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第三章 女王イリスの誕生

18話 「魔王エリカの四天王」

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魔王エリカ軍と魔王ミノタウルス軍の戦いも佳境に入った。
とは言え大まかには魔王エリカ軍の勝利で残るはミノタウルス王と黒騎士マクシム君のどつき合いを残すのみなのだが・・・

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
もの凄い雄叫びが戦闘中より遥かに遠くまで響いている・・・

「もの凄い戦いになっている・・・」

「ああ・・・早く帰って軍団長に報告に行こうぜ・・・」

「いや、目で確認しなくて良いのか?」

「おいおい、あんな中に行くってのか?」

兵士が指差す方向の空は魔物達の放出する魔力で空間が歪みプラズマ現象が起こっているのだ。

「戦闘状態を確認するまでも無く、凄惨な殺し合いをしているに決まってるっての」
兵士がそう言った途端に・・・

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!とまた雄叫びが聞こえて来る。

「・・・・・ゴクリ・・・ああ・・・そうだな・・・その通りだ」

自分達の支配圏のすぐ側での戦争なので魔族(スペクター)の斥候が偵察に来ていたが約2万体の高位魔物の雄叫びにビビって引き返して行く。

こうして魔王エリカは計からずとも魔族上層部には間違った情報が送られて魔王バルドルの計画通りにヴィグル帝国への侵攻計画は変更させる事に成功するのだった。

さて、件の雄叫びの元では何が起こっているのか?

「いけーーーー!!黒騎士!ぶっ飛ばせーーー!!」
トトカルチョで黒騎士に賭けた「ミノタウルス王直属の兵士」が黒騎士に声援を送る。

「おおい!我らが王の応援をせんかい!!」

「じゃあお前はどっちに賭けたんだよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・黒騎士」

「だろ?」

「がぁーーーーーははははははははは!!酷いのお!お前らは!がはははははははは」
自分の配下の兵士達の酷い声援を聞いて大笑いするミノタウルスの王様。

笑っているが既にボロボロになって足元もおぼつかなくなっている。

「素晴らしい戦いであったぞミノタウルスの王よ!!!」
こちらもボロボロになっているが幾分余裕がある黒騎士マクシム君。

何せ彼らは3時間以上ひたすら殴り合いをしていたのだ・・・アホの子かな?

「うむぅ・・・さすがに我ももうこれ以上は戦えぬ!
これで最後だ!我が渾身の一撃を喰らうが良いぞ黒騎士!!」

ミノタウルス王は腰を落として「気力」を練り上げる!ミノタウルスは「気力」の使い手なのだ!正しく脳筋!

「良かろう!来るが良い!受けて立とう!!」
対する黒騎士マクシム君も腰を落として「魔力」を練り上げる!

《!!!!ああーーー!!全員退避ーーー!!!周囲500m以上圏外に退避ーーー!!》

アホですか?と言いたくなる様な2人が放つ馬鹿デカい魔力と気力が激突すれば半径500mは吹き飛ぶ事を察知した魔力エリカが叫ぶ!

ワアアアアアアアアーーー!!エリカの叫びに蜘蛛の子散らす様に一斉に逃げ出す2万体を超える魔物の野次馬達、ほぼスタンピュートである。

そして野次馬達の退避が完了した途端に・・・

ズドオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!
極大魔法数発分に匹敵する大爆発が起こったのだった。

凄まじい爆風に《うきゃあああああ?!?!馬鹿ぁああああ!!》
空を飛んでいたグリフォン達が吹き飛ばされる。
そして地上にいる者達もコロコロと地面を転がっている。

結局、アホ2人のせいで戦闘によって発生した怪我人以上の怪我人を出す羽目になったのだ。


そして大爆発から10日後・・・


「がぁーーーーーはははははは!!完治しましたぞエリカ様!がはははははは」
まだ全身包帯塗れだが元気いっぱいのミノタウルス王。

《そう・・・元気になって何よりだわ・・・》
味方の雷撃を喰らいまくり、トドメに爆風によって岩に叩きつけられた魔王エリカは未だに巣の中で寝込んでいる。

仲間のグリフォンを守る為に自らが盾になったのだ!偉いぞエリカちゃん!

《キュウウウンン・・・キュウウウンン》身体中が痛くて悲しそうに鳴くエリカ。
人間の姿になれば若干回復が早いのだが、魔王が人間の姿ではイマイチ頂けないので我慢している。

「元気を出すが良い我が主よ!我が良い話しを持って来たぞ!」
こちらもボロボロだが元気いっぱいの黒騎士マクシム君、兜がブッ壊れたので素顔のままなのだ。
黒騎士の設定・・・要ります?

《・・・なんですかマクシムさん?》もう面倒くさいので普通にマクシム君呼びのエリカ。

「うむ!この度、魔王エリカの四天王を設立する事にした!」

《え?!四天王?!》何言ってんだコイツ?状態のエリカ。

「うむ!やはりミノタウルスを従えた魔王の以上は四天王を持たねばならぬ!》

《・・・・・・》いよいよ「ウーパールーパー」を見る目になるエリカ。
そもそも魔王エリカがミノタウルスを従えた訳では無く、ミノタウルスは魔王バルドルの傘下になったのだ。

百歩譲っても同じく魔王バルドルに従う「同僚魔王」と言える。
《それなのに何で私の四天王なのですか?》訳が分からないエリカ。

「がははははは!!謙遜なさいますなエリカ様!
エリカ様の采配が無ければ我らが負ける事はありませんでしたからな!」

《それは・・・まぁ・・・はい》
自分の采配が勝利の要因になったのは認めるがミノタウルスを従えたとは思えないエリカ。
だってマクシム君が居なかったら最終的にはミノタウルス王に負けていたからね。

「何よりも己の身体を張って同族を守る気概!感服しましたぞ!」

《それも・・・まぁ・・・はい・・・私は魔王ですので臣下を守る義務が有りますので》

「なので我はエリカ様の臣下になりたいと思っております!」
なんかミノタウルス王に懐かれてしまったエリカ。

《でも私は「ミノたん」より弱いですよ?》
思わずミノタウルス王を自分の心の呼び名で呼んでしまったエリカ。

「おお!「ミノタン!!」それが我が名なのですな!」
そしてミノタウルス王が「名付け」を了承したしまった?!

するとエリカと「ミノタン」の身体が発光して2人の魂が繋がる、この場この時、ミノタウルス王のミノタンは魔王エリカの「眷属」になったのだ!

《うええええーーー?!私の方が弱いのに何でぇええ?!》大混乱のエリカ。

「・・・主よ、名付けによる眷属化にはお互いの強さは余り関係ないぞ?」

《そうなのーーーー?!》

「うむ!大事なのは我がエリカ様に仕えたいと願う心なのです!
そしてエリカ様は我にミノタンの名を贈る事で契約が成立したのですな!」

《えええええ????》

「素晴らしい!これで魔王エリカの四天王の設立に何の支障もあるまい!
黒騎士、赤騎士、勇者ロテール、ミノタン、この4名で四天王を名乗ろうではないか!」

《え?!私?!私とマクシムはダメよ?》
黙って話しを聞いていたエリカ治療中の赤騎士ヴァシリーサが待ったを掛ける。

「何だ?エリカでは不服なのか?ヴァシリーサよ」

「エリカがどうこう言うより私も貴方も「魔王バルドルと真名の契約」を結んでいるのよ?
他の魔王に仕えるのは重大な契約違反で魂に深刻な傷が付くからダメよ?」

魔物同士の契約はそう簡単には覆らないのだ。
ましてや魔王バルドルと四天王の契約は「真名を共有する契約」で最高峰の契約だ。

「ムウ・・・そうだったな・・・残念だ」
いかに理不尽魔王のマクシム君でも真名の契約上での無理を悟って諦める。

《・・・・・ほっ》自分の四天王の設立などと言う話しが流れてホッとするエリカ。

「では!暫くの間は新たな四天王を探す為の戦いになるな!」
しかしここで終わらないのがマクシム君、また変な事を言い出す。

「それは良いな黒騎士よ!候補はおるのか?!」
それに同調するミノタン、ちなみに勇者のロテール君はエリカに潰されて寝込んでいるのでここには居ない。

《え?あの?あの?》まだ四天王を諦めない2人にオロオロするエリカ。

「うむ!やはり価値観を共有出来る者でなければな・・・そうか!「ベヒモス」か!」

《いやぁあああああ!!ダメ!ダメダメ!ベヒモスさん達はらめぇえええ》
エリカもベヒモス達を良く知っているので彼らの強さを熟知している。

そして結論・・・絶対に無理っす。勝てねえっす・・・だ。

「そうだな・・・いくら何でもエリカではベヒモスは厳しいか・・・」
マクシム君も思い付いた事を言って見ただけで本気ではない様子だ。

《そうでしょう、そうでしょう》コクコクと頷くエリカ。

「では!「九頭竜王」か「紫虫王」だ!これしかない!」

《余計に悪化してんじゃねえか!いい加減にしろーー!絶対に死ぬわぁああ!!》
黒騎士マクシムの無茶振りに涙目で絶叫する魔力エリカだった。

「黒騎士よ・・・せめてエリカ様を殺さぬ現実的な案を出してはくれぬか?」
マクシム案にはさすがのミノタンもドン引きしていた。
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