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第一部 決闘大会編
百六十五話
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よーし、心機一転!
俺は、校庭をぐんぐん走っていた。肩からかけた鞄が、背中でバンバン弾む。
と、前方に見慣れた二人を発見する。
「片倉先輩、おはようございます! 森脇、おはよう!」
「お、おはよう」
「げっ……朝からうるせえやつだな」
駆け寄ると、思い思いのリアクションで振り返ってくれた。足を緩めて、森脇の隣に並ぶ。
「いい天気っすね。調子どうっすか? テスト」
「んだその、オッサンみてえな切り口……まあボチボチ」
「ぼぼ、僕も調子は、悪くないかな? あっ、でも法規がち、ちょっと不安かも」
「そっかあ!」
「……てか、人にだけ聞くな。お前は」
「俺は――ええと、世界史が自信ありっす!」
なんか、喋りながら頬が勝手に笑ってくる。
テストの間は、補習がないからさ。今まで毎日みたいに顔を合わせていたから、ちょっと変な感じするよな。
「そうだ、テスト明けの勉強会のことなんすけど。スポドリ持ってくのどうすかね?」
「い、いいと思う。ぼ、僕そういうの行ったことないから、く詳しくないけど」
「まあ、無難なんじゃねーの」
葛城先生が、「期末試験にまず集中すべきだ」って言っててさ。勉強会はテスト明けに参加させてもらうことになったんだ。テスト終わって、楽しみがあるなんて最高だよな!
差し入れの賛同を貰えて、俺はたいそう気が良くなった。
「やった! スポドリなら俺たちも飲むと思うし、邪魔にならんすよねっ」
「……待て。飲むってなんだ、何かやるつもりかお前。言っとくが、俺は見に行くだけだからな」
「楽しみだなー」
「僕も、た、楽しみ!」
「聞け、おい!」
わははと談笑しながら、校庭を歩く。
片倉先輩は校舎が違うから、途中で別れた。森脇と問題を出し合いつつ、廊下を歩く。
――ピリっ。
と、また謎の視線を食らいつつ。
これ、マジでなんなんだろうなー。今まで、何者かとか気にしてなかったけどさ。もしかして、謎の「腕」と、同じ奴だったりすんのかな……。
いやいや。
思い付きだけど、けっこう、ありそうだよな。
そんなにたくさんの奴から、恨みなんか買わないと思うし。たぶん。
これ、いっかい相談してみようかな。
「よ、吉村くん? どうしたの?」
「ん? 何でもないぞ!」
不思議そうな森脇に、俺はニカッと笑った。
「吉村くん、いる?」
午前のテストを終えたとき、二見が教室に顔を出した。
眩い金髪が、ひょいとドアから生えてきて、ざわわ、とクラスメイトがどよめいた。
「二見くん! どうしたの?」
「うん、風紀の仕事でさー。ちょっとね?」
「テスト期間なのに、大変だね。えっと、吉村だっけ。呼ぶ?」
「ありがとー!」
にこやかに話している二見に、てこてこ近づいてく。
と、二見は爽やかな笑顔を浮かべて、手を上げた。
「いたいた。吉村くん、ちょっと風紀室まで来てくれる?」
「おう、わかった」
二見は最後まで、クラスメイトに手を振りながら、教室を後にした。俺はその後を、追いかける。
「二見くん、巡回?」
「そうだよー。送迎も兼ねてるけど」
「頑張ってね!」
二見は、廊下を歩いていても、道行く人にめっちゃ声をかけられていた。その一人一人に、ニコニコ喋ってんのをみて、俺は「ほええ」と息を漏らす。友達たくさんだな、こいつ。
「ん? 何、ジロジロ見て」
「いや、すげえなって」
「あはは。大切でしょ、こういうのって。オレ、桜沢祈みたいになりたくねーし」
「イノリ?」
なんで、イノリが出てくんだ? 首を傾げていると、二見は頭の後ろで腕を組んだ。
「オレ、好きな時に誰とでも話したいんだよね。友達と陰でコソコソ会うくらいなら、八方美人した方がまし」
「んん……?」
それって、どういうこと。
米神をぐりぐりして、答えを絞り出す。
「……敵をつくらんってこと?」
「いや、顔のいい男の宿命」
二見は髪をかき上げて、流し目をくれた。
なかなか、よくわかんねえ奴だと思った。
「ところでさ、さっきから道違うくね?」
何も考えずについてきたから、気づくの遅れたんだけど。第三風紀に行く道と、明らかに違うんだが。
二見は、かわいそうなものを見る目をした。
「いや、嘘にきまってんじゃん」
「嘘!?」
「こないだ決めた方針で、風紀に行くわけないでしょうよ。何驚いてんの、オレが驚きたいよ」
「えええ」
二見いわく、「風紀に行く」と言ったのは、合法で俺を呼びだす方便で。本当は、「風紀」では出来ない話をするために呼び出したんだそうだ。
「じゃ、どこに向かってんだ?」
「そりゃ、誰にも風紀にも、話を聞かれない所だよ」
「そんなとこあんの?」
「あるよ。――あそことかね」
二見が指さした先を見て、俺は目を見開いた。そこには、よく見慣れたあの建物。
「――21号館?!」
「生徒会のスポットなら、不可侵領域ですから。それに、今日なら、桜沢祈も帰ってんでしょ。ほら、行くよー」
「あっ、ちょ待っ」
俺は、ずるずると二見に手を引かれ、21号館に足を踏み入れた。
俺は、校庭をぐんぐん走っていた。肩からかけた鞄が、背中でバンバン弾む。
と、前方に見慣れた二人を発見する。
「片倉先輩、おはようございます! 森脇、おはよう!」
「お、おはよう」
「げっ……朝からうるせえやつだな」
駆け寄ると、思い思いのリアクションで振り返ってくれた。足を緩めて、森脇の隣に並ぶ。
「いい天気っすね。調子どうっすか? テスト」
「んだその、オッサンみてえな切り口……まあボチボチ」
「ぼぼ、僕も調子は、悪くないかな? あっ、でも法規がち、ちょっと不安かも」
「そっかあ!」
「……てか、人にだけ聞くな。お前は」
「俺は――ええと、世界史が自信ありっす!」
なんか、喋りながら頬が勝手に笑ってくる。
テストの間は、補習がないからさ。今まで毎日みたいに顔を合わせていたから、ちょっと変な感じするよな。
「そうだ、テスト明けの勉強会のことなんすけど。スポドリ持ってくのどうすかね?」
「い、いいと思う。ぼ、僕そういうの行ったことないから、く詳しくないけど」
「まあ、無難なんじゃねーの」
葛城先生が、「期末試験にまず集中すべきだ」って言っててさ。勉強会はテスト明けに参加させてもらうことになったんだ。テスト終わって、楽しみがあるなんて最高だよな!
差し入れの賛同を貰えて、俺はたいそう気が良くなった。
「やった! スポドリなら俺たちも飲むと思うし、邪魔にならんすよねっ」
「……待て。飲むってなんだ、何かやるつもりかお前。言っとくが、俺は見に行くだけだからな」
「楽しみだなー」
「僕も、た、楽しみ!」
「聞け、おい!」
わははと談笑しながら、校庭を歩く。
片倉先輩は校舎が違うから、途中で別れた。森脇と問題を出し合いつつ、廊下を歩く。
――ピリっ。
と、また謎の視線を食らいつつ。
これ、マジでなんなんだろうなー。今まで、何者かとか気にしてなかったけどさ。もしかして、謎の「腕」と、同じ奴だったりすんのかな……。
いやいや。
思い付きだけど、けっこう、ありそうだよな。
そんなにたくさんの奴から、恨みなんか買わないと思うし。たぶん。
これ、いっかい相談してみようかな。
「よ、吉村くん? どうしたの?」
「ん? 何でもないぞ!」
不思議そうな森脇に、俺はニカッと笑った。
「吉村くん、いる?」
午前のテストを終えたとき、二見が教室に顔を出した。
眩い金髪が、ひょいとドアから生えてきて、ざわわ、とクラスメイトがどよめいた。
「二見くん! どうしたの?」
「うん、風紀の仕事でさー。ちょっとね?」
「テスト期間なのに、大変だね。えっと、吉村だっけ。呼ぶ?」
「ありがとー!」
にこやかに話している二見に、てこてこ近づいてく。
と、二見は爽やかな笑顔を浮かべて、手を上げた。
「いたいた。吉村くん、ちょっと風紀室まで来てくれる?」
「おう、わかった」
二見は最後まで、クラスメイトに手を振りながら、教室を後にした。俺はその後を、追いかける。
「二見くん、巡回?」
「そうだよー。送迎も兼ねてるけど」
「頑張ってね!」
二見は、廊下を歩いていても、道行く人にめっちゃ声をかけられていた。その一人一人に、ニコニコ喋ってんのをみて、俺は「ほええ」と息を漏らす。友達たくさんだな、こいつ。
「ん? 何、ジロジロ見て」
「いや、すげえなって」
「あはは。大切でしょ、こういうのって。オレ、桜沢祈みたいになりたくねーし」
「イノリ?」
なんで、イノリが出てくんだ? 首を傾げていると、二見は頭の後ろで腕を組んだ。
「オレ、好きな時に誰とでも話したいんだよね。友達と陰でコソコソ会うくらいなら、八方美人した方がまし」
「んん……?」
それって、どういうこと。
米神をぐりぐりして、答えを絞り出す。
「……敵をつくらんってこと?」
「いや、顔のいい男の宿命」
二見は髪をかき上げて、流し目をくれた。
なかなか、よくわかんねえ奴だと思った。
「ところでさ、さっきから道違うくね?」
何も考えずについてきたから、気づくの遅れたんだけど。第三風紀に行く道と、明らかに違うんだが。
二見は、かわいそうなものを見る目をした。
「いや、嘘にきまってんじゃん」
「嘘!?」
「こないだ決めた方針で、風紀に行くわけないでしょうよ。何驚いてんの、オレが驚きたいよ」
「えええ」
二見いわく、「風紀に行く」と言ったのは、合法で俺を呼びだす方便で。本当は、「風紀」では出来ない話をするために呼び出したんだそうだ。
「じゃ、どこに向かってんだ?」
「そりゃ、誰にも風紀にも、話を聞かれない所だよ」
「そんなとこあんの?」
「あるよ。――あそことかね」
二見が指さした先を見て、俺は目を見開いた。そこには、よく見慣れたあの建物。
「――21号館?!」
「生徒会のスポットなら、不可侵領域ですから。それに、今日なら、桜沢祈も帰ってんでしょ。ほら、行くよー」
「あっ、ちょ待っ」
俺は、ずるずると二見に手を引かれ、21号館に足を踏み入れた。
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