猫系男子の優雅な生活

ててて

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新しい生活

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いつの間にか寝てた。ふわふわと微睡んでいると、向かいのソファからアルベルトがこちらを見ていた。

アルベルトは燃え上がった炎のような赤色で、短く刈り上げている。服から除く太い首や腕は、男性らしく逞しい。精悍な瞳は深紅の色で、宝石みたいだ。


見た目は怖そうだけど、こちらを見る目は優しい。

「……おはよ、マオ。よく寝るなお前」

……確かに。こっちの世界に来て2日目だけど、よく寝てる気がする。なんだか、すぐ眠くなってしまうのだ。環境が変わったから疲れやすいのかな。

「ほら、こっちおいで」


ぽんぽん、とソファの隣を叩かれる。ノソノソと起き上がり、アルベルトの隣に座った。
寝癖がついているようで、乱れた髪を優しく手ぐしで整えられる。

その手つきも優しくて、暖かくてまた眠くってきた。

「こら、また寝るなよ。俺の相手してくれ」

目が眠たくて、つい垂れ下がった目でアルベルトを見た。アルベルトの口元は優しく微笑まれていて、なんだか甘やかされてるって感じがする。

相手って何すればいいんだろ。

「ギルは今呼ばれてな、そのうち戻ってくるからそれまで俺と居ような。」

「……ん。…アルベルトも魔法が使える?」

「あぁ、使えるぞ。ほら」


アルベルトは人差し指を出すと、指先からマッチのような火を出した。

「……すごい」

「そうだろ、種も仕掛けもねーよ?」

フッと息をふきかけ、火を消した。そしてマジシャンのように両手を見せてくる。
悪戯が成功したような顔は、かっこよくてなんだか狡い。悪いと大人みたいだ。

「俺は火の属性だから、どんな火も出せるぜ?よく燃えて広がる、いい火がな。」

「いいな、僕も魔法使ってみたい」

「どうだろうな、今まで召喚された異世界人は皆、聖女だから治癒魔法なら使えるだろうけど……」


僕は男だから聖女じゃないし、きっと治癒魔法は使えないだろう。
つまり、俺は魔法が使えないだろうな、、

ちょっと気分が落ち込んでいたら、頭に手が乗せられた。そのままポンっと慰めるように撫でられる。

「まぁ、俺やギルに言えば魔法なんていくらでも見せてやるからさ。な?」


「また見せてくれる?」

「もちろん。マオが見たければもっと燃え上がる火を見せてやるよ?木でも家でも燃やせるやつな」

「……燃やしちゃダメだよ」


「グッ……そうか、燃やしちゃ、ダメか……くそ可愛いなおい、、マオ綺麗なやつ見たいか?」

「…うん」


クイっと片眉を上げたアルベルトは、僕の返事を聞くと嬉しそうに微笑んだ。

「危ないから、ここ座りな」

そう言って、自身の膝を叩いた。
人の膝に乗ったことなんてないから、戸惑う。近くには寄ったけど、どうすればいいか悩んでいたら、腕を引っ張られ気づいたらアルベルトの膝の上に横向きで座った。

「よし、見てろよ」

さっきよりももっと顔が近い。
アルベルトは顔がカッコイイから、ドキドキする。
 
手のひら翳し仰ぐ仕草をした瞬間、ぱちぱちと音を鳴らしながら火花が散った。大きくなった火花がどんどん繋がり、1つの炎になる。形が整形され、室内には火をまとい飛ぶ鳳凰の姿が見えた。

