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24 仕組まれたパーティー
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『ルチアノとロゼッテのマナーの練習のため、身内だけでパーティーを開きましょう』
デルフィーナから、そんな内容の招待状が部屋に届けられた。
もちろん、ザカリア様にも。
断るのもおかしいし、なにより、全員で食事なんて珍しい。
「ごちそうかな? 贅沢してもいいの?」
王宮に来て、すっかり質素倹約が身に付いてしまったルチアノ。
「え、ええ……。たまには、いいと思うの」
――ちょっとルチアノに言い聞かせすぎたかもしれない。
それに、ルチアノとロゼッテが仲良くするのは悪いことじゃない。
ロゼッテも最近では、ルチアノになついているし、二人でいる時は楽しそうだ。
子供同士の関係に水を差したくないという思いもあって、晩餐会を引き受けた。
「セレーネ様の青いドレス、とても素敵ですね」
「ザカリア様が領地から取り寄せたドレスの生地。とても素晴らしいと、仕立て屋が褒めていらっしゃいましたよ」
ザカリア様の領地から一緒にやってきた侍女たちは、パーティーと聞いて、はしゃいでいた。
向こうでは、華やかなパーティーがなかったから、侍女たちが盛り上がるのも無理はない。
でも――
「ザカリア様。申し訳ないですわ。私のドレスは、持っているドレスでよろしかったのに……」
「後見人は?」
「ザカリア様です」
「そういうことだ」
――どういうことなの……?
そう思ったけど、ザカリア様があまりに堂々とした態度だったため、聞けなかった。
ルチアノは、刺繍されたベストを興味深そうに眺めていた。
そういえば、ルチアノが豪華な刺繍入りのベストを着るのは初めてだ。
ザカリア様のパーティー用の盛装姿も初めて見た。
紋章入りのボタンを面倒そうに留めながら、憂鬱そうな顔をしていても――
「セレーネ? どうした?」
「いえ、なにもっ……」
侍女たちは、私をにこにこしながら、見つめていた。
「セレーネ様は、ザカリア様に見惚れていたんですよね」
「わかりますよぉ~! 普段着とは違う盛装のギャップ! つい、ときめいてしまう女心!」
ひそひそと耳打ちしてくる侍女たち――ザカリア様のほうは、気づいていないのに、なんて勘のいい侍女たちだろう。
「セレーネ様も海の妖精みたいに美しいですよ!」
「ザカリア様と並ぶと、とてもお似合いで、うっとりしてしまいます」
それを聞いたルチアノが、にっこり微笑んだ。
「うん。お母様とザカリア様の結婚式みたいだね!」
「ルチアノ!」
慌てて、ルチアノの口を塞いだ。
――気まずい。
そう思ったのは私だけだったのか、ザカリア様は何事もなかったように、私の手をとった。
「セレーネ。俺がエスコートしよう」
「で、でも……」
「ルチアノの勉強もかねて。レディをエスコートできないと、困るだろう?」
「え、ええ……」
変に意識する私がおかしい。
ザカリア様は親切でエスコートを申し出てくれているのだから、ここは素直にお礼を言うだけでいいはず。
「ザカリア様。ありがとうございます」
微笑むと、なぜか、次はザカリア様が動揺していた。
「いや……」
「お母様、綺麗だよね」
ルチアノがにこにことした顔で、笑いながら言ったかと思うと、どこか遠くを見るような目をした。
「――うん。お母様のほうが綺麗だよ」
なにかを見たであろうルチアノの言葉に、私は気がついた。
もしかして、内々のパーティーではないのでは、と。
「たくさんの人が大広間に集まってきてる」
ルチアノの目には、今日のパーティー会場が見えるのだろう。
