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第一部 決闘大会編
百六十六話
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305教室の戸を開けると、途端に顔に風が吹きつけてきた。
とっさに腕で目を覆ってから――「窓開いてるじゃん」って気づく。
「トキちゃん!」
「イノリ!」
窓際には想像通り。イノリが、はためくカーテンを押さえて立っていた。亜麻色の髪が流れて、きらきらしてる薄茶の目がよく見える。
駆け寄って飛びつくと、危なげなくキャッチしてくれる。ふわっと甘い香りがして、頬が緩んだ。
「おかえり! 出張どうだった?」
「ただいまー。出張はがんばったよー。トキちゃんは?」
「俺は大丈夫! お疲れイノリ」
「へへー」
両頬を包まれて、上を向くと得意げな笑顔が間近にある。子供みたいで、かわいい。
ニコニコと笑い合ってると、背後で「ゴホゴホッ」と咳き込む声が聞こえた。
振り向くと、二見が半眼でドアに凭れている。やべっ、完全に忘れてた!
俺は、バッと体を離す。
「うわわ、すまん!」
「えー、なんでいんのー?」
「ははは。オレも同じこと思ってたとこ」
目を丸くするイノリに、「やれやれ」のポーズで二見が答える。俺は、恥ずかしいやらばつが悪いやら、ダラダラ汗をかいちまった。
事情をかくかくしかじかと説明して、時間もねえし、メシを食いながら話すことになった。机を三つくっつけて、持ってきたメシを広げる。
「二見くん、わかったことってなにー?」
俺の口にミルクフランスを押しつけつつ、イノリが問う。と、チャーハンからザーサイをえり分けていた二見が、ファイルから取り出したプリントを、机に置いた。
「これね、サシェの解析結果なんだけど」
「えっ、すげぇ」
「ふふん。まあ、オレがやったんじゃないけど――ちょっと読んでみてよ」
「ありがとー」
イノリがプリントを読んで、ハッと顔を上げる。
「二見くん、これってマズくない?」
「そうなんだよね。相手も流石、慣れてんな」
苦い顔で、二見も同意する。二人の反応が謎だったけど、俺もまず読ませてもらうことにする。
「ええと――サシェの解析結果……中のハーブに呪いがかかってることが判明。安眠効果の呪いで、使っても犯罪性はない。ただ、微量に術者の血液が混入していて、効果が強くなっている……」
ふむ、そうだったのか。ええと――よく眠れるお呪いがかかってたんだよな。で、それは悪いものではなくて、姫岡先輩も「安眠グッズ」って言って、渡してくれてたから……。
「じゃあ、姫岡先輩はシロ?」
そう言うと、二見は激しく首を振った。
「――ってことは無いと思うよ、オレは。このサシェ置いてから、変態が来るようになったわけだし。それに、気を失うくらい眠くなって、体が動かなくなったんでしょ?」
頷くと、イノリが思案気に目を伏せて言う。
「トキちゃん。本来、これにかかってたお呪いはね? そこまでの効果はないんだ。せいぜい、冷えが改善して気持ちが落ち着くくらい」
「えっ!」
そんなもんじゃなかったぞ。体の力が抜けて、真夜中に目が覚めても動けないくらいで。
「多分、ミソなのはこの「血」だよね」
目を白黒させていると、二見が真剣な顔で引き継いだ。
「血?」
「あのね。魔法使いの肉体で「魔力」を多く含んでいるのは、「髪」・「体液」・「血液」なんだよね。だから、この三つは呪術に多く使われる」
「へー、なんで?」
「魔力を多く含んでいるものを媒介にするとね、魔法の効果が上がるんだよ。何て言ったらいいかなー。パンチで言うと、石握って殴るみたいなかんじ」
「おお、なるほど」
ともかく、威力が増すってことだな。二見は、続ける。
「このサシェのハーブには、血が混ざってたって言ったっしょ? この血が、単なる安眠のお呪いに、強度の入眠効果を与えてるんだ。実際、実験して貰ったら、けた違いに効能が上がってたらしくってさ」
「そうなんだ……」
じゃあ、やっぱりただのサシェではなかったってことなのか。ふむふむと頷いていると、イノリが真剣な顔で言う。
「このサシェは、ちょっとヤバい効能がある。……でも、それを姫岡に認めさせられるかが、わかんないよねー」
「そうなんだよねぇ」
「えっ」
イノリと二見は頷き合っている。どういうこと? 不可思議な所があるんだし、普通に聞けば答えてくれるんじゃ……。
そう言うと、二見は肩を竦めた。
「いや――このサシェは確かにやばいし、「変質者」へのアシストをしてたのは間違いないんだけど。姫岡を追い詰める証拠としては弱いと思う。まず、故意かどうかを、ハッキリさせにくいから」
「そうなのか?」
「――言い逃れ……されないように頑張るけどさ」
二見は難しい顔で言った。
それから、一度「聴取」の形で、姫岡に話を聞くことにしたと教えてくれた。俺も、同席させてもらうことにした。イノリにはスゲェ心配されたけど、なんとかわかってもらえた。
姫岡先輩が、実際にクロかシロか、いちど本人に話を聞いてみたいからな。
とっさに腕で目を覆ってから――「窓開いてるじゃん」って気づく。
「トキちゃん!」
「イノリ!」
窓際には想像通り。イノリが、はためくカーテンを押さえて立っていた。亜麻色の髪が流れて、きらきらしてる薄茶の目がよく見える。
駆け寄って飛びつくと、危なげなくキャッチしてくれる。ふわっと甘い香りがして、頬が緩んだ。
「おかえり! 出張どうだった?」
「ただいまー。出張はがんばったよー。トキちゃんは?」
「俺は大丈夫! お疲れイノリ」
「へへー」
両頬を包まれて、上を向くと得意げな笑顔が間近にある。子供みたいで、かわいい。
ニコニコと笑い合ってると、背後で「ゴホゴホッ」と咳き込む声が聞こえた。
振り向くと、二見が半眼でドアに凭れている。やべっ、完全に忘れてた!
俺は、バッと体を離す。
「うわわ、すまん!」
「えー、なんでいんのー?」
「ははは。オレも同じこと思ってたとこ」
目を丸くするイノリに、「やれやれ」のポーズで二見が答える。俺は、恥ずかしいやらばつが悪いやら、ダラダラ汗をかいちまった。
事情をかくかくしかじかと説明して、時間もねえし、メシを食いながら話すことになった。机を三つくっつけて、持ってきたメシを広げる。
「二見くん、わかったことってなにー?」
俺の口にミルクフランスを押しつけつつ、イノリが問う。と、チャーハンからザーサイをえり分けていた二見が、ファイルから取り出したプリントを、机に置いた。
「これね、サシェの解析結果なんだけど」
「えっ、すげぇ」
「ふふん。まあ、オレがやったんじゃないけど――ちょっと読んでみてよ」
「ありがとー」
イノリがプリントを読んで、ハッと顔を上げる。
「二見くん、これってマズくない?」
「そうなんだよね。相手も流石、慣れてんな」
苦い顔で、二見も同意する。二人の反応が謎だったけど、俺もまず読ませてもらうことにする。
「ええと――サシェの解析結果……中のハーブに呪いがかかってることが判明。安眠効果の呪いで、使っても犯罪性はない。ただ、微量に術者の血液が混入していて、効果が強くなっている……」
ふむ、そうだったのか。ええと――よく眠れるお呪いがかかってたんだよな。で、それは悪いものではなくて、姫岡先輩も「安眠グッズ」って言って、渡してくれてたから……。
「じゃあ、姫岡先輩はシロ?」
そう言うと、二見は激しく首を振った。
「――ってことは無いと思うよ、オレは。このサシェ置いてから、変態が来るようになったわけだし。それに、気を失うくらい眠くなって、体が動かなくなったんでしょ?」
頷くと、イノリが思案気に目を伏せて言う。
「トキちゃん。本来、これにかかってたお呪いはね? そこまでの効果はないんだ。せいぜい、冷えが改善して気持ちが落ち着くくらい」
「えっ!」
そんなもんじゃなかったぞ。体の力が抜けて、真夜中に目が覚めても動けないくらいで。
「多分、ミソなのはこの「血」だよね」
目を白黒させていると、二見が真剣な顔で引き継いだ。
「血?」
「あのね。魔法使いの肉体で「魔力」を多く含んでいるのは、「髪」・「体液」・「血液」なんだよね。だから、この三つは呪術に多く使われる」
「へー、なんで?」
「魔力を多く含んでいるものを媒介にするとね、魔法の効果が上がるんだよ。何て言ったらいいかなー。パンチで言うと、石握って殴るみたいなかんじ」
「おお、なるほど」
ともかく、威力が増すってことだな。二見は、続ける。
「このサシェのハーブには、血が混ざってたって言ったっしょ? この血が、単なる安眠のお呪いに、強度の入眠効果を与えてるんだ。実際、実験して貰ったら、けた違いに効能が上がってたらしくってさ」
「そうなんだ……」
じゃあ、やっぱりただのサシェではなかったってことなのか。ふむふむと頷いていると、イノリが真剣な顔で言う。
「このサシェは、ちょっとヤバい効能がある。……でも、それを姫岡に認めさせられるかが、わかんないよねー」
「そうなんだよねぇ」
「えっ」
イノリと二見は頷き合っている。どういうこと? 不可思議な所があるんだし、普通に聞けば答えてくれるんじゃ……。
そう言うと、二見は肩を竦めた。
「いや――このサシェは確かにやばいし、「変質者」へのアシストをしてたのは間違いないんだけど。姫岡を追い詰める証拠としては弱いと思う。まず、故意かどうかを、ハッキリさせにくいから」
「そうなのか?」
「――言い逃れ……されないように頑張るけどさ」
二見は難しい顔で言った。
それから、一度「聴取」の形で、姫岡に話を聞くことにしたと教えてくれた。俺も、同席させてもらうことにした。イノリにはスゲェ心配されたけど、なんとかわかってもらえた。
姫岡先輩が、実際にクロかシロか、いちど本人に話を聞いてみたいからな。
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