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聖女(?)
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「それで、聖女(仮)の方はどうでしたか?」
「……疲れる」
アルベルトも書類が終わったようで、対面のソファに座って新しい紅茶を入れた。
かなり嫌そうな声で重たいため息を吐いていて、よっぽど疲れたことを感じさせる。
「魔法省の奴らが、聖女を連れて王の前に赴いたんだ。王は儀式が成功したことに安堵して、聖女の面倒をそのまま魔法省に任せようとしたんだが……何故か聖女が【私の面倒は王子様が見るんでしょ?】って言い出した。」
「……?」
「そう、王様の横に立ってた俺も、第1王子も第2王子も王も妃も皆その顔だった。なんで?ってな。魔法省のヤツら目に見えて狼狽えまくってたぞ。」
……渡辺凛凄いな。初めて会った人、しかも異世界の国の王様にそんな事言えるなんて……。
渡辺凛は、同じクラスの生徒で所謂、カースト一位軍の女子だ。自分が仕切りたいし、1番目立つのも自分という主義なので、色んな意味で目をつけられやすい。
「それで、どうなったんですか?」
「とりあえず、第1王子は立太子でもあるから却下だろ。第2王子も公務があるが、少し他の奴らに回すことにして暫くは聖女の面倒を見ることになった。」
「……はぁ。」
「それで話がまとまった後、部屋へ出ようとした時に聖女は俺を指さしたんだ。【あの人騎士よね?私の専属あの人でいいよ】って。」
「…はぁ?」
「流石にそれは王も反対した。聖女には聖女専属がもう割り振られているからと。聖女は少しむくれていたが、第2王子にドレスを選びに行こうとエスコートされると大人しく出てったぞ。その後もドレスの好みはうるさいわ、アクセサリーやティアラも欲しがったとまぁ、初日からそんなんだ。」
「……先が思いやられますね。」
「…まぁ、な。第二騎士団何名かが聖女の護衛に当たることになった。その後、もう1人の召喚者、つまりマオのことも報告され、マオはギルが連れてったと聞いたから、第一騎士団で預かると伝えてある。」
連れていかれたというか、魔法省?の人に置いていかれたんだけど。まぁ、ギルバートで良かったから今はもういいけど。
「わかりました。一応、第二騎士団が人手不足になった場合の部隊を決めておきましょう。何があるか分かりませんが先にやっておく方がいいですね。
それとマオについてですが、無理やり召喚された被害者にも関わらずその場に放置した魔法省にはそれなりの制裁を与えますので。
そして、今更マオの面倒を見るとどこの馬鹿がほざいても渡しませんので。絶対に第一騎士団で守り抜きます。いいですね?」
「……もちろん。たく、一日でギルをこれだけダメにするなんて恐ろしい可愛さだな。……マオ、俺とも仲良くしろよ?」
顔は少し怖いけど、笑うと優しい人だと思う。
多分、仲良くなれるかも?わかんないけど。
一応頷いて見せた。
○
☆アルベルト視点
なんか無性に疲れたと思いながら兵舎へ向かった。
今回の儀式で召喚された聖女は、かなりの性格のようだ。一度しか会っていないのにもう会いたくないと思えるほどには。
報告によれば、もう1人召喚された男が居て、ソイツはウチで預かってるという。
さっきの聖女のような奴がもう1人だとしたら、もう儀式は失敗なんじゃないかと思ってしまった。
少しでもマシなやつがいいなと兵舎に帰る。
そのままギルの執務室まで直行して、聖女の報告をしようと入室した。
「あーあ、疲れた。ギル、お前昨日儀式の間に居たんだよな?なんだあのじゃじゃ馬娘。あれの何処が聖女………は?」
丸くて大きな黒い瞳は、零れ落ちそうなほどでこちらを見つめ、黒い髪はサラサラと流れている。
真っ青のワンピースに身を包んだ少女はこちらを見つめていた。
……可愛いな。…いや、は??なんでギルの部屋に女が?と混乱した。
だって、あのギルだ。
女性嫌いで有名なギルバート。特に色目を使ってくる女なんて目もくれない。同じく、色目を使う小柄な男も同様に嫌っている。