デルフィーナは、私に恥をかかせるつもりで、このパーティーを開いたのだ。
――いいえ、デルフィーナの狙いは、私だけではない。
質素なドレスを着た私たち親子を笑い者にするつもりだったのだ。
「セレーネ様! 笑顔ですよ、笑顔!」
「怖い顔になってます!」
侍女たちが部屋を出る時、声をかけてくれた。
「ザカリア様とセレーネ様が並んでいたら、国王陛下夫妻だって、敵いません!」
「ぼくは!?」
「ルチアノ様も」
ついでのように足されたからか、ルチアノは頬を膨らませていた。
「そうね。負けないわ」
信頼できる侍女たちを王宮に連れてきて、正解だったと思った。
大広間に入ると、七年前と変わらない世界が広がっていた。
懐かしく感じる。
「セレーネ様よ!」
「お隣にいるのって、ザカリア王弟殿下ではなくて?」
「美男美女で素敵ねぇ」
「こう言ってはなんだけど、国王陛下夫妻が霞んでしまうわね」
遠慮のない言葉の数々に、デルフィーナの権力が弱まっているのを感じた。
私は昔と同じように微笑んで挨拶をする。
「お久しぶりですね。皆様、お元気でいらしたようで嬉しく思いますわ」
懐かしい顔ぶれが揃っていた。
私とルチアノが参加すると聞いて、お妃候補時代に、私と仲の良かった令嬢たちが集まってくれたようだ。
「セレーネ様がお帰りになられるのを待っていましたわ」
「七年前からお変わりなく、美しくて羨ましいですわ。わたくしなど、子供を産んでから、体型が変わってしまって」
彼女たちは、すでに令嬢ではなく、嫁いで夫人になっていた。
「ちょっと! あなたたち! まずは、王妃であるわたくしに挨拶するべきじゃなくて?」
不機嫌そうな顔をしたデルフィーナが、ロゼッテを連れて近寄ってきた。
ロゼッテは、ビクビクして怯えている。
「ロゼッテ王女? どうかなさったの?」
「ロゼッテに近寄らないでちょうだい! セレーネがこの子を殺したいと思っているから、怯えているのでしょ!」
「そんなこと考えていないわ」
「ロゼッテは心を読めるのよ。ねえ? ロゼッテ、セレーネがあなたを殺そうとしているのよね」
『王女を殺そうとしている』
根拠のない言葉なのに、その言葉は噂話のひとつとして、広がっていく。
デルフィーナの狙いはこれだったのだとわかった。
私を全員の前で、王女を殺そうとしている恐ろしい女だと、印象付けるためにパーティーを開いたのだ。
七年前と同じ、私の評判を落とそうとしていた。
デルフィーナから、そんな内容の招待状が部屋に届けられた。
もちろん、ザカリア様にも。
断るのもおかしいし、なにより、全員で食事なんて珍しい。
「ごちそうかな? 贅沢してもいいの?」
王宮に来て、すっかり質素倹約が身に付いてしまったルチアノ。
「え、ええ……。たまには、いいと思うの」
――ちょっとルチアノに言い聞かせすぎたかもしれない。
それに、ルチアノとロゼッテが仲良くするのは悪いことじゃない。
ロゼッテも最近では、ルチアノになついているし、二人でいる時は楽しそうだ。
子供同士の関係に水を差したくないという思いもあって、晩餐会を引き受けた。
「セレーネ様の青いドレス、とても素敵ですね」
「ザカリア様が領地から取り寄せたドレスの生地。とても素晴らしいと、仕立て屋が褒めていらっしゃいましたよ」
ザカリア様の領地から一緒にやってきた侍女たちは、パーティーと聞いて、はしゃいでいた。
向こうでは、華やかなパーティーがなかったから、侍女たちが盛り上がるのも無理はない。
でも――
「ザカリア様。申し訳ないですわ。私のドレスは、持っているドレスでよろしかったのに……」
「後見人は?」
「ザカリア様です」
「そういうことだ」
――どういうことなの……?
