力があるのだろうというくらい軽々と持ち上げてくるくる回った。
「危ないわよっ!」
「ごめん、嬉しくて」
今まで見た顔の中で一番幸せそうな顔で微笑むと、ぎゅっと体を抱きしめた。
「よかった―――」
「え?」
「俺、何もできないから、嫌だと思ってた」
「そんなの昔からでしょ」
今更、そんなことで不安になるの?と思ったけど、夏向は繊細なところがあるから、気にしていたのかもしれない。
「うん」
抱きしめる手に力がこもる。
「ありがとう、桜帆」
「夏向。お礼を言うのは私の方よ。私の家族に夏向はなってくれるんだから」
「桜帆にはカモメの家があるよ」
夏向に言われて、皆の顔が浮かんだ。
「私と夏向が結婚なんて先生がなんていうか」
「そうだね。今度、カモメの家に一緒に行って報告しよう」
「先生達、きっと驚くわよ」
「俺の面倒を桜帆がずっと見ると思うと泣くかもしれないよ」
「そうかもね」
「否定することろだよ」
夏向は不満そうに私の顔を覗き込んだ。
「目を閉じて」
「う、うん」
重なる唇が熱い。
夏向がお風呂あがりのせいか、体からは熱い体温が伝わってきた。
「桜帆、ずっと前から好きだよ」
「知ってるわ」
そう答えると夏向は笑った。
「意地悪だ」
そういう夏向も十分意地悪だからおあいこだと思う。
私に内緒でモデルなんてして。
今になって大人の男の人の顔をするんだから―――
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