112 / 239
第一部 決闘大会編
百十二話
しおりを挟む
――晩メシの後。
「ふぃ~、腹いっぱい」
俺はベッドにだらんと伸びた。
超だらしないけど、一人だから問題ない。
食堂のてりたま丼、うまいんだよなぁ。照り焼きがこてまろと思わせて、半熟たまごの絶妙の優しさ加減。イノリの奴、食ったことあるかなー。絶対好きな味だと思う……。
お腹をポクポクとさすりつつ、ベッドの木目を眺めた。
それにしても、さっきはビビった。
爆発のせいか、測定室の前に生徒たちが詰め寄せてきてさ。道をふさがれて、帰るに帰れなくなっちまったんだけど。
「お前達、そろそろ下校時刻だぞ!」
葛城先生の鶴の一声がなきゃ、どうなってたことか。
先生は、寮まで付き添ってくれた。
「では、おつかれ」
「うす! ありがとうございます」
俺を送ってくれた後、葛城先生は測定室に戻ってった。片づけがあるんだって。なんか申し訳ねぇ。
ゴロンと寝返りを打って、時計を見上げる。
まだ、二十時前だった。
二見との約束は、二十二時ごろ。
時間はたっぷりあるし、課題を先に終わらせておこうかな。
鞄から、今日の課題と筆記用具をとりだした。
「そういえば、昼間はあぶなかったな」
教材ドロボーされたこと、イノリにバレるところだったし。
あれは、めっちゃ焦った。イノリには、教材とか失くなったの言うつもりないからさ。
とっさに誤魔化したけど。――イノリのやつ、大分不思議そうにしてたよなあ。
「やっぱり、早いとこなんとかしねえとなっ」
アイツ、ただでさえ忙しいのに、俺のことで心配かけたくねーし!
そうと決まれば、明日さっそく姫岡先輩を訪ねてみよう。
約束の時間が近づいて、えっちらおっちら部屋を出た。
二見の部屋は、俺とは違う棟にある。
とはいえ、片倉先輩のお部屋と同じ棟だから、行くのに迷ったりはしないけどな。
無事に着いて、部屋をノックした。
「すんません。二見くんいますか」
少ししてから、反応が返ってくる。
「……はーい! 手が離せないから、勝手に入ってきてー」
「わかった。お邪魔します」
戸を開けると、もわっと熱気と湿気を顔に浴びた。そんでもって、なんか化粧品みたいな、いい匂いがする。
「いやーごめんね。お風呂入ってたもんだからさぁ」
タオルでわしわし頭を拭きながら、二見が部屋の奥から出てきた。カラフルなドーナツ柄のスエットを履いただけで、上は裸だ。
俺は、驚きの声を上げた。
「す、すげー! シックスパック!」
「は?」
「うおお、ナナメまで割れてるし! やべー」
「えー? 怖っ」
きゃっきゃ興奮する俺に、二見は後じさる。
いやいや、だって。
二見って、でっかいなーとは思ってたけど、仕上がり半端ねえじゃん! しかも、ムキムキすぎず、理想の細マッチョ。
「トキ、マッチョになって文化祭はBTS踊ろうぜ! モテモテ間違いなしっ」
「マジで!? やるやるっ」
ガッチャン達とも、筋肉つけようと奮闘したもんだ。みんなでバナナ食ったり、懸垂したり楽しかったなぁ。
まあ、みんなマッチョに進化したのに、なぜか俺だけもやしだけどな。イノリは「割れてなくてもかわ……かっこいいよ?」って励ましてくれたけど、いずれ割りてぇと思ってて。
熱く語る俺をよそに、二見はボディクリームをぬりぬりして言う。
「はぁ。吉村くんって、筋肉好きなの?」
「おうっ」
頷くと、二見はにやにや笑う。
「そーなんだ。でも、桜沢祈だって、かなりスゴそうだけどね。見慣れてないわけ?」
「へ。なんでイノリ?」
まあイノリが、実はすげーのはわかるけど。
ぎゅってされたとき、胸板とか腹筋とかが当たるからさ。
でも、見慣れるかどうかっつーと……そもそもイノリって、俺の前で脱がないんだよなぁ。こないだのお泊まりだって、風呂上がりでもきちんと着こんでたし。
なんでだろ。
ガキの頃はそうでもなかったんだけど……。
ちょっとしょんぼりしていると、二見がけらけら笑いだした。
「ふうん、そういうことね。桜沢祈、かわいそー」
「えっ?」
どう言うこと?
