俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第二部 プロムナード編

第十話 談話室にて【SIDE:K】

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「では、時間がかかりそうですし……先に行って、待っていましょうか?」
「ええ、それがいいと思います」
 
 心強い言葉に頷く。どうやら、やっと一息つけそうだ。
 蓮条先輩は、床を焦げまみれにしていた松代先輩に近づき、励ました。
 
「松代君、泣かないでください。須々木先輩は、TPOを気にされただけで……君とお揃いが嫌なのではないと思いますよ」
「……えっ、ほんま? そう思う、れんちゃん?」
「ええ。きっと、君が悪目立ちしないか、心配しているんです」
「……んんもう、りょーさんてばッ!」
 
 天使のような笑みを向けられ、自信を取り戻した松代先輩が嬉しそうに身悶えしている。桜沢さんが「あーあ……」と死んだ魚のような目で呟いた。俺もきっと、同じ顔をしていることだろう。
 蓮条先輩は善人だから……ああして、松代先輩の援護射撃をしてしまうこともしばしばだ。
 
「桜沢くんは、どうします? 私、それ外しましょうか」
「あー、先にどうぞっす。俺、須々木先輩とー、会長に伝えときますんでー」
「わあ、ありがとうございます。よろしくお伝えください」
 
 蓮条先輩が頭を下げると、桜沢さんがぺこりと会釈した。
 真面なスーツに着替え終わった松代先輩を連れ、俺たちは部屋を出る。ドアの閉まる間際――桜沢さんが、すぐさま熊のように寝そべった姿が見えた。
 本当に、人の忠告を聞かん人だ。




 
「なー、れんちゃん。どこ行ってたん?」
 
 元気を取り戻した松代先輩が、今さらに尋ねる。蓮条先輩は、にこやかに答えた。
 
「ちょっと、風紀に呼び出されましてね」
「トラブルですか?」
「いいえ。こちらの作ったプリントに、少し不備があったとかで……」
「えー! おれ、頑張って書いたのに?!」
「あっ、ごめんなさいね。少し修正しただけですから」
 
 不満そうな松代先輩に、蓮条先輩が申し訳なさそうにほほ笑んでいる。
 厄介な案件でなくて良かったが、俺は少し面白くなかった。
 
「しかし……それくらいなら、俺が出向きましたよ」
 
 我らが副会長を、小間使いのようにされては困る。眉根を寄せた俺に、先輩は慌てた。
 
「いえ、私の手が空いてましたから」
「しかし、適材適所と言うものがあります。あまり雑用などしないで下さい」
「うーん……でも、君も忙しいでしょうし」
 
 人の好い蓮条先輩は納得できないかもしれないが、組織の長が軽々動くと舐められる。
 しかし――先輩の言う通り、俺も手いっぱいではある。桜沢さんも同様だろう。あれで仕事はきちんとこなしているのだ。
 前期の吉村事件で、学園はかなり荒れた。しわ寄せを食っているのは、風紀だけではなく、うちも同じだ。
 
 ――おのれ、吉村……!!
 
 奥歯を噛み締めていると、松代先輩がお気楽に言う。
 
「ほんだら、誰ぞパシリにしたらえーやんけ」 
「は?」
「おれらにしか出来ひん仕事、ほかのやつらは出来ひんやん。ぎゃくに、誰でも出来ることは、パシリにでもやらせよや」
 
 名案! とばかりに胸を張る先輩に、俺は目を眇めた。
 
「難しいでしょう。信用できる人材が、そう都合よく現れますか?」
「なんじゃ、こら!」
「なんですか?」
「まあ、まあ」
 
 一触即発になった俺たちを、蓮条先輩が窘める。
 
「パシリと言うのは、どうかと思いますが……確かに、補佐をしてくれる方がいるといいですね」
 
 穏やかな笑みには、純粋な希望だけが映っている。その提案を、蓮条先輩自身が難しいとわかっているのだ。
 やはり蓮条先輩は真面な方だ――俺は、ホッと息を吐く。

「ええ、そうですね」

 だからこそ、心にもない相槌を打てるというもの。
 そもそも、超実力主義の生徒会に本来馴れ合いはなく、蹴落としあう宿命だ。
 今期は幼馴染の先輩がたトップを担い、真面目な須々木先輩が抑えているため、様相が違うだけで……生徒会に入ろうなどと言うやつに、真面な人間はいないのだ!
 
 ――縁もゆかりもない無能が入ってこられては、足を引っ張られるだけだからな。
 
 その安堵が、最悪の形で覆り……「頭痛が激痛を起こす」くらいの現実が降りかかることを。
 現在の俺は、まだ知らない。
 
 
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