この世界は同性同士の恋愛も認められており、かなり自由な結婚が多い。
そして、俺もギルもそろそろ結婚適齢期ということもあり、最近は男女問わず絡んでくるため、ピリピリしていた。
そんなギルが、マオを背にデロデロと顔が緩んでいる。コイツの顔がこんなに締りがないのは見たことがなかった。
マオは、可愛い。
垂れ下がっだ眉、白く細すぎる腕は庇護欲を駆り立てられる。
だが、それに反してつり上がった瞳は、警戒している猫のようで余計に可愛かった。
ギルに任せ切りだった書類を終わらせ、報告書を確認する。
とりあえず真央は第一騎士団で預かるのだ。
不自由なく、守らなくては。
「ギル、そういえばマオの部屋はどうした?空き部屋あったか?」
「いいえ。今は新入りが入ったばかりで、兵舎に空きがありません。なので、当分は私の部屋で住まわせます。」
「……なんでお前の部屋なんだ。なら、俺の部屋でもいいだろ」
「……何を言っているのでしょう。マオはまだ貴方を警戒してます。それに、貴方なんかにマオを任せられるわけが無いでしょう。」
コイツ。俺と幼なじみだからって言いたい放題いいやがって。ピキッとこめかみが鳴った。
「あ?これから慣れてくんだよ。俺の方がお前よりも実践は強いだろうが。マオ1人くらい余裕で守れる。」
「あぁ、いやだこれだから脳筋は。そういう問題ではありません。貴方がもし小さいマオを潰したら可哀想でしょう。自分の体格の大きさくらい知ったらどうです」
「はぁ?潰さねぇよ。俺だってマオと一緒の部屋で過ごしたいわ。お前だけ狡いだろ!!」
「なんて幼稚な……これが団長なんて聞いて呆れます。この子は私が守るので貴方は手を出さなくて結構です。」
「……よし、お前表出ろ。騎士らしく決闘で決めるぞ。」
「……いいでしょう。今回は脳筋に付き合ってあげますよ。マオ申し訳ありませんが、少しここで待っていて下さい。このバカを沈めてきますね。」
どこにだよ。
そう言って剣に手を掛けながら俺らは立ち上がった。
部屋へ出ようとした時、服の裾を引っ張られた感覚があり、俺は立ち止まる。ギルも立ち止まり、後ろを振り返った。
振り返ったら天使がいた。
俺らの服の裾を握りしめながら、眉を寄せ、以下にも不服そうな顔で俺らを見つめている。その手は少し震えていた。
「………喧嘩したらダメでしょ」
グッ…………っと胸が締め付けられ、つい胸を抑えた。ギルは足から崩れ落ちた。
「わ、悪かった。ごめん、マオ。喧嘩しないから、な?」
ホッとしたのか見る見るうちに、黒く丸い瞳は涙を貯めていく。マズイ、と思った俺は宥めながら、怖がるか様子を見つつマオを抱き上げた。
軽すぎだろ。
一応、男を持ち上げると分かっているはずだか、軽すぎる。余裕で持ち上がり、俺の左腕に座らせた。
マオは驚いているようで、目をパッチリと開いている。
小さい子供を宥めるように、背中をポンとリズム良く何度か叩く。マオは浮遊感が怖かったのか、無意識のように俺の首に腕を回した。その至近距離に、俺の胸がうるさい。
「……アルベルト、力持ちだね」
「そうだろ。俺は力持ちだし、強いぞ?困ったことがあったら言えな。」
「………うん。…わ、」
途端、復活したギルによってマオは奪われた。
「私だってマオくらい持てますから。……マオはもう少し、食べましょうね。」
「んー………うん。」
マオは悩ましそうに、頷いた。
もしかしたら、今までは食べられない環境で過ごしていたかもしれない。
好きな物でもいいから。何か美味しいものを食べさせようと決めた。
「もう、2人喧嘩しない?」
「えぇ、もちろん。こんな脳筋に乗せられるなんて私らしくありませんでした。すみません。」
「あぁ、コイツを構うくらいならマオと話していたいからな。無駄な時間はやめる。」
「………喧嘩はダメだよ」
「ええ。」
「あぁ。」
この後、マオに軽くご飯を食べさせると、またマオは眠りについた。眠ったマオを横に見つつ、決闘はうるさい為、俺たちはチェスで争った。
結果、1時間という死闘の中、ギルが勝ち取った。
実践はともかく、盤上のゲームでこいつに勝つのは難しい。悔しい思いをしながらも、書類仕事をギルの分もやることを条件に、検討しておきますと言われた。