そう思ったけど、ザカリア様があまりに堂々とした態度だったため、聞けなかった。
ルチアノは、刺繍されたベストを興味深そうに眺めていた。
そういえば、ルチアノが豪華な刺繍入りのベストを着るのは初めてだ。
ザカリア様のパーティー用の盛装姿も初めて見た。
紋章入りのボタンを面倒そうに留めながら、憂鬱そうな顔をしていても――
「セレーネ? どうした?」
「いえ、なにもっ……」
侍女たちは、私をにこにこしながら、見つめていた。
「セレーネ様は、ザカリア様に見惚れていたんですよね」
「わかりますよぉ~! 普段着とは違う盛装のギャップ! つい、ときめいてしまう女心!」
ひそひそと耳打ちしてくる侍女たち――ザカリア様のほうは、気づいていないのに、なんて勘のいい侍女たちだろう。
「セレーネ様も海の妖精みたいに美しいですよ!」
「ザカリア様と並ぶと、とてもお似合いで、うっとりしてしまいます」
それを聞いたルチアノが、にっこり微笑んだ。
「うん。お母様とザカリア様の結婚式みたいだね!」
「ルチアノ!」
慌てて、ルチアノの口を塞いだ。
――気まずい。
そう思ったのは私だけだったのか、ザカリア様は何事もなかったように、私の手をとった。
「セレーネ。俺がエスコートしよう」
「で、でも……」
「ルチアノの勉強もかねて。レディをエスコートできないと、困るだろう?」
「え、ええ……」
変に意識する私がおかしい。
ザカリア様は親切でエスコートを申し出てくれているのだから、ここは素直にお礼を言うだけでいいはず。
「ザカリア様。ありがとうございます」
微笑むと、なぜか、次はザカリア様が動揺していた。
「いや……」
「お母様、綺麗だよね」
ルチアノがにこにことした顔で、笑いながら言ったかと思うと、どこか遠くを見るような目をした。
「――うん。お母様のほうが綺麗だよ」
なにかを見たであろうルチアノの言葉に、私は気がついた。
もしかして、内々のパーティーではないのでは、と。
「たくさんの人が大広間に集まってきてる」
ルチアノの目には、今日のパーティー会場が見えるのだろう。
デルフィーナは、私に恥をかかせるつもりで、このパーティーを開いたのだ。
――いいえ、デルフィーナの狙いは、私だけではない。
質素なドレスを着た私たち親子を笑い者にするつもりだったのだ。
「セレーネ様! 笑顔ですよ、笑顔!」
「怖い顔になってます!」
侍女たちが部屋を出る時、声をかけてくれた。
「ザカリア様とセレーネ様が並んでいたら、国王陛下夫妻だって、敵いません!」
「ぼくは!?」
「ルチアノ様も」
ついでのように足されたからか、ルチアノは頬を膨らませていた。
「そうね。負けないわ」
信頼できる侍女たちを王宮に連れてきて、正解だったと思った。
大広間に入ると、七年前と変わらない世界が広がっていた。
懐かしく感じる。
「セレーネ様よ!」
「お隣にいるのって、ザカリア王弟殿下ではなくて?」
「美男美女で素敵ねぇ」
「こう言ってはなんだけど、国王陛下夫妻が霞んでしまうわね」
遠慮のない言葉の数々に、デルフィーナの権力が弱まっているのを感じた。
私は昔と同じように微笑んで挨拶をする。
「お久しぶりですね。皆様、お元気でいらしたようで嬉しく思いますわ」
懐かしい顔ぶれが揃っていた。
私とルチアノが参加すると聞いて、お妃候補時代に、私と仲の良かった令嬢たちが集まってくれたようだ。
「セレーネ様がお帰りになられるのを待っていましたわ」
「七年前からお変わりなく、美しくて羨ましいですわ。わたくしなど、子供を産んでから、体型が変わってしまって」
彼女たちは、すでに令嬢ではなく、嫁いで夫人になっていた。
「ちょっと! あなたたち! まずは、王妃であるわたくしに挨拶するべきじゃなくて?」
不機嫌そうな顔をしたデルフィーナが、ロゼッテを連れて近寄ってきた。
ロゼッテは、ビクビクして怯えている。
「ロゼッテ王女? どうかなさったの?」
「ロゼッテに近寄らないでちょうだい! セレーネがこの子を殺したいと思っているから、怯えているのでしょ!」
「そんなこと考えていないわ」
「ロゼッテは心を読めるのよ。ねえ? ロゼッテ、セレーネがあなたを殺そうとしているのよね」
『王女を殺そうとしている』
根拠のない言葉なのに、その言葉は噂話のひとつとして、広がっていく。
デルフィーナの狙いはこれだったのだとわかった。
私を全員の前で、王女を殺そうとしている恐ろしい女だと、印象付けるためにパーティーを開いたのだ。
七年前と同じ、私の評判を落とそうとしていた。
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