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第一部 決闘大会編
百五十四話
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午後の試験を終えて、部屋に戻った俺は目を丸くした。
「西浦先輩!」
「吉ちゃん、おかえり」
西浦先輩が、部屋にいる!
先輩は、でっかいリュックから荷物を取り出していた。俺は、ドタドタと部屋へ駆け込んで、先輩の対面に滑り込む。
「あのっ。ひょっとして、今日から戻ってこられるんすか?」
期待にドキドキしながら尋ねると、先輩は穏やかに笑って頷いてくれた。
「嬉しいっす! あっ俺、荷ほどきお手伝いします」
「ありがとう、吉ちゃん」
気合入れて、ぎゅぎゅっと袖まくり。二人でせっせと、荷物の整理をした。
その間、たくさん喋った。田中先輩のこととか、試験のこととか、話したいことがいっぱいあったから。
佐賀先輩とはどうなったのかも、めっちゃ気になったけどさ。なんとなく聞けなくて、馬鹿話ばかりしてしまう。
「――で、ドーナツ食べてたら、薬を煮込みすぎちまって」
「あはは。よっぽど美味しかったんだね」
俺の話を聞いててくれた先輩が、ふと笑いを治めた。で、洗濯物を畳んでいた手を止めて、居住まいを正す。
きょとんとしてると、西浦先輩は俺の手をそっと取る。
「……ごめんね、吉ちゃん」
「へ?」
「昨夜、佐賀から聞いたんだ。すごく大変なことになってたんだね。――頼りにならない先輩で、ごめん」
「えっ、あっそんな!」
苦しそうに顔を歪める先輩に、俺は慌てた。手をぎゅっと握って、ぶんぶん振り回す。
「気にしないで下さい。俺が勝手に黙ってたんすから」
自分一人で何とかしようって、俺が自分で決めたんだ。先輩が気に病むことなんてない。
元気を出してほしくて、言い募る。すると、西浦先輩は唇を引き結んだ。
「それでも、ごめん。――おれ、このままで終わらせないからね」
「え?」
そのとき、ガチャッと音を立ててドアが開いた。
「あ、佐賀先輩。お帰りなさいっす」
「おう」
佐賀先輩が、のしのし部屋に入ってくる。隣で、西浦先輩が少し緊張した気配があった。
「――早かったね」
「まあな」
鞄をドサッと床に放って、佐賀先輩が着替え始める。
「西浦。もう話したか?」
「いや。今から言おうと思ってたとこ」
「そうか」
おお、二人が話している。
ちょっとぎこちないけど、久しぶりの光景にジーンとしちまう。
佐賀先輩が、俺の横にドカッとあぐらをかいた。好戦的な目で、俺たちを見る。
「さて。これからどうすッか、決めようぜ」
「これから?」
なんだろう? 首を捻って、ハッとする。
「晩メシっすか?」
「蹴るぞ」
「ぎゃっ!」
眼光、鋭すぎだよ!
ずざっと後ずさると、西浦先輩が苦笑した。
「晩飯は後で行くとして。まず、もっと肝心なことを話さなきゃね。気味の悪い変質者を、捕まえる段取りとかさ」
佐賀先輩も、にっと口の端をつり上げて言う。
「犯人は、俺たちで捕まえる。風紀が動かない以上、てめェらで何とかするほかねえからな」
「えっ」
ハッとして、先輩たちの顔をきょろきょろと見比べた。
先輩たち、犯人を捕まえるつもりなんだ。
いや、それもだけど――。
「あの、犯人って。マジでいると思いますかっ?」
「は? いるんだろうが」
佐賀先輩が怪訝そうに片目を細めた。
そうなんだけど、こうあっさり受け入れてもらえると思わなくて。我ながら、眉唾的な部分がある話だし。
戸惑っていると、西浦先輩に肩を叩かれる。
「固く考えないで。吉ちゃんが嫌な思いしたなら、それが事実だとおれは思うよ」
「西浦先輩……」
胸に熱いものがこみあげてきて、俺はぎゅっと口を噛んだ。俺、この部屋で良かったなあってすげえ思う。
「ありがとうございますっ!」
「西浦先輩!」
「吉ちゃん、おかえり」
西浦先輩が、部屋にいる!
先輩は、でっかいリュックから荷物を取り出していた。俺は、ドタドタと部屋へ駆け込んで、先輩の対面に滑り込む。
「あのっ。ひょっとして、今日から戻ってこられるんすか?」
期待にドキドキしながら尋ねると、先輩は穏やかに笑って頷いてくれた。
「嬉しいっす! あっ俺、荷ほどきお手伝いします」
「ありがとう、吉ちゃん」
気合入れて、ぎゅぎゅっと袖まくり。二人でせっせと、荷物の整理をした。
その間、たくさん喋った。田中先輩のこととか、試験のこととか、話したいことがいっぱいあったから。
佐賀先輩とはどうなったのかも、めっちゃ気になったけどさ。なんとなく聞けなくて、馬鹿話ばかりしてしまう。
「――で、ドーナツ食べてたら、薬を煮込みすぎちまって」
「あはは。よっぽど美味しかったんだね」
俺の話を聞いててくれた先輩が、ふと笑いを治めた。で、洗濯物を畳んでいた手を止めて、居住まいを正す。
きょとんとしてると、西浦先輩は俺の手をそっと取る。
「……ごめんね、吉ちゃん」
「へ?」
「昨夜、佐賀から聞いたんだ。すごく大変なことになってたんだね。――頼りにならない先輩で、ごめん」
「えっ、あっそんな!」
苦しそうに顔を歪める先輩に、俺は慌てた。手をぎゅっと握って、ぶんぶん振り回す。
「気にしないで下さい。俺が勝手に黙ってたんすから」
自分一人で何とかしようって、俺が自分で決めたんだ。先輩が気に病むことなんてない。
元気を出してほしくて、言い募る。すると、西浦先輩は唇を引き結んだ。
「それでも、ごめん。――おれ、このままで終わらせないからね」
「え?」
そのとき、ガチャッと音を立ててドアが開いた。
「あ、佐賀先輩。お帰りなさいっす」
「おう」
佐賀先輩が、のしのし部屋に入ってくる。隣で、西浦先輩が少し緊張した気配があった。
「――早かったね」
「まあな」
鞄をドサッと床に放って、佐賀先輩が着替え始める。
「西浦。もう話したか?」
「いや。今から言おうと思ってたとこ」
「そうか」
おお、二人が話している。
ちょっとぎこちないけど、久しぶりの光景にジーンとしちまう。
佐賀先輩が、俺の横にドカッとあぐらをかいた。好戦的な目で、俺たちを見る。
「さて。これからどうすッか、決めようぜ」
「これから?」
なんだろう? 首を捻って、ハッとする。
「晩メシっすか?」
「蹴るぞ」
「ぎゃっ!」
眼光、鋭すぎだよ!
ずざっと後ずさると、西浦先輩が苦笑した。
「晩飯は後で行くとして。まず、もっと肝心なことを話さなきゃね。気味の悪い変質者を、捕まえる段取りとかさ」
佐賀先輩も、にっと口の端をつり上げて言う。
「犯人は、俺たちで捕まえる。風紀が動かない以上、てめェらで何とかするほかねえからな」
「えっ」
ハッとして、先輩たちの顔をきょろきょろと見比べた。
先輩たち、犯人を捕まえるつもりなんだ。
いや、それもだけど――。
「あの、犯人って。マジでいると思いますかっ?」
「は? いるんだろうが」
佐賀先輩が怪訝そうに片目を細めた。
そうなんだけど、こうあっさり受け入れてもらえると思わなくて。我ながら、眉唾的な部分がある話だし。
戸惑っていると、西浦先輩に肩を叩かれる。
「固く考えないで。吉ちゃんが嫌な思いしたなら、それが事実だとおれは思うよ」
「西浦先輩……」
胸に熱いものがこみあげてきて、俺はぎゅっと口を噛んだ。俺、この部屋で良かったなあってすげえ思う。
「ありがとうございますっ!」
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