全くもってこの副団長は、腹が立つ。
俺が決めた人材だが。
「……疲れる」
アルベルトも書類が終わったようで、対面のソファに座って新しい紅茶を入れた。
かなり嫌そうな声で重たいため息を吐いていて、よっぽど疲れたことを感じさせる。
「魔法省の奴らが、聖女を連れて王の前に赴いたんだ。王は儀式が成功したことに安堵して、聖女の面倒をそのまま魔法省に任せようとしたんだが……何故か聖女が【私の面倒は王子様が見るんでしょ?】って言い出した。」
「……?」
「そう、王様の横に立ってた俺も、第1王子も第2王子も王も妃も皆その顔だった。なんで?ってな。魔法省のヤツら目に見えて狼狽えまくってたぞ。」
……渡辺凛凄いな。初めて会った人、しかも異世界の国の王様にそんな事言えるなんて……。
渡辺凛は、同じクラスの生徒で所謂、カースト一位軍の女子だ。自分が仕切りたいし、1番目立つのも自分という主義なので、色んな意味で目をつけられやすい。
「それで、どうなったんですか?」
「とりあえず、第1王子は立太子でもあるから却下だろ。第2王子も公務があるが、少し他の奴らに回すことにして暫くは聖女の面倒を見ることになった。」
「……はぁ。」
「それで話がまとまった後、部屋へ出ようとした時に聖女は俺を指さしたんだ。【あの人騎士よね?私の専属あの人でいいよ】って。」
「…はぁ?」
「流石にそれは王も反対した。聖女には聖女専属がもう割り振られているからと。聖女は少しむくれていたが、第2王子にドレスを選びに行こうとエスコートされると大人しく出てったぞ。その後もドレスの好みはうるさいわ、アクセサリーやティアラも欲しがったとまぁ、初日からそんなんだ。」
「……先が思いやられますね。」
「…まぁ、な。第二騎士団何名かが聖女の護衛に当たることになった。その後、もう1人の召喚者、つまりマオのことも報告され、マオはギルが連れてったと聞いたから、第一騎士団で預かると伝えてある。」
連れていかれたというか、魔法省?の人に置いていかれたんだけど。まぁ、ギルバートで良かったから今はもういいけど。
「わかりました。一応、第二騎士団が人手不足になった場合の部隊を決めておきましょう。何があるか分かりませんが先にやっておく方がいいですね。
それとマオについてですが、無理やり召喚された被害者にも関わらずその場に放置した魔法省にはそれなりの制裁を与えますので。
そして、今更マオの面倒を見るとどこの馬鹿がほざいても渡しませんので。絶対に第一騎士団で守り抜きます。いいですね?」
「……もちろん。たく、一日でギルをこれだけダメにするなんて恐ろしい可愛さだな。……マオ、俺とも仲良くしろよ?」
顔は少し怖いけど、笑うと優しい人だと思う。
多分、仲良くなれるかも?わかんないけど。
一応頷いて見せた。
○
☆アルベルト視点
なんか無性に疲れたと思いながら兵舎へ向かった。
今回の儀式で召喚された聖女は、かなりの性格のようだ。一度しか会っていないのにもう会いたくないと思えるほどには。
報告によれば、もう1人召喚された男が居て、ソイツはウチで預かってるという。
さっきの聖女のような奴がもう1人だとしたら、もう儀式は失敗なんじゃないかと思ってしまった。
少しでもマシなやつがいいなと兵舎に帰る。
そのままギルの執務室まで直行して、聖女の報告をしようと入室した。
「あーあ、疲れた。ギル、お前昨日儀式の間に居たんだよな?なんだあのじゃじゃ馬娘。あれの何処が聖女………は?」
丸くて大きな黒い瞳は、零れ落ちそうなほどでこちらを見つめ、黒い髪はサラサラと流れている。
真っ青のワンピースに身を包んだ少女はこちらを見つめていた。
……可愛いな。…いや、は??なんでギルの部屋に女が?と混乱した。
だって、あのギルだ。
女性嫌いで有名なギルバート。特に色目を使ってくる女なんて目もくれない。同じく、色目を使う小柄な男も同様に嫌っている。
この世界は同性同士の恋愛も認められており、かなり自由な結婚が多い。
そして、俺もギルもそろそろ結婚適齢期ということもあり、最近は男女問わず絡んでくるため、ピリピリしていた。
そんなギルが、マオを背にデロデロと顔が緩んでいる。コイツの顔がこんなに締りがないのは見たことがなかった。
マオは、可愛い。
垂れ下がっだ眉、白く細すぎる腕は庇護欲を駆り立てられる。
だが、それに反してつり上がった瞳は、警戒している猫のようで余計に可愛かった。
ギルに任せ切りだった書類を終わらせ、報告書を確認する。
とりあえず真央は第一騎士団で預かるのだ。
不自由なく、守らなくては。
「ギル、そういえばマオの部屋はどうした?空き部屋あったか?」
「いいえ。今は新入りが入ったばかりで、兵舎に空きがありません。なので、当分は私の部屋で住まわせます。」
「……なんでお前の部屋なんだ。なら、俺の部屋でもいいだろ」
「……何を言っているのでしょう。マオはまだ貴方を警戒してます。それに、貴方なんかにマオを任せられるわけが無いでしょう。」
コイツ。俺と幼なじみだからって言いたい放題いいやがって。ピキッとこめかみが鳴った。
「あ?これから慣れてくんだよ。俺の方がお前よりも実践は強いだろうが。マオ1人くらい余裕で守れる。」
「あぁ、いやだこれだから脳筋は。そういう問題ではありません。貴方がもし小さいマオを潰したら可哀想でしょう。自分の体格の大きさくらい知ったらどうです」
「はぁ?潰さねぇよ。俺だってマオと一緒の部屋で過ごしたいわ。お前だけ狡いだろ!!」
「なんて幼稚な……これが団長なんて聞いて呆れます。この子は私が守るので貴方は手を出さなくて結構です。」
「……よし、お前表出ろ。騎士らしく決闘で決めるぞ。」
「……いいでしょう。今回は脳筋に付き合ってあげますよ。マオ申し訳ありませんが、少しここで待っていて下さい。このバカを沈めてきますね。」
どこにだよ。
そう言って剣に手を掛けながら俺らは立ち上がった。
部屋へ出ようとした時、服の裾を引っ張られた感覚があり、俺は立ち止まる。ギルも立ち止まり、後ろを振り返った。
振り返ったら天使がいた。
俺らの服の裾を握りしめながら、眉を寄せ、以下にも不服そうな顔で俺らを見つめている。その手は少し震えていた。
「………喧嘩したらダメでしょ」
グッ…………っと胸が締め付けられ、つい胸を抑えた。ギルは足から崩れ落ちた。
「わ、悪かった。ごめん、マオ。喧嘩しないから、な?」
ホッとしたのか見る見るうちに、黒く丸い瞳は涙を貯めていく。マズイ、と思った俺は宥めながら、怖がるか様子を見つつマオを抱き上げた。
軽すぎだろ。
一応、男を持ち上げると分かっているはずだか、軽すぎる。余裕で持ち上がり、俺の左腕に座らせた。
マオは驚いているようで、目をパッチリと開いている。
小さい子供を宥めるように、背中をポンとリズム良く何度か叩く。マオは浮遊感が怖かったのか、無意識のように俺の首に腕を回した。その至近距離に、俺の胸がうるさい。
「……アルベルト、力持ちだね」
「そうだろ。俺は力持ちだし、強いぞ?困ったことがあったら言えな。」
「………うん。…わ、」
途端、復活したギルによってマオは奪われた。
「私だってマオくらい持てますから。……マオはもう少し、食べましょうね。」
「んー………うん。」
マオは悩ましそうに、頷いた。
もしかしたら、今までは食べられない環境で過ごしていたかもしれない。
好きな物でもいいから。何か美味しいものを食べさせようと決めた。
「もう、2人喧嘩しない?」
「えぇ、もちろん。こんな脳筋に乗せられるなんて私らしくありませんでした。すみません。」
「あぁ、コイツを構うくらいならマオと話していたいからな。無駄な時間はやめる。」
「………喧嘩はダメだよ」
「ええ。」
「あぁ。」
この後、マオに軽くご飯を食べさせると、またマオは眠りについた。眠ったマオを横に見つつ、決闘はうるさい為、俺たちはチェスで争った。
結果、1時間という死闘の中、ギルが勝ち取った。
実践はともかく、盤上のゲームでこいつに勝つのは難しい。悔しい思いをしながらも、書類仕事をギルの分もやることを条件に、検討しておきますと言われた。
全くもってこの副団長は、腹が立つ。
俺が決めた人材だが。
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