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第一部 決闘大会編
百五十五話
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そして、再び捕り物が始まった。
時は、深夜。
ドアに耳をつけて、外の様子を窺っていた西浦先輩が囁くような声で言った。
「――特に変化なし」
「そうか」
ドアの横(西浦先輩の逆隣り)に立った佐賀先輩が、低い声で応ずる。カーテンからヒョイと顔を出して、俺は「うすっ」と敬礼した。
作戦は、いたってシンプルだ。
先輩たちがドアの横に身を潜め、部屋に入ってきた犯人を捕まえる。ちなみに俺は、ベッドに転がって、犯人を油断させる役だ。
「吉ちゃん、本当に無理してない? クッションとかで代役できるから、田中の部屋に避難しててもいいんだよ?」
西浦先輩が、俺を振り返って言う。「参加させて欲しい」って言ったときから、ずっと心配してくれてるんだ。
俺は、胸を拳でドンと叩く。
「大丈夫っす。俺もやらせてください!」
「……わかった。無理しないでね」
「うす!」
俺は、元気よく答えた。
先輩たちが一緒にいてくれてるから、ホントに全然怖くねえ。何だったら、どんな奴が犯人なのか、見て確かめてえ気持ちもわいてきたんだ。
それに、やっぱり俺の問題なんだから。
自分だけ安全なゾーンにいるなんて、ガラじゃねえぜ!
「――おい、西浦」
「え?」
「ちょっと」
そのとき、佐賀先輩が西浦先輩に何か目配せする。促されて、外の様子を窺った西浦先輩は、ハッと目を見開いた。
「誰か来る」
「やっぱりか」
佐賀先輩が、どう猛に笑う。
「変なやつっすか?」
「多分。――通行人じゃないのは確かだと思う」
「気配の消しようが半端ねェ。気づかれたくねえって意思がビンビンくるぜ」
「なんと」
そうなのか……!
正直、頷いたものの全然わからんかったけど。先輩たちは、「なにか」を感じているらしい。
西浦先輩に手で促され、俺は布団に潜り込んだ。カーテンをほんのちょっと隙間あけて、アピールすることも忘れない。
そんでもって、布団から目だけ出して外の様子を窺った。
「……!」
先輩たちは、ドアから離れて入り口からの死角に身を潜めていた。
全然、気配がなかった。そこにいるって知ってる俺でも、一瞬見失ったくらい。
先輩たち、すげぇ。俺も修行して、あんな風にやってみてえぜ。
興奮して身じろぐと、頬がモフッとしたものに当たる。――枕元に畳んでおいといた、イノリのカーデだ。ふんわりと甘い香りが漂う。
ぎゅっと握って、外を見る。
ん?
なんか、違和感があった。
なんだろう。西浦先輩が眉を寄せるのが、はっきりと見える。――あ、そうか!
部屋が、ちょっと明るくなってんだ。
って。
いつの間にか、ドアが僅かに開いている。
スー……と廊下から入ってくる光が大きくなって。
そこに、誰か立ってんのが見えた。カーテンの隙間がちっさ過ぎて、どんな人かはわからない。
「……」
人影は、動かない。
中に入ることも、かといって戸を閉めることもない。――中の様子を窺っているのか。
緊張で、布団を握る指に汗が滲んだ。
キシッ。
床を踏む音が、かすかに響いた。
入ってくる!――そう思った刹那。
ダン!
床を強く踏み切る音が、響く。――先輩たちが動いたんだ!
鋭く風を切る音が聞こえ、俺はガバッと身を起こした。
カーテンに取りついて、顔を出す。
そして――瞠目した。
「佐賀先輩! 西浦先輩!」
先輩たちは、折り重なるように床に倒れていた。
俺はわっと叫んで、ベッドから飛び出した。
「ぶっ!」
と、顔面が何か固いものにぶち当たる。
呻くと、ぎゅっと背中が締め付けられた。
腕だ。――羽交い絞めにされてる?!
「うー!」
逃れようと身を捩ると、ぎゅっと強く顔を押し付けられた。
そのとき、ふわっと甘い香りがかおる。
――あっ。
俺は、ハッとして動きを止めた。
「トキちゃん!」
トキちゃん。
俺をそんな風に呼ぶのは、ひとりだけ。
でも。あいつがここに居るはずが――。
おそるおそる顔を上げる。
「……トキちゃん、どうしたの」
「……え」
そこには予想通り――イノリがいた。
なんで?
