俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百五十七話

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「もう、酷い目にあったよ!」

 拘束を解かれた二見は、ぷりぷりと怒っていた。痛そうに肩をさすっていて、申し訳なくなる。

「ごめんな、二見。イノリ、犯人捕まえようとしてくれたんだ」
「だろうね! じゃなきゃやべー奴だよ、いきなり掴みかかるとかさぁ」
「ごめーん、怪しかったからー」
「軽い! てか、なんで桜沢祈がいんの。生徒会のやつらは出張でしょ?」
「それは――」

 俺は、かいつまんで理由を話した。カッカしながらも、話を聞いてくれた二見は、呆れ顔になる。

「へぇ、吉村くんが心配でね。アンタ、愛に生きてんなあ」
「別に、ふつうだしー」

 イノリは、ふいと顔を逸らす。その耳が赤くなっていて、俺はどきっとした。
 胸を拳でゴシゴシしてると、西浦先輩が二見にたずねる。

「二見くん、だっけ。さっきは何してたの?」
「やだなあ。吉村くんの警備です。風紀の仕事で――」
「ねえだろ。風紀が一度終わった事件を掘り起こすなんざ、ありえねえ」

 佐賀先輩の言葉に、二見は首を捻った。

「佐賀さんて、風紀をよく知ってるんですね?」
「一応、小等部から居るもんでな。お前らがどんな仕事するかくれェわかる」
「マジですか。なんか気まずいなあ」

 ハハハ、と笑い声をあげて二見は、頭の後ろで手を組んだ。そして、あっけらかんと言う。

「そうです。この件で風紀はもう動いてません。だから――今夜のこれは、オレの個人的な捜査かな」
「きみ、単独でやってんのー?」

 首をこてんと傾げるイノリに、二見はニッと笑う。

「そうだよ」
「二見……ありがとう」

 そんなに、心配してくれてたとは。
 きらきらと熱い目を向けると、「あー、違う違う」と手を振られた。

「別に、吉村くんのためってワケじゃないよ。ただ、オレが調べてる事件と、この件ってほぼ被ってて」
「あ、そうなん?」
「へえ。なに調べてんのぉ?」

 イノリが、ずいと割って入る。
 なぜか、でっかい手で俺の頭を撫でながら。ちょい恥ずかしいんだけど。
 二見は天井を見上げて、ピアスを指で探っている。

「とある事件の真相を解明したくてね。一応は解決済みになってるから、オレがやらなきゃ誰も調べないだろうし」
「解決してるのに、調べるのか?」

 俺とイノリは、二人で顔を見合わせた。二見は、米神を引きつらせている。

「いや、今の状況も省みて? 解決済みの事件が、真相解明されてると限らないでしょ。――てか、吉村くん。オレのメモ読まなかった?」
「あ、インサイドってやつ? 見たよ」

 あれ、やっぱり伝言だったんだな。二見は、焦れたようにテーブルに身を乗り出す。

「なら、オレが何を疑ってるかわかるでしょ?!」

 青い目が、まっすぐに俺を射抜く。
 どうしよう。この状況で、わかんねえって言いづらいな。
 ぼりぼり頭を掻いていると、静観していた西浦先輩が声を上げた。

「もしかして――インサイドって”inside job”のことを言ってる?」
「それ!」

 二見は、ビシッと指を指す。天の助け、とばかりに顔が光ってる。
 てか、俺以外の全員が「あー」って頷いてて、疎外感が半端ねぇぜ。

「あのう……インサイドジョブって何すか?」

 おずおず手を上げて言うと、佐賀先輩が目をかっぴらく。

「てめえ、マジ勉強しろよ」
「うぐっ」
「佐賀! 吉ちゃん、”insidejob”って言うのはね、”内部の犯行”って意味なんだ」
「ないぶのはんこう?」
「内部犯ともいうかな。それを、二見くんが言ったんだよね。二見くんにとっての内部って、どこかわかる?」

 二見にとって内部。
 二見が所属してるグループってこと、だよな。それって、つまり――。

「あっ」

 がば、と顔を上げると、二見が頷いた。
 でも――まさか、信じらんねえよ。
 だって、みんな親切だったぜ。

「つまり。風紀に犯人がいるって疑っているんだね」

 西浦先輩が呟いて、それが小さな声だったのに、やたら大きく響いた。
 
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