鳳凰は火花を散らし、輝きながら部屋を何周も飛び回る。

「……綺麗」

花火みたいだ。鳳凰は、今にも鳴きそうな程リアルで、飛び回る姿は神々しい。
綺麗でカッコイイ、魔法ってすごい。

「かっこいいだろ。」

興奮した僕はつい、何度も頷く。

「ははっ、そんなに気に入ったか。よかったよ。ほら、最後だ」

眩く笑ったアルベルトは、僕の頭を少し撫でると鳳凰を指さした。

鳳凰は、また火花のようにバラバラになり、小さく散っていった。それは花火が終わった瞬間のように、最後まで美しい。

僕はつい、口から感嘆のため息が出た。


「……そんなに気に入ったならまた見せるよ」

「ありがとうアルベルト」


お礼を言うとアルベルトは、また眩しく笑う。


「………これはどういう状況でしょう。仕事を終えて戻ってくれば、私の執務室で上司が不埒な…殴って差し上げましょうか?」


戻ってきたギルバートは絶対零度の瞳でこちらを見た。魔法なのか幻覚なのか、後ろに吹雪が見える。

「……ちょ、ちょっと待て?落ち着こう。違う、不埒なことなんて一切していない」


「どこがでしょうか。マオを膝に乗せて、そんな至近距離で。弁解の余地なんてありませんが。」


「魔法を見せていたんだ。ほら、もし火花を被ったら危ないだろ?身を守るためだ。それ以下も以上もない。」

「は、貴方は魔法の操作が得意でしょう。そんな間違い、ある訳がありません。下心がないと言えると?誓えますか?」


「………下心はあるに決まっているだろう!」


「何を逆ギレしているのですか!!!」



こうして、第2回目の二人の喧嘩が始まった。

あれかな、喧嘩するほど仲がいい、という物かもしれない。二人は仲良しなんだ、きっと。

僕は友達とかいた事がなかったから、分からないけど。


二人はどんどんエスカレートして言って、論点をずらしながら言い合っている。
聞いていてもわからないから、暇になってきて今来ているワンピースをしげしげと見つめていた。

コンコンと、ささやかなノックと共にヒュウが入ってきた。

「失礼します~、あ!またお2人言い合ってるんですか!大人気ないですよ、マオくんが蚊帳の外で可哀想じゃないですか!!
全く、マオくん。このお二人はよく喧嘩しますが、大体団長が負けるので、安心してください!おぉ~!俺が選んだワンピースめちゃくちゃ似合うじゃないですか!!」


ヒュウはよく喋る。1人で話してる。

アルベルトとギルバートは何度か眉間に皺を寄せ、ヒュウを睨んでいたが、全然気づいていない。

「おい、俺が負けるとか決めるな!俺だって勝つだろ」

「え、そうですかね、、俺的には副団長の圧勝だと思うのですが」


「その通りです、ヒュウ。この馬鹿は本当に学ばないので、私は疲れてきているところですよ。」

「そうだ、団長!団長に目を通してほしい書類を執務室に運んでおいたので、早く来てください!」

あ、そっか。
ここはギルバートの執務室であって、アルベルトの執務室は別にあるんだ。

昨日の今日で、ギルバートの私室か執務室しか居ないからまだこの兵舎の構造を理解出来ないでいる。



「あ、あの。ワンピースとか、服ありがとう。どれも可愛かった、」


「へへ!!全然いいっす!!マオくんなんでも似合うからまた選ばせてください!」


「「いや、次は俺(私)が選ぶ」」

「え??」


「ほら、執務室だろ。行くぞ。マオ、またな。次は甘いもの持ってくるから。」


「…ん」


アルベルトは何度か僕の頭をグリグリと撫でると、部屋を出ていった。……なんか、気恥しい。


「さて、私もあと少し終わらせますか。マオは暇ですかね、何かしたいことがありますか?この部屋で出来ることなら何でもいいですよ。……兵舎の案内はまた後日しますので。」


何かしたいこと……特にないかな。
こんなに何もやることが無いなんて初めてかも。気がついた時から、あの人の英才教育が始まっていて、学校終わりは決められたスケジュールや習い事に追われていたから。

出来れば、何をしないでボーッとしていたい。

「……そういえば、いいものがありました。」

そういって、ギルバートは私室へ行き直ぐにまた戻ってきた。両手には大きな丸いクッションを抱えていて、ずっしりとして重たそう。

そのクッションを1度ソファに持たれさせ、次はラグをとってくると日当たりのいい窓へ敷き、その上にクッションを置いた。

丁度、ギルバートの執務机の斜め右だ。

「これは先日、隣国から朝貢されたものなのですが、使い道がなくて。でも、触り心地は一流品ですしきっと持たれたら気持ちいと思います。日向ぼっこにオススメだと聞きました。良ければ、使ってください。」


そういって微笑むと、執務机に戻り早速書類を見始めた。ペラペラと髪をめくる音と、万年筆の音が聞こえる。


クッションをもう一度見ると、日に当たりポカポカと暖かそうだ。色はグレー。近づいて、ソッと触れるともちもちとした感触で、弾力もある。
あれだ、マシュマロクッションみたいな。それよりも大きく弾力があるけど。

バフっと顔を埋めて見ると、モチモチに包まれて気持ちがいい。それに、ギルバートの匂いがする。


僕は暫く、クッションの上に丸まって寝転がりポカポカと当たる日差しの中、日向ぼっこを楽しんだ。

これはいい、すごく気持ちいい。
日差しはそこまで強くなく、暖かい程度。モチモチに包まれた顔は、どこか安心感があり、室内にはギルバートの紙とペンの音が響く。



とても落ち着く。








○ギルバートは、真緒がクッションに埋もれている姿を一瞬たりとも見逃さまいと書類は手を捌きながら、視線は真緒のままである。あと、クッションで丸まったマオが可愛すぎて、頭が回らないらしい、です。



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