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22 私が育てますので、ご遠慮ください

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 ――最近、元夫から、贈り物が届く。
  
  いったい、どういうつもり?

「国王陛下から花が届きました」
「食べられそうなら、ジャムにして、町の人々に配りましょう」

 今日は花のようで、部屋にどんどん運ばれる。

「国王陛下が見立てたドレスでございます」
「どこのお店かしら? 返品できるなら、返品して。できないなら、売っていただける?」

 お金があるなら、他に回してほしい。
 無駄遣いしている場合ではないと、ルドヴィク様も、そろそろわかっているはずなのに……
 
「お母様。ぼく、早く王さまになれるよう頑張るよ」

 ルチアノは呆れた様子で、贈り物を眺めていた。
 ある意味、ルチアノにとって、反面教師として、学びに繋がっているかもしれない。

「あ、陛下が来るよ」

 ルチアノが力を使って、部屋へ近づく人間を前もって教えてくれる。
 
「追い返しますか?」

 ジュストは、ルドヴィク様を追い返すつもりらしく、扉の前に立ちふさがった。

「いいえ。いい機会だわ。贈り物攻撃を止めていただくようお願いしましょう。仕事の邪魔になりますから」
「そうですね」

 侍女たちは黙々と、大量の花を厨房へ運んでいく。(ジャムにするため)
 これだけでも、他の人間の仕事の邪魔になる。
 いっそ、音楽でも聴いて、おとなしくしてもらっていたほうが、周囲も助かるのでは……

「セレーネ。贈り物はどうだ」

 ルドヴィク様は、私が喜んでいると思っているようだ。

「贈り物ですが、やめていただきたいのです」
「なんだと!?」
「私費でなさる分なら、受け取りますが、国庫からお金を出すのは困ります」

 ショックを受けているようだけど、私のほうがショックだ。
 国庫を潤すべく、王宮内の物を売って、金策しているのに、そのお金を使われてしまったのだから。

「どうしても、贈り物をされたいというのでしたら、小麦粉(炊き出しのために)やレンガ(家の修復のために)のほうが、ありがたいですわ」
「では、ルチアノのために、なにか贈ろう」
「結構です。お気持ちだけいただきますわ」
「俺はルチアノの父親だぞ。父親が息子に贈り物をしてなにが悪い」

 私に見向きもせず、デルフィーナのいいなりになること七年。
 国王陛下でなかったら、ジュストに頼んで部屋から叩き出していたかもしれない。

「血の繋がりだけで言えば、父親でしょうけど……。ルチアノとルドヴィク様は、今まで関り合いのない、まったくの他人ですわ」
「初対面どころか、まだ話もしていないのに父親面とは、なかなか図々しいですな」

 ジュストが、いつでも追い出しますよという顔で、ルドヴィク様のそばに立っていた。

「で、では、ルチアノ。父と会話をしようではないか!」
「ぼく、王さまになるための勉強中なんです。他の人とおしゃべりしてもらってもいいですか?」

 ロゼッテと一緒に受ける授業の他に、ルチアノが学びたい分野の先生をつけさせてもらっている。

「それに今日は、先生の課題が終わったら、ザカリア様と遠駆けに行く約束をしてるんです。早く終わらせないといけないので、これで失礼します」

 ルチアノは天気のいい外を眺め、ウキウキしながら、違う部屋へ入っていた。
 ジュストがいるから、安心だと思ったのだろう。
 ルチアノは一人前の顔をして、私の護衛のようにそばにいる時がある。
 あの子の聡明さには、母親である私でさえも驚いてしまう。

「ルチアノをザカリアに近づけさせるな! あんな危険な男と我が子を共に行動させるとは、どういうつもりだ!」
「ザカリア様が危険? あの子がお腹にいた時から、ザカリア様はルチアノを守ってくださっていました」
 
 ルドヴィク様が言葉に詰まる。

「ジュストもです」
「もったいないお言葉でございます」

 うやうやしくジュストがお辞儀する。

「ルチアノには、血が繋がっているだけの父親は必要ありません」
「このっ……!」

 殴りかかろうとしたルドヴィク様をジュストが止める。

「無礼だぞ!」
「セレーネ様の護衛ですので」

 ルチアノがいなくてよかった。
 血が繋がっているだけとはいえ、父親のこんな姿を見たくないだろう。

「ルドヴィク様。ルチアノのためを思うなら、贈り物などではなく、国王らしい姿をあの子に見せてください。もし、それができないなら……」
「できないなら?」

 ジュストに手を掴まれたまま、ルドヴィク様は聞き返す。

「ルチアノに近づかないでください」
「セレーネ、貴様っ!」

 ジュストは、ルドヴィク様を部屋の外まで連れていく。

「お前など、俺の妻じゃない! 二度と妻にしないぞ!」
「当たり前でしょう。もう別れているのに、妻だなんて思われたくありません」

 私が妻でもなんでもない相手だという、その事実さえ、ルドヴィク様は忘れてしまったのだろうか。

 ――もしかして、私が復縁を望んでいると思われた?

 ここで、しっかり言っておこう。

「復縁はお断りです」

 ルドヴィク様は酸欠した魚のように、口をパクパクさせていた。
 そんなルドヴィク様を無視して、ジュストは容赦なく扉を閉めた。

「どうやら、セレーネ様を王妃にし、国王の地位に居座ろうと考えていたようですね」
「これで、私の気持ちが通じたでしょう」
「どうでしょうか。恥を知らないようですから、まだ続くのでは?」

 そんなわけないわ、と笑ったけれど、ジュストの意見が正しかった。
 ルドヴィク様のほうが、ある意味、デルフィーナよりも厄介な相手となったのである。
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