23 / 43
23 閉鎖【姫凪 視点】
しおりを挟む
「おはようございまーす」
諏訪部社長は誕生日プレゼントまで買ってくれた。
本当に素敵な人よね。
新品のバッグを手に重役フロアに入ると、副社長の机の周りに重役の方達が集まっていた。
なんだろうと思っていると、机の下で毛布をかぶった副社長が桜帆さんを抱き枕のようにして眠る姿があった。
今まで見たことないくらい幸せそうな顔で副社長は眠っている。
おもわず、手からバッグが滑り落ちてゴトリと重い音ををたてて響いた。
「う…」
桜帆さんがその音に反応し、目を開けると、ぎょっとして起き上がった。
「えっ!?」
「桜帆ちゃん、おはよー」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、重役の方達はその反応を楽しんでいた。
「すっ……すみません……!夏向っ!起きてっっ!!」
桜帆さんが泣きそうな声で副社長を揺さぶり起こすと、腕からすり抜け、全員に平謝りしていた。
「こ、こんな、会社でなんてことを!うっかり眠ってしまって」
「いや、いいよ、いいよ!昨日、副社長はほとんど徹夜だっただろうからさ」
真辺専務がそう言ったけれど、桜帆さんすっかり恐縮してしまっていた。
「ねむいー」
「夏向っっ!眠いとかじゃなくてっ!一緒に謝って!あっ!しっ、仕事に行かないと。本当にすみませんでした」
桜帆さんは顔を赤くして何度もお詫びしていた。
私の横を通り過ぎる時も軽く会釈していたけれど――――すれ違う瞬間、桜帆さんの首すじには赤い痕があった。
誰がつけたかなんて、聞かなくてもわかった。
どこまで私を傷つけるんだろう。
この人は―――
だったら、私にだって考えがあるんだから。
そう思いながら、秘書室に行くと、秘書室の前には備中本部長が待っていた。
秘書室で働いている社員全員が集められ、うつむき青い顔をしていた。
「遅い」
「す、すみません」
「今日から秘書室は閉鎖し、全員、新しい辞令が出るまでは自宅待機とする」
「えっ…じ、自宅待機ですか」
声が震えた。
「昨日、秘書室のパソコンで開いたメールからウィルスが見つかったらしいのよ」
「誰がそんな迂闊な真似を?」
先輩達がひそひそと話していた。
備中本部長は誰がそのメールを開いたか、わかっているようだった。
「今は言えない。悪意あってやったことなら、警察や訴訟も考えている」
麻友子を見ると、ガタガタと震えていた。
私は知らないけど、佐藤君になにか頼まれていたのかもしれない。
「今日はとりあえず、帰宅させて頂きます。申し訳ありませんでした」
先輩達が深々と備中さんに頭を下げた。
それに続き、私も頭を下げて、そっと備中本部長を盗み見た。
怖い顔で私と麻友子を見ている。
私も?
私はメールを開いてないわ。
それに諏訪部さんと会ったのは昨日だけなのに。
どうして、私もにらまれなきゃいけないの。
麻友子が悪いんじゃない?
いつも一緒にいるから、共犯だと思われたのかもしれない。
皆、すぐに帰ったけれど、私は残って本部長に駆け寄った。
「あのっ…私、犯人が誰なのかわかってます」
冷ややかな目で備中さんは私を見る。
「犯人は確かに問題だ。だが、須山さん、君のメールにも問題がある」
「なんでしょう」
「どうして、彼女を唆すようなことを?」
「唆すだなんて!」
「うまく彼女を動かして自分の思い通りにするつもりだったんだろうが。そうはいかない」
「そんなつもりありません!」
「どうだろう。それじゃあ、なぜ、諏訪部で働く佐藤の連絡先を渡した?君しか名刺をもらっておらず、その連絡先を社内メールで彼女に送り、佐藤という男と連絡をとらせた。そして、君は諏訪部社長を狙った。社内メールの履歴を時系列で追うと、君が佐藤と彼女が付き合うように仕向けている。違うかな?」
「……そんな」
「秘書室で気軽にお喋りができなくなったから、社内メールでやり取りをしていたんだろうが。それが仇になったね。消してもメールは復元できるんだ。知っておくといい」
知らなかった……。
私と麻友子はお喋りがばれたくなくて、一日の最後には削除していた。
それを見られた―――全部。
顔が赤くなるのがわかった。
「今日、社長が出張から帰ってくる。それから、どうするか決める。おかしなことをせず、自宅にいるんだな」
さっと私の横を通り過ぎって行った。
どうして―――ひどい―――
そう言いたかったけれど、お喋りの内容をすべて見られてしまったことで、その言葉達を吐き出すことはできなかったのだった。
諏訪部社長は誕生日プレゼントまで買ってくれた。