「ううん。立ち話もなんだし、中へおいでよ」
「あっ、わかった」
背中を押されて、部屋の中に通される。二人部屋で、同室の人はいないみたいだった。
ローテーブルの前に正座する。
二見は、冷蔵庫から水を取り出した。
「二見、同室の人は?」
「うん。出てもらったんだ、邪魔だし」
「そっか……悪いな」
「いーの、いーの。たまにはオレも上下を忘れたいし」
ミネラルウォーターのコップを、コトンと目の前に置かれる。
「よっこいせ」
二見は裸の上にパーカーを羽織ると、対面に座り込んだ。
直に着るとは、剛毅なやつだ。チャック当たって、かゆくねえのかな。
二見はコホンと咳払いして、マジな顔になった。
「じゃ、そろそろ話そっか。十月のあの事件のこと。一体、キミになにがあったのか」
「ふぃ~、腹いっぱい」
俺はベッドにだらんと伸びた。
超だらしないけど、一人だから問題ない。
食堂のてりたま丼、うまいんだよなぁ。照り焼きがこてまろと思わせて、半熟たまごの絶妙の優しさ加減。イノリの奴、食ったことあるかなー。絶対好きな味だと思う……。
お腹をポクポクとさすりつつ、ベッドの木目を眺めた。
それにしても、さっきはビビった。
爆発のせいか、測定室の前に生徒たちが詰め寄せてきてさ。道をふさがれて、帰るに帰れなくなっちまったんだけど。
「お前達、そろそろ下校時刻だぞ!」
葛城先生の鶴の一声がなきゃ、どうなってたことか。
先生は、寮まで付き添ってくれた。
「では、おつかれ」
「うす! ありがとうございます」
俺を送ってくれた後、葛城先生は測定室に戻ってった。片づけがあるんだって。なんか申し訳ねぇ。
ゴロンと寝返りを打って、時計を見上げる。
まだ、二十時前だった。
二見との約束は、二十二時ごろ。
時間はたっぷりあるし、課題を先に終わらせておこうかな。
鞄から、今日の課題と筆記用具をとりだした。
「そういえば、昼間はあぶなかったな」
教材ドロボーされたこと、イノリにバレるところだったし。
あれは、めっちゃ焦った。イノリには、教材とか失くなったの言うつもりないからさ。
とっさに誤魔化したけど。――イノリのやつ、大分不思議そうにしてたよなあ。
「やっぱり、早いとこなんとかしねえとなっ」
アイツ、ただでさえ忙しいのに、俺のことで心配かけたくねーし!
そうと決まれば、明日さっそく姫岡先輩を訪ねてみよう。
約束の時間が近づいて、えっちらおっちら部屋を出た。
二見の部屋は、俺とは違う棟にある。
とはいえ、片倉先輩のお部屋と同じ棟だから、行くのに迷ったりはしないけどな。
無事に着いて、部屋をノックした。
「すんません。二見くんいますか」
少ししてから、反応が返ってくる。
「……はーい! 手が離せないから、勝手に入ってきてー」
「わかった。お邪魔します」
戸を開けると、もわっと熱気と湿気を顔に浴びた。そんでもって、なんか化粧品みたいな、いい匂いがする。
「いやーごめんね。お風呂入ってたもんだからさぁ」
タオルでわしわし頭を拭きながら、二見が部屋の奥から出てきた。カラフルなドーナツ柄のスエットを履いただけで、上は裸だ。
俺は、驚きの声を上げた。
「す、すげー! シックスパック!」
「は?」
「うおお、ナナメまで割れてるし! やべー」
「えー? 怖っ」
きゃっきゃ興奮する俺に、二見は後じさる。
いやいや、だって。
二見って、でっかいなーとは思ってたけど、仕上がり半端ねえじゃん! しかも、ムキムキすぎず、理想の細マッチョ。
「トキ、マッチョになって文化祭はBTS踊ろうぜ! モテモテ間違いなしっ」
「マジで!? やるやるっ」
ガッチャン達とも、筋肉つけようと奮闘したもんだ。みんなでバナナ食ったり、懸垂したり楽しかったなぁ。
まあ、みんなマッチョに進化したのに、なぜか俺だけもやしだけどな。イノリは「割れてなくてもかわ……かっこいいよ?」って励ましてくれたけど、いずれ割りてぇと思ってて。
熱く語る俺をよそに、二見はボディクリームをぬりぬりして言う。
「はぁ。吉村くんって、筋肉好きなの?」
「おうっ」
頷くと、二見はにやにや笑う。
「そーなんだ。でも、桜沢祈だって、かなりスゴそうだけどね。見慣れてないわけ?」
「へ。なんでイノリ?」
まあイノリが、実はすげーのはわかるけど。
ぎゅってされたとき、胸板とか腹筋とかが当たるからさ。
でも、見慣れるかどうかっつーと……そもそもイノリって、俺の前で脱がないんだよなぁ。こないだのお泊まりだって、風呂上がりでもきちんと着こんでたし。
なんでだろ。
ガキの頃はそうでもなかったんだけど……。
ちょっとしょんぼりしていると、二見がけらけら笑いだした。
「ふうん、そういうことね。桜沢祈、かわいそー」
「えっ?」
どう言うこと?
「ううん。立ち話もなんだし、中へおいでよ」
「あっ、わかった」
背中を押されて、部屋の中に通される。二人部屋で、同室の人はいないみたいだった。
ローテーブルの前に正座する。
二見は、冷蔵庫から水を取り出した。
「二見、同室の人は?」
「うん。出てもらったんだ、邪魔だし」
「そっか……悪いな」
「いーの、いーの。たまにはオレも上下を忘れたいし」
ミネラルウォーターのコップを、コトンと目の前に置かれる。
「よっこいせ」
二見は裸の上にパーカーを羽織ると、対面に座り込んだ。
直に着るとは、剛毅なやつだ。チャック当たって、かゆくねえのかな。
二見はコホンと咳払いして、マジな顔になった。
「じゃ、そろそろ話そっか。十月のあの事件のこと。一体、キミになにがあったのか」
30
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる