俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百十三話

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「今から話すのは、オレ自身が見聞きした状況と、風紀で共有してる情報の一部だからね。これだけが、正しい情報とは限らないから」

 二見は、そう前置きした。俺も真剣に頷く。

「わかった。教えてほしい」

 二見は水を一口ふくんで、唇を舐めた。
 それから、静かに喋り始めた。






 たしか、キミたちが来る二日前だったね。

「転入生が二人来るから、もめ事が起きないようにきちんと見張っていよう」

 って、氷室さんが第三風紀に通達したのはさ。
 まあ、転入生を気にすること自体、いつものことなんだよね。転入生みたいな「外の世界の人間」が入ってくると、良くも悪くも双方に変化が起きるわけじゃん。事件とか事故って、そういう変化に伴って起きやすいもんだから。
 だから、その時は「うわー業務が増えるじゃん」って面倒に思ったくらいだったよ。
 ”こういう”学園だから、転入生自体がさほど珍しくもないわけで。風紀の対応もしっかりマニュアル化されてて、難しいこともないからさ。
 ありていに言えば、たるんでいたのかもね。
 多分、誰も思ってなかったんじゃない。
 その転入生がらみで、”人が死にかける”なんてさ。
 あれは、週末の放課後だったね。
 気味が悪いくらい、真っ赤な夕焼けの日だった。
 生徒複数名が一人の生徒に暴行を加えたすえ、校舎の四階から突き落としたんだ。
 被害生徒は瀕死の重傷を負い、一時意識不明に陥った。
 幸い目撃者がいて、主犯の生徒達は皆退学になったけど。
 この件で、風紀を辞めた生徒も、けっこう出たんだよ。自責の念にかられて、って理由だったかな。
 そんなん、辞めても仕方ねーだろって思うけど。
 まあ、無理はないか。風紀の警備をことごとくすり抜けて、起きた事件だったから。面目丸つぶれって感じだしさ……。

 ああ、ごめん。
 なんで、そんな事件が起きたかって言うことだよね。
 まずさ、今回の転入生はイレギュラーの連続だったの。例えば、桜沢祈みたいな奴が、高等部に転入してきたこと自体がさ。
 普通ね、強い奴ほど早く魔法に目覚めるんだよ。学園トップの八千草さん・蓮条さんが、幼稚舎から学園にいるみたいにね。
 だから、高校からの転入生なんて「天才」は来ないって、みんな思ってたんだ。
 それが、桜沢祈は「紫」で。しかも、魔法だけなら一年のトップを抜き去る成績だったんだ。
 もう、騒然だったよ。
 魔法使いとして未熟な桜沢祈を排除して、成り上がろうとする奴ら。逆に、無名の天才を担いで、自分たちの勢力を作ろうとする奴ら。
 色んな思惑が噴きあがって、桜沢祈に殺到したの。
 まあ、そんな雑魚は、本人がばっさり対応してたから、大して問題になんなかったけど。
――そうだ、転入二日目には、八千草さんが風紀室にきたっけ。

「このままじゃ、あいつら危ないと思わねえ? いっそ桜沢をウチで勧誘しようかと思ってんだけど、お前たちはどうするよ」

 これを受けて、風紀も桜沢祈を勧誘したわけ。
 ほら、木を隠すなら森の中って言うじゃない。目立つ生徒を権力構造に組み込んじゃうのは、騒動を抑え込むには有効っしょ?
 まあ結局、桜沢祈は生徒会の勧誘も、風紀の勧誘も蹴ったんだけど。
 残念ではあったけど、あいつの実力は一匹狼でやってくには申し分なかったし。短期間でかなりのシンパができていたからね。だから、大丈夫だと思った。
 とんだ思い違いだったって、すぐにわかったわけだけど……。

 もう一人の転入生が、桜沢祈の親友で、劣等生の「黒」だってことは聞いてたよ。
 でも、みんな問題になんないと思ってた。
 序列が離れると、友情なんてもろく崩れ去るもんだからさ。
 オレ達にとって誤算だったのは、二人がホントのホントに仲良しだったことだよね。
 二人の友情が本物だったせいで、誰にもなびかない桜沢祈の愛と関心を、「劣等生」が独り占めし続けちゃった。
 一方、桜沢祈のシンパは盲目的な奴が多くてさ。
 ま、当然だよね? 絶対自分に微笑みかけない、個人的な付き合いのない人間を一方的に慕い続けられる奴らだもん。
 そいつらは、「孤高の天才」である桜沢祈を妄想してた。その虚像を壊す存在がいることが、許せなかったのさ。
 どうなるか、まあ想像つくでしょ。――桜沢を汚す劣等生を排除しようとしたんだ。
 それが、この事件の発端ってわけ。


……で、どう思った?
 被害生徒の吉村時生くんとしてはさ。
 
 

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