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第二部 プロムナード編
第八話 談話室にて【SIDE:K】
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頭痛が痛む――という表現は、シンプルに誤用と片付けるのは、適当ではない。
二つの意味を重ねてしか、表現しようがないほど頭が痛い……そういう使い方もあると思うのだ。
そう、あくまで現在の俺――海棠見晴にとっては。
須々木先輩と桜沢さんが戻ってきて、紫雲館最上階――生徒会専用談話室の騒音レベルは、凄まじいことになっていた。
「なんでやあ、りょーさん! 着替えろって、どういうことなん!?」
松代先輩が、須々木先輩の腰に抱きついて、ぎゃあぎゃあ吠えている。須々木先輩が、負けず劣らずの大音声で怒鳴り返した。
「どあほう! そんなトンチキな格好で、パーティ行くやつがどこにおらすか! どういうつもりじゃ、お前は!」
須々木先輩の指摘どおり、松代先輩は、全身深紅のスーツを纏っていた。
――確かに、頓痴気だ。
赤いだけならまだしも、下品なまでにテカッている。まるで、売れないお笑い芸人のようだ。
もし俺が、あの姿でパーティに出席しなければならないとしたら、舌を噛んで死を選ぶだろう。
「ふふん!」
だが、松代先輩はそうではないらしい。胸を張って、満面の笑みを浮かべた。
「情ぉ~熱の赤や! おれのりょーさんへの想いをあらわしとるんやっ」
「はっ……?」
「そ・れ・に……りょーさん、またアタマ赤に戻したやろ? ペアルック……むふっ」
「ひっ」
照れてしなをつくる松代先輩が、須々木先輩の頬を、つんとつつく。
その時――俺は見た。それが何かのスイッチであったかのように、須々木先輩の頬をざーっと鳥肌が覆ったのを。
「ふ、ふ……ふざけんなよ! お前、マジで今すぐ着替えてこい! 打ちのめすぞ!」
「ふざけてへんわっ! おれはいつかて、りょーさんに本気……」
「ぎっ……離れろ!」
腰にすがりつく松代先輩を引き剥がそうと、須々木先輩が暴れる。
……「いやや~」と甘えた声で懐く松代先輩は、須々木先輩の、今にも爆発しそうな米神が見えないのだろうか?
「離せ、アホンダラ!」
「……ふぎゅ!」
案の定、気の短い須々木先輩に鉄拳を喰らい、彼は床に沈んだ。
「あー、もうええ!」
縋りつかれてよれたスーツを直すと、須々木先輩は鼻息荒く部屋を出ていく。
「須々木先輩、どちらへ?」
俺はソファの陰から顔を出し、問う。
すると、須々木先輩は振り返らず、言い放った。
「アタマ直してくるわ。開場には間に合わすさかい、先に行っといて」
「えっ、りょーさ……」
「そうですか。松代先輩はどうします?」
驚く松代先輩を遮り、質問を重ねると須々木先輩は、羅刹の形相で振り返る。
「そのアホは構わんでええぞ!」
「わかりました」
バタン! と談話室のドアが閉まる。しーん……と一瞬の静寂の後、松代先輩が「わーん!」と叫んだ。
「なんでーっ!? おれとおそろいにしてくれたんやと思ったのにぃぃ……!」
それは、あり得ないだろう。
とは――面倒そうなので口にはしない。
――面倒見の良い須々木先輩のこと……鬱陶しかろうが、放っておけなかったのに違いない。
こんな格好でパーティに参加など、体を張って嘲笑を買いに行くようなものだからな。
床を叩いて悔しがっている松代先輩はさて置き、俺は腕時計を確認した。
――予定の時間、ぎりぎりじゃないか!