本当に素敵な人よね。
新品のバッグを手に重役フロアに入ると、副社長の机の周りに重役の方達が集まっていた。
なんだろうと思っていると、机の下で毛布をかぶった副社長が桜帆さんを抱き枕のようにして眠る姿があった。
今まで見たことないくらい幸せそうな顔で副社長は眠っている。
おもわず、手からバッグが滑り落ちてゴトリと重い音ををたてて響いた。
「う…」
桜帆さんがその音に反応し、目を開けると、ぎょっとして起き上がった。
「えっ!?」
「桜帆ちゃん、おはよー」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべながら、重役の方達はその反応を楽しんでいた。
「すっ……すみません……!夏向っ!起きてっっ!!」
桜帆さんが泣きそうな声で副社長を揺さぶり起こすと、腕からすり抜け、全員に平謝りしていた。
「こ、こんな、会社でなんてことを!うっかり眠ってしまって」
「いや、いいよ、いいよ!昨日、副社長はほとんど徹夜だっただろうからさ」
真辺専務がそう言ったけれど、桜帆さんすっかり恐縮してしまっていた。
「ねむいー」
「夏向っっ!眠いとかじゃなくてっ!一緒に謝って!あっ!しっ、仕事に行かないと。本当にすみませんでした」
桜帆さんは顔を赤くして何度もお詫びしていた。
私の横を通り過ぎる時も軽く会釈していたけれど――――すれ違う瞬間、桜帆さんの首すじには赤い痕があった。
誰がつけたかなんて、聞かなくてもわかった。
どこまで私を傷つけるんだろう。
この人は―――
だったら、私にだって考えがあるんだから。
そう思いながら、秘書室に行くと、秘書室の前には備中本部長が待っていた。
秘書室で働いている社員全員が集められ、うつむき青い顔をしていた。
「遅い」
「す、すみません」
「今日から秘書室は閉鎖し、全員、新しい辞令が出るまでは自宅待機とする」
「えっ…じ、自宅待機ですか」
声が震えた。
「昨日、秘書室のパソコンで開いたメールからウィルスが見つかったらしいのよ」
「誰がそんな迂闊な真似を?」
先輩達がひそひそと話していた。
備中本部長は誰がそのメールを開いたか、わかっているようだった。
「今は言えない。悪意あってやったことなら、警察や訴訟も考えている」
麻友子を見ると、ガタガタと震えていた。
私は知らないけど、佐藤君になにか頼まれていたのかもしれない。
「今日はとりあえず、帰宅させて頂きます。申し訳ありませんでした」
先輩達が深々と備中さんに頭を下げた。
それに続き、私も頭を下げて、そっと備中本部長を盗み見た。
怖い顔で私と麻友子を見ている。
私も?
私はメールを開いてないわ。
それに諏訪部さんと会ったのは昨日だけなのに。
どうして、私もにらまれなきゃいけないの。
麻友子が悪いんじゃない?
いつも一緒にいるから、共犯だと思われたのかもしれない。
皆、すぐに帰ったけれど、私は残って本部長に駆け寄った。
「あのっ…私、犯人が誰なのかわかってます」
冷ややかな目で備中さんは私を見る。
「犯人は確かに問題だ。だが、須山さん、君のメールにも問題がある」
「なんでしょう」
「どうして、彼女を唆すようなことを?」
「唆すだなんて!」
「うまく彼女を動かして自分の思い通りにするつもりだったんだろうが。そうはいかない」
「そんなつもりありません!」
「どうだろう。それじゃあ、なぜ、諏訪部で働く佐藤の連絡先を渡した?君しか名刺をもらっておらず、その連絡先を社内メールで彼女に送り、佐藤という男と連絡をとらせた。そして、君は諏訪部社長を狙った。社内メールの履歴を時系列で追うと、君が佐藤と彼女が付き合うように仕向けている。違うかな?」
「……そんな」
「秘書室で気軽にお喋りができなくなったから、社内メールでやり取りをしていたんだろうが。それが仇になったね。消してもメールは復元できるんだ。知っておくといい」
知らなかった……。
私と麻友子はお喋りがばれたくなくて、一日の最後には削除していた。
それを見られた―――全部。
顔が赤くなるのがわかった。
「今日、社長が出張から帰ってくる。それから、どうするか決める。おかしなことをせず、自宅にいるんだな」
さっと私の横を通り過ぎって行った。
どうして―――ひどい―――
そう言いたかったけれど、お喋りの内容をすべて見られてしまったことで、その言葉達を吐き出すことはできなかったのだった。
6
お気に入りに追加
3,924
あなたにおすすめの小説
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる