あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍

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23  目指せ、復縁! ※ルドヴィク

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 俺は妻を愛していた。
 そうだ。
 セレーネを愛していたのだ。
 仲睦まじかった過去を振り返る。
 俺とセレーネが結婚した年のワインが注がれたワイングラス―ーそれを手にし、感傷に浸っていた。

「俺たちは、どこかで道を間違ったんだな」

 今も間違いだらけか……
 セレーネに贈り物を受け取ってもらえなくなった。
 そのため、俺は考えた末に、セレーネへの愛を綴った言葉を書いたカードを贈ることにした。

「詩なら得意だ」 

『薔薇の花を毎日眺めている日々に別れを告げ、野の花を愛でただけで君の心が離れていくとは思わなかった』(以下略)

 なかなか、いい感じにできた。

「よし、これをセレーネに届けろ」

 侍女に命じ、カードを届けさせた。

「セレーネ様からのお返事です」
「早いな。そんなに俺からのメッセージを楽しみにしていたとは」

 まったく、素直ではない女だ。
 セレーネめ、焦らすのがうまい。
 立派なカードの返信が、なぜかメモ用の紙だった。

『薔薇の花を愛でる生活をやめ、質素に暮らす気持ちになられたようで、安心しました』

 なぜか、俺が節約生活を送ることになってしまった。
 俺の愛のメッセージが、生活報告メッセージに勝手に変えられている?

「もっと、はっきり伝えなくてはいけないようだな」

『自由に飛ぶ鳥を捕まえるように、セレーネ、君を捕まえたい』(以下略)  

 侍女に渡したが、その侍女の目が心なしか、哀れんでいるように見えた。
 いや……、俺の気のせいだろう。

「セレーネ様からのお返事です」
「うむ。寄越せ」

 セレーネの返事を受け取る。
 さっきより、小さなメモ紙になっていた。
 文字数も減っている。

『警備を増やします』 

「なぜだ!?」

 まったく伝わっていないようだ。
 セレーネが駄目なら、息子だ!
 部屋を出て、ルチアノを探す。

「ルチアノ……」

 声をかけようとしたその時、ルチアノのそばに、ザカリアの姿が見えた。

「ザカリア様は船に乗ったことはありますか?」
「ある」
「いいなぁ。ぼくも乗ってみたいです」
「まず、泳ぎを覚えてからだ」
「まだ泳げません……」
「来年の夏、泳ぐ練習をしよう」
「はいっ」

 ルチアノとザカリアは、まるで親子のようだった。
 心から信頼されているのが、目に見えてわかる。 

「船を造っているところも見に行くか。見ておいて損はない」
「わぁ、船! 行きたいです!」

 弟は人に興味がないのだと思っていた。
 人間嫌いだから、王宮にやってこないのだと……
 幼い時、王宮から出ていった時のザカリアは、表情ひとつ変えず、暗い顔で大人たちに囲まれていたのを覚えている。
 俺を守るため、王宮の人間はザカリアを捨てたのだ。
 だが、今、捨てられたのは――

「ザカリア様、ぼくが王さまになっても、そばにいてくれますよね?」
「ああ。ルチアノが望むなら」
「よかった! 不安だったんです。ぼく、まだ小さいでしょう? お母様を守れないから」

 ――俺だ。
 ルチアノは、俺からセレーネを守ろうとしているのか。
 生まれて初めて自分から、誰かに信頼されたいと思った。

「おい! ルチアノ!」

 ルチアノがザカリアではなく、俺を見る。
 そうだ!
 信頼がないのなら、まず、信頼関係を築くところから始めればいいのだ!

「なにか欲しいものはないか? なんでも買ってやろう」

 きょとんとした顔で、突然現れた俺を見る。

「ぼく? ぼくですか? 買ってほしいものは、なにもないです」

 セレーネに厳しく言われているのか、どうやら遠慮して、欲しいものを言わないつもりのようだ。
 まったく、あいつは厳しすぎる。

「ルチアノ。買ってほしいものがなければ、兄上に頼みたいことでもいいんだぞ?」

 ザカリアが俺を助けるとは珍しい。
 しかし、ナイスアシストだ。

「俺がなんでも叶えてやろう」
「なんでも……!」

 ルチアノはまだまだ子供だ。
 なんでもいいと言われて、目を輝かせた。

「それじゃあ、欲しいものを言ってもいいですか? 国王陛下にしかできないお願いなんです」
「うむ。俺にしかできないなら、なおさら、叶えてやろうという気になるな。言ってみろ! さあ!」
  
 ――ザカリア、残念だったな。  

 父と息子の血の繋がりには、勝てないようだぞ?
 勝利を確信したその時。

「ぼくに王さまの位をください」
「お、王っ……!?」

 ザカリアが笑っている。
 だが、ルチアノは笑っていない。

「ぼくが一番欲しいものなんです」

 ルチアノは期待を込めたまなざしを俺に向けている。
 駄目とは言いづらいが、さすがに王位はやれない。
 王でなくなった俺など、なにをして生きていけばいいのだ。

「わかった。ただし、セレーネが俺の妻になるのなら、お前に王位をやろう」

 ルチアノは返事をしなかった。
 驚いた顔をし、ザカリアの手を握りしめていた。

「兄上。それはセレーネに言うべきであって、ルチアノに言うことではない」

 ザカリアは、強張った顔をしたルチアノをひょいっと抱きかかえた。

「ルチアノ、気にするな。焦らなくても、いずれお前が王になる」

 さっきまでの元気のよさが消え、ルチアノは無言のまま、ザカリアと共に去っていった。

「俺はお前の父親じゃないのか……?」

 その問いに答える人間はいなかった。
 俺の周りには、人がいなかった。
 護衛すら――王のはずが、いつのまにか、王ではなくなっていた。
 名前だけの王になっていたのだった。
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