俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
上 下
235 / 239
第二部 プロムナード編

第八話 談話室にて【SIDE:K】

しおりを挟む
 頭痛が痛む――という表現は、シンプルに誤用と片付けるのは、適当ではない。
 二つの意味を重ねてしか、表現しようがないほど頭が痛い……そういう使い方もあると思うのだ。
 そう、あくまで現在の俺――海棠見晴かいどう・みはるにとっては。



 
 
 須々木先輩と桜沢さんが戻ってきて、紫雲館最上階――生徒会専用談話室の騒音レベルは、凄まじいことになっていた。
 
「なんでやあ、りょーさん! 着替えろって、どういうことなん!?」

 松代先輩が、須々木先輩の腰に抱きついて、ぎゃあぎゃあ吠えている。須々木先輩が、負けず劣らずの大音声で怒鳴り返した。

「どあほう! そんなトンチキな格好で、パーティ行くやつがどこにおらすか! どういうつもりじゃ、お前は!」
 
 須々木先輩の指摘どおり、松代先輩は、全身深紅のスーツを纏っていた。
 
 ――確かに、頓痴気だ。

 赤いだけならまだしも、下品なまでにテカッている。まるで、売れないお笑い芸人のようだ。
 もし俺が、あの姿でパーティに出席しなければならないとしたら、舌を噛んで死を選ぶだろう。

「ふふん!」

 だが、松代先輩はそうではないらしい。胸を張って、満面の笑みを浮かべた。
 
「情ぉ~熱の赤や! おれのりょーさんへの想いをあらわしとるんやっ」
「はっ……?」
「そ・れ・に……りょーさん、またアタマ赤に戻したやろ? ペアルック……むふっ」
「ひっ」
 
 照れてしなをつくる松代先輩が、須々木先輩の頬を、つんとつつく。
 その時――俺は見た。それが何かのスイッチであったかのように、須々木先輩の頬をざーっと鳥肌が覆ったのを。
 
「ふ、ふ……ふざけんなよ! お前、マジで今すぐ着替えてこい! 打ちのめすぞ!」
「ふざけてへんわっ! おれはいつかて、りょーさんに本気……」
「ぎっ……離れろ!」
 
 腰にすがりつく松代先輩を引き剥がそうと、須々木先輩が暴れる。
 ……「いやや~」と甘えた声で懐く松代先輩は、須々木先輩の、今にも爆発しそうな米神が見えないのだろうか?

「離せ、アホンダラ!」 
「……ふぎゅ!」
 
 案の定、気の短い須々木先輩に鉄拳を喰らい、彼は床に沈んだ。
 
「あー、もうええ!」
 
 縋りつかれてよれたスーツを直すと、須々木先輩は鼻息荒く部屋を出ていく。
 
「須々木先輩、どちらへ?」
 
 俺はソファの陰から顔を出し、問う。
 すると、須々木先輩は振り返らず、言い放った。
 
「アタマ直してくるわ。開場には間に合わすさかい、先に行っといて」
「えっ、りょーさ……」
「そうですか。松代先輩はどうします?」
 
 驚く松代先輩を遮り、質問を重ねると須々木先輩は、羅刹の形相で振り返る。
 
「そのアホは構わんでええぞ!」
「わかりました」
 
 バタン! と談話室のドアが閉まる。しーん……と一瞬の静寂の後、松代先輩が「わーん!」と叫んだ。
 
「なんでーっ!? おれとおそろいにしてくれたんやと思ったのにぃぃ……!」
 
 それは、あり得ないだろう。
 とは――面倒そうなので口にはしない。

 ――面倒見の良い須々木先輩のこと……鬱陶しかろうが、放っておけなかったのに違いない。

 こんな格好でパーティに参加など、体を張って嘲笑を買いに行くようなものだからな。
 床を叩いて悔しがっている松代先輩はさて置き、俺は腕時計を確認した。
 
 ――予定の時間、ぎりぎりじゃないか!

 かっ、と頭に血がのぼる。 
 予定通りに、ことが進行しないことは、大きなストレスだ。騒音が半減しても止まない頭痛に、苛々する。

「ちっ」

 全員揃って、会場入りできる筈が……須々木先輩は出ていき、蓮条先輩も、八千草先輩も一向に戻らない。
 ここに居るのは、頓痴気な姿の松代先輩と――
 
「桜沢さん!」
 
 ソファにだらけている桜沢さんに、詰め寄った。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...