俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第二部 プロムナード編

第九話 談話室にて【SIDE:K】

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「……何~?」
 
 そう、彼もさっきから居たのだ。――誰が揉めていようと、自分の興味をひかなければ、微動だにしない人なだけである。
 
「桜沢さん、いい加減にシャンとしてください」
 
 よく、スーツを着て寝転べるものだ。
 桜沢さんに是非着て欲しい、と魔法省のお偉方が贈ったイタリア製のスーツを、彼はまるでスエットと同じように扱う。
 厳しく指摘すると、桜沢さんは大あくびをし、寝返りを打った。
 
「ふあ……いいじゃん、べつにぃ。もう出るだけなんでしょ?」
「俺達以外が、戻ったら直ぐにです。寝ていたらスーツが皺になりますし、着替え直す暇はありませんよ」
「はー……うるせーの」
 
 怠そうに薄目を開けて、桜沢さんはのそりと身を起こす。
 長い髪を乱暴にかき回す様は、不機嫌そうだ。俺はふうと息を吐き、眼鏡に指を添えた。
 
「俺に言われても、困ります。生徒会の行事なのですから、義務は果たしてもらいませんと」
「もー、やってらんねーってば。会長は全然戻ってこねーし、須々木先輩にへんなのつけられるしさー!」
「ああ……」
 
 桜沢さんは、パンツの裾を持ち上げる。露わになった足首には、大振りの手錠がかかっており、もう片方はソファの脚につながっているようだ。
 
「それは、貴方が逃げようとするからでしょう」
「ほんとムカつくー! 俺は動けねーのに、先輩は出てくしー!」
 
 桜沢さんが憤慨すると、ちゃりと鎖が音を立てた。たしか、アレは――須々木先輩得意の魔法道具の一つで、魔法拘束具の類だ。内側に魔石が仕込まれていて、壊そうとしても対元素で相殺するものだったはず。
 しかし、と俺は首を傾げる。
 
「意外ですね。貴方なら、壊せないこともないのでは?」
「……う」
 
 すると、桜沢さんはふいと顔を背ける。何故か頬が赤らんでいる。
 
「だってぇ。これ、トキちゃんの魔力構造なんだもん。俺がトキちゃんに乱暴できないのわかってて、あの人やってんだよねー」
「は?」
「腹立つなあ」
 
 なぜ、吉村時生?
 聞けば、その拘束具には吉村時生の魔力構造を模した術式がかけられているらしい。何故か、吉村に大甘の桜沢さんは、それで拘束を打ち壊すのに忍びなく、大人しく捕まっているようだ。
 
「はーぁ。須々木先輩、俺が前期に近寄れない時も、トキちゃんに近づいてたからなー。仲いい顔して、しれっと解析してたんだねえ。マジやべー」
「……」
「まあ、でないと防御符なんて作れないかぁ」
 
 桜沢さんは、腕を組んで伸びをしている。
 
 ――あの、負けず嫌いの桜沢さんが……吉村時生に類似の魔力を持つというだけで、拘束具を外せないとは。
 
 やはり、吉村は害悪のようだな。
 俺はそう判じ、桜沢さんを胡乱な目つきで見た。
 
「あなたね。須々木先輩に決闘で負けますよ」
「べつにー。不意を打たれるのは、今回限りだしー」
 
 桜沢さんが、ごろんとソファに横になったとき、再びドアが開いた。
 
「皆さん、お待たせしました!」
 
 華やかなスーツに身を包んだ蓮条先輩が、談話室に歩み入ってきた。鳶色の長い髪を背で束ね、いつにも増して貴公子然としている。パーティ参加者のあるべき姿を見た気がし、俺は安堵する。
 
「蓮条先輩、お疲れさまです」
「海棠くんも、お疲れさまですね。おや、須々木先輩と八千草君がいませんね」
「ああ、それは――」
 
 事情を説明すると、先輩はほほ笑んで、俺の肩に手を置いた。
 
「それはそれは。海棠くん、気を揉んだでしょう? 一人で任せて、ごめんなさいね」
「先輩……いえ。仕方がない事ですから」
 
 人間らしい気遣いを受け、じんとした。――変人と名高い蓮条先輩だが、変態的な学究欲を抜けば、かなりの善人である。
 
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