かっ、と頭に血がのぼる。
予定通りに、ことが進行しないことは、大きなストレスだ。騒音が半減しても止まない頭痛に、苛々する。
「ちっ」
全員揃って、会場入りできる筈が……須々木先輩は出ていき、蓮条先輩も、八千草先輩も一向に戻らない。
ここに居るのは、頓痴気な姿の松代先輩と――
「桜沢さん!」
ソファにだらけている桜沢さんに、詰め寄った。
二つの意味を重ねてしか、表現しようがないほど頭が痛い……そういう使い方もあると思うのだ。
そう、あくまで現在の俺――海棠見晴にとっては。
須々木先輩と桜沢さんが戻ってきて、紫雲館最上階――生徒会専用談話室の騒音レベルは、凄まじいことになっていた。
「なんでやあ、りょーさん! 着替えろって、どういうことなん!?」
松代先輩が、須々木先輩の腰に抱きついて、ぎゃあぎゃあ吠えている。須々木先輩が、負けず劣らずの大音声で怒鳴り返した。
「どあほう! そんなトンチキな格好で、パーティ行くやつがどこにおらすか! どういうつもりじゃ、お前は!」
須々木先輩の指摘どおり、松代先輩は、全身深紅のスーツを纏っていた。
――確かに、頓痴気だ。
赤いだけならまだしも、下品なまでにテカッている。まるで、売れないお笑い芸人のようだ。
もし俺が、あの姿でパーティに出席しなければならないとしたら、舌を噛んで死を選ぶだろう。
「ふふん!」
だが、松代先輩はそうではないらしい。胸を張って、満面の笑みを浮かべた。
「情ぉ~熱の赤や! おれのりょーさんへの想いをあらわしとるんやっ」
「はっ……?」
「そ・れ・に……りょーさん、またアタマ赤に戻したやろ? ペアルック……むふっ」
「ひっ」
照れてしなをつくる松代先輩が、須々木先輩の頬を、つんとつつく。
その時――俺は見た。それが何かのスイッチであったかのように、須々木先輩の頬をざーっと鳥肌が覆ったのを。
「ふ、ふ……ふざけんなよ! お前、マジで今すぐ着替えてこい! 打ちのめすぞ!」
「ふざけてへんわっ! おれはいつかて、りょーさんに本気……」
「ぎっ……離れろ!」
腰にすがりつく松代先輩を引き剥がそうと、須々木先輩が暴れる。
……「いやや~」と甘えた声で懐く松代先輩は、須々木先輩の、今にも爆発しそうな米神が見えないのだろうか?
「離せ、アホンダラ!」
「……ふぎゅ!」
案の定、気の短い須々木先輩に鉄拳を喰らい、彼は床に沈んだ。
「あー、もうええ!」
縋りつかれてよれたスーツを直すと、須々木先輩は鼻息荒く部屋を出ていく。
「須々木先輩、どちらへ?」
俺はソファの陰から顔を出し、問う。
すると、須々木先輩は振り返らず、言い放った。
「アタマ直してくるわ。開場には間に合わすさかい、先に行っといて」
「えっ、りょーさ……」
「そうですか。松代先輩はどうします?」
驚く松代先輩を遮り、質問を重ねると須々木先輩は、羅刹の形相で振り返る。
「そのアホは構わんでええぞ!」
「わかりました」
バタン! と談話室のドアが閉まる。しーん……と一瞬の静寂の後、松代先輩が「わーん!」と叫んだ。
「なんでーっ!? おれとおそろいにしてくれたんやと思ったのにぃぃ……!」
それは、あり得ないだろう。
とは――面倒そうなので口にはしない。
――面倒見の良い須々木先輩のこと……鬱陶しかろうが、放っておけなかったのに違いない。
こんな格好でパーティに参加など、体を張って嘲笑を買いに行くようなものだからな。
床を叩いて悔しがっている松代先輩はさて置き、俺は腕時計を確認した。
――予定の時間、ぎりぎりじゃないか!
かっ、と頭に血がのぼる。
予定通りに、ことが進行しないことは、大きなストレスだ。騒音が半減しても止まない頭痛に、苛々する。
「ちっ」
全員揃って、会場入りできる筈が……須々木先輩は出ていき、蓮条先輩も、八千草先輩も一向に戻らない。
ここに居るのは、頓痴気な姿の松代先輩と――
「桜沢さん!」
ソファにだらけている桜沢さんに、詰め寄った。
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