俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百九話

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 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴って、俺はハッとする。
 イノリが言ってたこと考えてたら、またボーッとしちまってた。
 なんやかんやで、もう放課後。俺の測定の順番は、まだ来ていなかったりする。
 とはいえ、さっき「前田」だったから。もうすぐだと思うけど。
 先生の手伝いを終えて、教室に戻るとクラスメイトが寄ってきた。

「おい、これ捨てて来いよ」

 出し抜けに、ゴミ袋を押し付けられて、目を丸くする。
 とっさに受け取ったら、クラスメイトはすでに彼方へ去っていた。ちゃっかりしてるぜ。


 ゴミ袋を背中でボンボン弾ませて、ゴミ捨て場を目指す。
 天気がいいから、気分がいいなあ。
 鼻歌を歌いながら、ゴミ捨て場の重い扉を押し開ける。
 建物の中には、もっさりとゴミ袋が積まれてた。このゴミ捨て場は、教室で出るゴミばっかり集めてるんだって。それなのに、すげえ量だ。
 一番高いところに、袋を放り投げる。

「よい、しょ――うわああ!?」

 と、ゴミ袋タワーがぐらついて、ドドドドと袋が雪崩れてきた。
 とっさに飛びのくと、足元にバフバフと砂埃をたてながら、袋が落ちてくる。

「はー。びっくりした。……ん?」

 ふと、崩れたゴミ山の下に、ビニル紐で括られた本が積まれてるのが見えた。
 なんとなく近寄ってみて、ハッとする。

「こ、これ――教科書!」

 手に取って見れば、まぎれもなく一年の教科書だ。
 しかも――教科書の束を裏向けて、確信する。
 これ、俺の教科書じゃん!
 油性マジックではっきりと「吉村時生」って、書いてあるもん。
 隣にあるノートの束も、俺のだ。

「……うう、よかった、見つかった~!」

 この際、捨ててあることは不問だ。
 きつい結び目に爪をひっかけて、紐をほどく。なんとか全部を自由にして、一番上の一冊を手に取った。革張りでズシッと重い、魔法術式の教科書。
 いやぁ、この教科、特にいっぱい書き込みしたからな。戻って来てくれてよかった。
 笑顔で、ぺらっと一ページ捲る。
 そんで、凍り付いた。

「ぇ……」

 教科書の中身は、ペンキに漬けたみたいに真っ黒になっていた。






 ひゅーっと北風が吹いて、ゴミ捨て場のフェンスをカタカタ揺らした。
 真っ黒の教科書とノートを抱えて、とぼとぼ歩く。
 どの教科書もノートも、全部同じように真っ黒になってて、とても内容がわかるもんじゃなかった。
 それでも、あそこに置いとくのは忍びなくてさ。使えなくても、持ってきちまったけど……。
 見つかって、嬉しかったのに。
 まさかの二段構えなんて、そりゃねえよ。

「……にしても、どうしよう?」

 これじゃ、「俺の教科書が、戻ってくるのに期待」って言う選択肢もなくなっちまったんだよな。
 つまり、本格的に期末がやばいっ!
 現実がドーン! と岩みてえに圧し掛かってきて、猫背になっちまいそう。
 ああ、どうしよう。
 ふーーとため息をついたとき、前から来た人にぶつかってしまった。

「あでっ!」

 尻もちをついた拍子に、教科書がバサバサ散らばる。

「ごめんね、だいじょう――吉村くん?」
「あっ。すんません!」

 ぶつかったのは、姫岡先輩だったらしい。
 先輩もびっくりしたのか、手を差しだすポーズで、目を丸くしている。
 慌てて立ち上がると、俺は教科書を拾い集めた。
 すると、先輩も腰をかがめて、俺のノートを拾ってくれようとする。

「あ、待っ」
「っ! これは」

 「しまった」と思っても、後の祭り。
 ノートの状態に気づいて、先輩がハッとした顔で俺を振り返った。
 俺は、慌ててノートを受け取って頭を下げた。

「ありがとうございました。では!」
「ちょっと待って」

 くるっと踵を返した俺の肩を、姫岡先輩がガシッと掴む。

「あの――ちょっと話さない? ぶつかっちゃったお詫びにでも」

 そう言って、親指で指示されたのは小さな温室だった。言うが早いか、そっちに引きずられて、俺は慌てた。

「あの、俺そろそろ測定が――!」
「すぐだから。ね? ちょっとだけ」

 振り返って、にっこりとほほ笑まれる。
 なんか、圧が強い! たじろいでいるうちに、連れ込まれてしまった。

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