あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍

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33 向けられた刃

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 デルフィーナが逃亡した――それも、ルドヴィク様の手引きによって。
 ルドヴィク様の関与が判明したのは、見張りの兵士の心をザカリア様が読み、遠くを見ることできるルチアノが、離宮にデルフィーナの姿を確認したためだ。
 でも、私はその知らせに、なぜか違和感を抱いた。
 すべて他人まかせなルドヴィク様。
 そんなルドヴィク様が、自分から行動するなんて珍しい。

「なぜ、デルフィーナを逃がしたのかしら? ルドヴィク様の目的がわからないわ」

 デルフィーナは逃亡したことにより、さらに罪が重くなった。
 彼女のためを思うなら、罪を償うよう説得し、逃亡の手助けをするべきではなかった。
 それに、ルドヴィク様は自分も罪に問われるということをわかっているのだろうか。

 ――わかっていないのでしょうね。 

 思わず、ため息をついた。

「お母様! 安心して! お母様のことは、ぼくが守るよ!」

 私が悩んでいるそばで、ルチアノは剣を構えて見せた。
 ルチアノは張り切って、子供用の剣を手にし、私の周りをうろうろしている。

「ルチアノ。危ないから、剣は片付けて木の棒で練習したら、どうかしら?」
「だめ! 牢屋から逃げたって聞いた! それに、これは練習じゃなくて、ジュストみたいに、お母様を守ってるんだよ!」

 王宮はデルフィーナが逃げた後、大騒ぎになった。
 すぐに、ルチアノは力を使い、事情を察すると、子供用の剣を持ってきた。
 そこからずっと、ジュストの真似をして、私の護衛をしている。
 頼もしいけれど、私としては、ルチアノ自身が護衛される側だということを理解してほしい。

「お母様。どうやって、デルフィーナは牢屋から出て、王宮から逃げられたのかな?」
「隠し通路を使ったのだと思うわ」

 私が逃げた時と同じ方法を使ったのだろう。
 王族しか知らない隠し通路がある。
 それも、王宮で生まれ育ち、国王陛下だったルドヴィク様にとって、忍び込むのは簡単なことだ。
 王としての教育を受けたルドヴィク様は、性格こそ受け身だけど、剣の腕も学問も人並み以上にできた。

「お母様の命を狙うだろうって、みんな、言ってた」
「そう。ロゼッテが気にするといけないから、ロゼッテの前で言わないようにね」
「わかってるよ。今、ロゼッテは侍女たちと、刺繍の練習をするって言ってた。部屋にあったお母様が刺繍したクッションを見て、ロゼッテもやりたいって言い出してさ」

 それで、ルチアノは暇をもて余しているというわけ……
 子供用の剣とはいえ、気になってしまい、まったく仕事が進まなかった。
 賢いけど、やんちゃなルチアノ。
 ザカリア様とジュストのおかげで、剣や乗馬と、毎日体力を消耗させているけど、子供の体力はすぐに回復するから恐ろしい。

「ルチアノ。剣は外で使いましょうか……」

 仕事をするのを諦めて、ルチアノと一緒に部屋の外に出る。
 ザカリア様とジュストが、慌ただしく回廊を歩いていくのが見えた。

「どうしたのかしら?」
「お母様、デルフィーナ様が戻ってきたみたいだよ」

 ルチアノは力を使ったらしく、私に教えてくれた。

「そう……。デルフィーナは罪を償うために、自分から戻ってきたのね」

 ロゼッテのためにも、これ以上、罪を重ねてほしくなかった。
 母親が捕らえられたところを目にしてしまったロゼッテ。
 口には出さないけれど、傷ついているはずだ。

「お母様、見に行く?」
「ええ。ルチアノはここにいてね」
「えっー! お母様を守るって言ったのに!」
「駄目よ」

 侍女を呼び、ルチアノを監視してもらい、その場から離れた。
 不満そうにしていたけど、安全な場所にいてほしい。
 デルフィーナの元へ急ぐ。

「戻ってきた理由は?」
「罪を償うため、戻って参りました」

 ザカリア様とデルフィーナの声が聞こえてきた。
 やっと姿を見ることができた時、デルフィーナはザカリア様たちの前に跪き、頭を垂れていた。

「そうか」

 ザカリア様とジュストは警戒していたけれど、デルフィーナの気持ちを知り、わずかに緊張を緩めた。
 私もホッとしていた。
 ロゼッテが、ルドヴィク様が拒み、デルフィーナが逃げたと知れば、どれだけ傷つくか。
 耳に入らないよう注意を払っているけれど、王宮内で噂になっているから、知っているかもしれない。
 けれど、デルフィーナが帰ってきたと知れば、きっと喜ぶ。

「デルフィーナ。ロゼッテは元気でいる……」

 元気でいるわよと、教えようとしたその時。
 デルフィーナがドレスの中に、隠し持っていた物が見えた。
 それは銀色の刃――デルフィーナの手には短剣が握られていた。
 その刃はザカリア様へ向けられている。

「ザカリア様っ!」

 私の叫ぶ声に気づいたデルフィーナは一瞬だけ、こちらを見た。
 けれど、デルフィーナは止まらなかった。
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