上 下
154 / 239
第一部 決闘大会編

百五十四話

しおりを挟む
 午後の試験を終えて、部屋に戻った俺は目を丸くした。

「西浦先輩!」
「吉ちゃん、おかえり」

 西浦先輩が、部屋にいる!
 先輩は、でっかいリュックから荷物を取り出していた。俺は、ドタドタと部屋へ駆け込んで、先輩の対面に滑り込む。

「あのっ。ひょっとして、今日から戻ってこられるんすか?」

 期待にドキドキしながら尋ねると、先輩は穏やかに笑って頷いてくれた。

「嬉しいっす! あっ俺、荷ほどきお手伝いします」
「ありがとう、吉ちゃん」

 気合入れて、ぎゅぎゅっと袖まくり。二人でせっせと、荷物の整理をした。
 その間、たくさん喋った。田中先輩のこととか、試験のこととか、話したいことがいっぱいあったから。
 佐賀先輩とはどうなったのかも、めっちゃ気になったけどさ。なんとなく聞けなくて、馬鹿話ばかりしてしまう。

「――で、ドーナツ食べてたら、薬を煮込みすぎちまって」
「あはは。よっぽど美味しかったんだね」

 俺の話を聞いててくれた先輩が、ふと笑いを治めた。で、洗濯物を畳んでいた手を止めて、居住まいを正す。
 きょとんとしてると、西浦先輩は俺の手をそっと取る。

「……ごめんね、吉ちゃん」
「へ?」
「昨夜、佐賀から聞いたんだ。すごく大変なことになってたんだね。――頼りにならない先輩で、ごめん」
「えっ、あっそんな!」

 苦しそうに顔を歪める先輩に、俺は慌てた。手をぎゅっと握って、ぶんぶん振り回す。

「気にしないで下さい。俺が勝手に黙ってたんすから」

 自分一人で何とかしようって、俺が自分で決めたんだ。先輩が気に病むことなんてない。
 元気を出してほしくて、言い募る。すると、西浦先輩は唇を引き結んだ。

「それでも、ごめん。――おれ、このままで終わらせないからね」
「え?」

 そのとき、ガチャッと音を立ててドアが開いた。

「あ、佐賀先輩。お帰りなさいっす」
「おう」

 佐賀先輩が、のしのし部屋に入ってくる。隣で、西浦先輩が少し緊張した気配があった。

「――早かったね」
「まあな」

 鞄をドサッと床に放って、佐賀先輩が着替え始める。

「西浦。もう話したか?」
「いや。今から言おうと思ってたとこ」
「そうか」

 おお、二人が話している。
 ちょっとぎこちないけど、久しぶりの光景にジーンとしちまう。
 佐賀先輩が、俺の横にドカッとあぐらをかいた。好戦的な目で、俺たちを見る。

「さて。これからどうすッか、決めようぜ」
「これから?」

 なんだろう? 首を捻って、ハッとする。

「晩メシっすか?」
「蹴るぞ」
「ぎゃっ!」

 眼光、鋭すぎだよ! 
 ずざっと後ずさると、西浦先輩が苦笑した。

「晩飯は後で行くとして。まず、もっと肝心なことを話さなきゃね。気味の悪い変質者を、捕まえる段取りとかさ」

 佐賀先輩も、にっと口の端をつり上げて言う。

「犯人は、俺たちで捕まえる。風紀が動かない以上、てめェらで何とかするほかねえからな」
「えっ」

 ハッとして、先輩たちの顔をきょろきょろと見比べた。
 先輩たち、犯人を捕まえるつもりなんだ。
 いや、それもだけど――。

「あの、犯人って。マジでいると思いますかっ?」
「は? いるんだろうが」

 佐賀先輩が怪訝そうに片目を細めた。
 そうなんだけど、こうあっさり受け入れてもらえると思わなくて。我ながら、眉唾的な部分がある話だし。
 戸惑っていると、西浦先輩に肩を叩かれる。

「固く考えないで。吉ちゃんが嫌な思いしたなら、それが事実だとおれは思うよ」
「西浦先輩……」

 胸に熱いものがこみあげてきて、俺はぎゅっと口を噛んだ。俺、この部屋で良かったなあってすげえ思う。

「ありがとうございますっ!」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

処理中です...