息を飲む俺を、イノリはもう一度ギュッと抱きしめた。
時は、深夜。
ドアに耳をつけて、外の様子を窺っていた西浦先輩が囁くような声で言った。
「――特に変化なし」
「そうか」
ドアの横(西浦先輩の逆隣り)に立った佐賀先輩が、低い声で応ずる。カーテンからヒョイと顔を出して、俺は「うすっ」と敬礼した。
作戦は、いたってシンプルだ。
先輩たちがドアの横に身を潜め、部屋に入ってきた犯人を捕まえる。ちなみに俺は、ベッドに転がって、犯人を油断させる役だ。
「吉ちゃん、本当に無理してない? クッションとかで代役できるから、田中の部屋に避難しててもいいんだよ?」
西浦先輩が、俺を振り返って言う。「参加させて欲しい」って言ったときから、ずっと心配してくれてるんだ。
俺は、胸を拳でドンと叩く。
「大丈夫っす。俺もやらせてください!」
「……わかった。無理しないでね」
「うす!」
俺は、元気よく答えた。
先輩たちが一緒にいてくれてるから、ホントに全然怖くねえ。何だったら、どんな奴が犯人なのか、見て確かめてえ気持ちもわいてきたんだ。
それに、やっぱり俺の問題なんだから。
自分だけ安全なゾーンにいるなんて、ガラじゃねえぜ!
「――おい、西浦」
「え?」
「ちょっと」
そのとき、佐賀先輩が西浦先輩に何か目配せする。促されて、外の様子を窺った西浦先輩は、ハッと目を見開いた。
「誰か来る」
「やっぱりか」
佐賀先輩が、どう猛に笑う。
「変なやつっすか?」
「多分。――通行人じゃないのは確かだと思う」
「気配の消しようが半端ねェ。気づかれたくねえって意思がビンビンくるぜ」
「なんと」
そうなのか……!
正直、頷いたものの全然わからんかったけど。先輩たちは、「なにか」を感じているらしい。
西浦先輩に手で促され、俺は布団に潜り込んだ。カーテンをほんのちょっと隙間あけて、アピールすることも忘れない。
そんでもって、布団から目だけ出して外の様子を窺った。
「……!」
先輩たちは、ドアから離れて入り口からの死角に身を潜めていた。
全然、気配がなかった。そこにいるって知ってる俺でも、一瞬見失ったくらい。
先輩たち、すげぇ。俺も修行して、あんな風にやってみてえぜ。
興奮して身じろぐと、頬がモフッとしたものに当たる。――枕元に畳んでおいといた、イノリのカーデだ。ふんわりと甘い香りが漂う。
ぎゅっと握って、外を見る。
ん?
なんか、違和感があった。
なんだろう。西浦先輩が眉を寄せるのが、はっきりと見える。――あ、そうか!
部屋が、ちょっと明るくなってんだ。
って。
いつの間にか、ドアが僅かに開いている。
スー……と廊下から入ってくる光が大きくなって。
そこに、誰か立ってんのが見えた。カーテンの隙間がちっさ過ぎて、どんな人かはわからない。
「……」
人影は、動かない。
中に入ることも、かといって戸を閉めることもない。――中の様子を窺っているのか。
緊張で、布団を握る指に汗が滲んだ。
キシッ。
床を踏む音が、かすかに響いた。
入ってくる!――そう思った刹那。
ダン!
床を強く踏み切る音が、響く。――先輩たちが動いたんだ!
鋭く風を切る音が聞こえ、俺はガバッと身を起こした。
カーテンに取りついて、顔を出す。
そして――瞠目した。
「佐賀先輩! 西浦先輩!」
先輩たちは、折り重なるように床に倒れていた。
俺はわっと叫んで、ベッドから飛び出した。
「ぶっ!」
と、顔面が何か固いものにぶち当たる。
呻くと、ぎゅっと背中が締め付けられた。
腕だ。――羽交い絞めにされてる?!
「うー!」
逃れようと身を捩ると、ぎゅっと強く顔を押し付けられた。
そのとき、ふわっと甘い香りがかおる。
――あっ。
俺は、ハッとして動きを止めた。
「トキちゃん!」
トキちゃん。
俺をそんな風に呼ぶのは、ひとりだけ。
でも。あいつがここに居るはずが――。
おそるおそる顔を上げる。
「……トキちゃん、どうしたの」
「……え」
そこには予想通り――イノリがいた。
なんで?
息を飲む俺を、イノリはもう一度ギュッと抱きしめた。
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