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第一部 決闘大会編

百七話

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 わけわからん。
 真新しいノートに毛虫を書きながら、俺はうぬぬと唸った。
 押された。
 たぶん、気のせいじゃない。脇腹にぐあーっと手が来てたもん。――てか、なんで階段で人を押すの? 落ちたら痛いんだぞ。

「あと一分したら、当てていくからな」

 葛城先生の、張りのある声が響く。
 やべえ、悶々と考えてたから、まだ全然とけてねえ。俺は、慌ててシャーペンを動かした。 
 今日は、魔力測定があるから小テストがなくてさ。
 そのかわり、ひたすら問題を解きまくっている感じ。プリントだから、予習の必要はなくって助かった。
 と、授業の半ばに、晴れ晴れした顔のクラスメイトが四人、教室に戻ってきた。揃って、葛城先生に何か紙を渡して、席に戻る。

「あいつら、結果良かったんだな」
「清々しい顔しやがって……うらやましい」

 あっちこっちから、こそこそ囁く声が聞こえてくる。
 また、次の四人が席を立って教室を出て行って、授業が再開する。
 これで今期の頑張りの成果がわかるからか、みんな結構ピリピリしてた。
 なんか、俺もちょっとドキドキしてくるなあ。「吉村」だから、まだまだ順番は先なんだけど。

「はー……僕もうじきだよ。気が重い」
「まあ、いいだろ。どうせ、こんな結果関係ないんだし……」

 そんな声が聞こえてきて、後ろをこっそり振り向いた。
 すると、薬学の授業で隣で実験してるやつらが、青ざめた顔を寄せ合っている。
「結果が関係ない」って、何のことだろ。


 チャイムが鳴って、日直が号令をかける。

「先生、ありがとうございました!」
「うむ、お疲れ。前の者が行ったら、自分の順番を意識しておくようにな」

 葛城先生はそう忠告して、教室を後にした。
 俺は、さっそく背後を振り返って、二人に聞いてみる。

「なあ、結果が関係ねえってさ――」
「はあ? 気安く話しかけてんじゃねえよ!」
「とっとと、教科書でも探しに行けっつーの!」

 ばん! と机を叩いて去って行く。いつもながらクールすぎる反応だぜ。
 



 そんなこんなで、午前の授業は終わった。
 教科書が無いから、どうしよって思ってたんだけど、ぜんぜん大丈夫だった。事情を言いに行ったら、先生たち知っていたんだよな。
 加藤先生は、今日つかうテキストのコピーを用意してくれていて。心遣いが嬉しくて、お礼を言うと、

「吉村くん、葛城先生から聞いてるよ。災難だったね」

 そう言って、励ましてくれた。
 葛城先生、こっそりと他の先生に話を通してくれていたんだ。ありがたくて、胸がジーンと熱くなる。
 昼メシの準備して、教室をでた。




 「おはよう!」

 305教室の戸を開けると、もわっと湯気があがっていた。
 見れば、ミニコンロの上でヤカンが白い湯気を吐いている。

「あれ、イノリー?」

 キョロキョロと教室内を見渡しても、イノリの姿が見当たらない。
 呼び出し……かなあ? ヤカン火にかけたまま、どっか行っちまうとかないはずだけどな。
 首を傾げていると、目の前に長い腕がにゅ、と現れた。

「うおっ」

 後ろから伸びてきた腕に、グイッと引き寄せられる。ふわっと甘い香りがして、振り返らなくても誰かわかった。

「イノリ!」
「おはよー、トキちゃん」

 いたずらっ子みたいな声で、イノリが笑う。
 頬を擦り寄せられて、長い髪が米神をくすぐった。ひんやりと外気の匂いがする。
 ドキドキする胸を押さえて、抗議した。

「おま、びっくりした!」
「ふふ、ごめん。戻ってきたら、トキちゃんが見えたからー」
「えっ。また、呼び出しか?」
「んーん。ちょっとねぇ」

 イノリは曖昧に濁すと、俺をくるんとひっくり返した。頬を両手に包まれて、仰のかされる。
 
「イノリ?」

 きょとんとしてたら、薄茶の目が嬉しそうに細くなる。

「久しぶりのトキちゃんだぁ」
「おう! って、昨日も会ったじゃん」
「えー、遠目にちらっとだもん。足りないよー」

 突っ込むと、イノリは口をとがらせる。
 でも、「また明日」ってお前が合図してくれたの、嬉しかったぞ。
……って思ったけど、なんか照れくさいから言わんでおいた。

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