俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百五十六話

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 どうして、ここにイノリが。お前、出張に行ってるはずじゃ。
 犯人を捕まえようとして、先輩たちと待ち伏せしてて。先輩たちが倒れてて、犯人かと思ったらイノリが居て――。
 俺はイノリの腕の中で、どうしようもなく混乱してた。無意識に背中に回した腕が、でっかい背中にしがみつく。

「イ、イノリ。なんで」
「トキちゃん、怖かったね。もう大丈夫だよ……」

 俺が怖がってると思ったのか、イノリが優しい声で囁いた。背中を撫でられて、頭がとろんとしかけて――倒れている先輩たちの姿が目に入る。

「さ、佐賀先輩、西浦先輩!」
「えっ?」

 呆けてる場合じゃなかった!
 慌てて腕を解いて、先輩たちに駆け寄った。二人はうつ伏せに折り重なって、ピクリとも動かない。
 俺は傍らに膝をついて、西浦先輩の胴に腕を入れて床に寝かせた。

「先輩、大丈夫っすか!?」
「……っ」

 西浦先輩は、眉根を寄せて息を吐いた。呼びかけに応じるように、まぶたが震えてる。
 大丈夫なのか? 不安で胸が苦しい。
 と、イノリが俺の肩越しにひょいと顔を出す。

「あれぇ? この人たちって……ひょっとして、トキちゃんの先輩ー?」
「そそ、そうだよっ! どうしよう?! 俺のために、犯人捕まえてくれようとしてっ」

 どうしよう。俺のせいで、先輩たちが大変なことに。
 あわあわとまくし立てると、イノリが難しい顔で顎をさすった。

「あー……そうなんだ。ごめんねえ、勘違いして投げちゃった」
「へっ」
「トキちゃんの部屋来たら、なんか潜んでる感じだったからー。……敵かと思って、投げちゃった。てへ」

 て、てへじゃねえ!
 俺はどっと脱力して、床に倒れ伏した。





 しばらくして、先輩たちは復活なされた。
 ローテーブルに集まって、四人顔を突き合わせる。俺は救急箱をもって、うろついた。

「西浦先輩、佐賀先輩。……すみません、あの、痛いとことか」
「ううん。……怪我はしてないから、大丈夫だよ」
「ちっ。打ち身さえねぇわ。てめえムカつくなァ、桜沢」
「え?」
「ごめんなさいー」

 佐賀先輩に睨まれて、イノリがぽりぽりと頬をかく。
 でも、倒れたのに怪我が無いなんて。おろおろしていると、イノリが説明してくれた。
 イノリが言うには、打撃を加えたわけじゃなくて、魔力を流し込んだんだって。

「俺の魔力って主に風じゃん? 敵の身体に流してやると、暫く体に力が入らなくなるっていうかー。俺からしても、相手が軽くなるから制圧しやすいしー」
「へっ。すかした野郎だな。骨の一、二本折れても構わねぇだろうが」

 佐賀先輩が、ふんと鼻を鳴らす。イノリは「ええ」とたじろいだ様に、身を引いた。
 と、静観していた西浦先輩が、「あの」と声を上げる。

「ところで、桜沢くんは何でここに?」
「俺は、トキちゃんのことが気になって――」

 言いかけて、イノリはくるんと俺に薄茶の目を向けた。ぎょっとするほど迫力がある。

「俺も聞いていい? なんで、こんな捕り物してんのかー」
「うっ……わかった」

 じっと見つめられて、圧に耐えかねて俺は頷いた。
 かくかくしかじか――と俺は今日までの経緯を、イノリに話した。かっこつけて黙っていたことも全部ばれちゃって、俺は話すうちに顔が熱くてしょうがなかった。

「……そっかぁ」

 全部聞き終えたイノリは、ぽつりと呟いた。目を伏せた横顔を見て、その静かさに不安になる。

「大変だったんだね、トキちゃん……」
「い、いや、そんなことねぇけど」

 そっと手を握られておろおろしていると、佐賀先輩がずばりと言う。

「で、桜沢。てめぇはどうして此処に来た?」

 イノリは俺の手を取ったまま、二人に顔を向ける。

「俺はぁ――二つ気になることがあって。まず、最後に会ったとき、トキちゃんの様子がおかしかったから?」
「へ?」

 いつもと変わんないつもりだったんだけど……。
 きょとんとしていると、イノリはマジな目をして続ける。

「だって、トキちゃん。寂しいって目が言ってたもん。普段、会えなくても、次会う時楽しみにしよって感じなのにー。けど、あの日は服もギュってしてくれて」
「うおおおおお! 何言ってんだお前は!」

 先輩たちに甘えたの知られんの、恥ずかしすぎるだろがい!
 慌てて口を塞ごうと伸ばした手を、イノリがはっしと掴んだ。

「そういう時のトキちゃんて、なんか不安なんでしょ。だから、心配で」
「……!」

 俺は、ハッとした。

「イノリ、俺――」
「で、もう一個気になることってのは、何だ?」
「佐賀……」

 西浦先輩が、呆れ声で呟いて。俺はまた、耳が熱くなった。イノリは肩を軽く竦めて、口を開く。

「もう一個の理由は、か――」

 そこまで言いかけて、イノリがピクリと動きを止めた。

「イノリ?」

 俺の口に人差し指を添えて。イノリは、音もなく立ち上がる。
 そのまま、ドアに向き直ったかと思うと――

バタン! バタン!

 イノリの姿がかき消える。と、ドアが風にあおられたノートみたいに激しく揺れた。
 そして、気がつけば部屋に戻っていたイノリが、”なにか”を床にねじ伏せていた。――ドアも何事もなかったみたいに、固く閉じている。

「ええっ!?」

 いつの間に、何が起こった!
 おろおろしている俺をよそに、先輩たちがイノリに駆け寄った。

「桜沢くん! そいつは」
「なんでしょ。部屋ん中、窺ってたんで―。とりあえずやっとくかーみてぇな」
「でかした!」

 喧嘩っ早いことを言うイノリに、佐賀先輩が拳を叩く。
 イノリの身体の下を見て、俺は瞠目した。
 そこには、なにもなかった。
 なのに、イノリの体さばきで、確実に何か制圧してるってわかる。――そうだ。まるで、透明人間がいるみてえな。
 と、そのとき。

『いたたた! マジ痛いんだけどー!』

 なにも無かった空間から、叫び声がした。
 ……なんか、聞きなれた声じゃね? と思った矢先に、そこの景色がぐずぐずと解けた。
 そして、姿を現したのは――。
 素っ頓狂な柄のパジャマと、眩い金髪。

「二見!?」

 なんと、二見だったんだ。

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