572 / 1,194
第7章 南部編
焦燥
しおりを挟む
<剣姫イリサヴィア視点>
コーキに会いたいという思い。
これは郷愁?
いや、それ以上の何かかもしれないな。
そのコーキがもし……。
アリマと同一人物だというなら。
私はコーキと一緒にいたことになる。
異界でずっと一緒に。
コーキと共に密度の高い時間を過ごしたことに……。
「……」
けれど、アリマは違う。
何と言っても、髪色が違う。
これは決定的。
たとえ名前が同じであろうとも、髪色という事実を変えることはできないのだから。
私の持つラピタルの偽宝。
姿を変えるこの宝具をアリマが持っていれば話は別だが……。
「では、彼の何が気になるのです?」
「……髪色」
「ああ、それは私も気になってましたよ」
「どういうことだ?」
「私がオルドウで彼に会った時とは、髪色が違うような気がしまして」
何だと!
「アリマは、アリマの髪は何色だった?」
「確か、黒髪?」
「っ!?」
「以前のことなので記憶は曖昧ですが、黒だったような……」
アリマが黒髪!
ここでは茶色の髪だったアリマが!
**********************
<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
「ゆきちゃん、この後カフェに行かない」
「今日はちょっと……」
「もう、いつもそればっかり」
「……ごめんなさい」
「こら。やめなさい。幸奈が困ってるでしょ」
「だってぇ」
ここは幸奈さんが通う大学の一室。
私に話しかけてくれたのは、幸奈さんの友人のふたり。
大学生の仮面を被った幸奈さんが、大学生活の一環として捉えているふたりだ。
ただ、表面的な付き合いに終始する幸奈さんに対し、相手のふたりは少なからず好意を抱いているように思える。
「だってじゃない」
「え~」
「……」
彼女たちについては、もちろん知識として知っている。
それでも、実際に会ってみると戸惑うことが多い。
「え~でもないでしょ。幸奈は忙しいんだから」
「うぅぅ……」
幸奈さんの知識から、こうなることは分かっていた。
だから、なるべく接触は避けようと思っていたのだけれど。
今日はどうしても避けることができなくて……。
「私とふたりじゃ、嫌なわけ?」
「えっ、違う! ふたりでも嬉しいよ!」
「……」
「でもさ、ゆきちゃんともカフェ行きたいんだよぉ。分かるでしょ」
「……まあね」
そう言って私を見つめるふたり。
そんな顔をされると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
彼女たちふたりに対しても、幸奈さんに対しても。
「……本当にごめんなさい。次は、行けると思うから」
だからつい、こんなことを言ってしまった。
「ホント?」
「……ええ」
後悔しても、もう遅い。
「やったぁ、約束だよ。どこ行こうかなぁ~~」
「……」
けど、こんなに喜んでくれるなら。
少し頑張ればいい、かな。
そうね。
私が頑張ればいい。
正体を知られないように、仮面がはがれないように。
気をつければ大丈夫。
和見の父や壬生さんに比べれば、これくらい平気だ。
「……」
父と壬生さん。
あの夜以来、何も言ってこない。
不自然なくらい沈黙している。
このまま何もなく、事が終わってくれればいいのだけれど……。
もし何か良くないことが起きるのなら。
私がこの世界にいる間にしてほしい。
自分で蒔いた種は自分で刈り取りたいから。
幸奈さんに任せるわけにはいかないのだから。
「……」
でも、私はいつまでここにいるのだろう?
幸奈さんの姿のまま。
コーキさんも戻ってこない、この世界で?
もし、このままコーキさんが戻って来なかったら……。
私はひとり。
本当の私を誰も知らない世界で、ひとり生きていく。
義務も責任も放棄して、ひとりで。
全てを捨てて、全てに捨てられて……。
そんな!
想像するだけで、とんでもない不安が押し寄せてくる!
誰にも知られない孤独。
誰にも話せない孤独。
何もできない私。
世界に見捨てられた私。
痛い。
胸が痛い。
「……」
「……」
「……」
違う!
そんなわけないわ!
コーキさんは、きっと戻って来る。
トトメリウス様もローディン様も私を見捨てたりしない。
私はワディンに戻ることができる。
神娘として、ワディンへ。
みんなのもとへ必ず!
だから、不安になっちゃ駄目。
そんなこと考えちゃ駄目。
自分を信じて、コーキさんを信じて、トトメリウス様とローディン様を信じて!
私は頑張るだけ!
「……」
けど、コーキさんがここまで戻って来ないのは?
やっぱり、何かあったんじゃ?
あちらの世界のコーキさんに、幸奈さんに何かが?
そう考えると、今度は胸の違う部分が苦しくなる。
心が痛くなる。
痛いのに、やっぱり私は何もできない。
この世界から出られない。
ああ、また考えてしまう。
駄目なのに。
これまで数えきれないくらい感じてきた孤独感、焦燥感。
無駄だと分かっていても感じてしまう。
ほんと、無駄なのに。
ばかだな、私……。
「どうしたの、ゆきちゃん? 嫌なことでもあった?」
「えっ?」
「幸奈が秘密主義なのは知っているけど、気が向いたらいつでも話してくれればいいよ。友達なんだしね」
コーキに会いたいという思い。
これは郷愁?
いや、それ以上の何かかもしれないな。
そのコーキがもし……。
アリマと同一人物だというなら。
私はコーキと一緒にいたことになる。
異界でずっと一緒に。
コーキと共に密度の高い時間を過ごしたことに……。
「……」
けれど、アリマは違う。
何と言っても、髪色が違う。
これは決定的。
たとえ名前が同じであろうとも、髪色という事実を変えることはできないのだから。
私の持つラピタルの偽宝。
姿を変えるこの宝具をアリマが持っていれば話は別だが……。
「では、彼の何が気になるのです?」
「……髪色」
「ああ、それは私も気になってましたよ」
「どういうことだ?」
「私がオルドウで彼に会った時とは、髪色が違うような気がしまして」
何だと!
「アリマは、アリマの髪は何色だった?」
「確か、黒髪?」
「っ!?」
「以前のことなので記憶は曖昧ですが、黒だったような……」
アリマが黒髪!
ここでは茶色の髪だったアリマが!
**********************
<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
「ゆきちゃん、この後カフェに行かない」
「今日はちょっと……」
「もう、いつもそればっかり」
「……ごめんなさい」
「こら。やめなさい。幸奈が困ってるでしょ」
「だってぇ」
ここは幸奈さんが通う大学の一室。
私に話しかけてくれたのは、幸奈さんの友人のふたり。
大学生の仮面を被った幸奈さんが、大学生活の一環として捉えているふたりだ。
ただ、表面的な付き合いに終始する幸奈さんに対し、相手のふたりは少なからず好意を抱いているように思える。
「だってじゃない」
「え~」
「……」
彼女たちについては、もちろん知識として知っている。
それでも、実際に会ってみると戸惑うことが多い。
「え~でもないでしょ。幸奈は忙しいんだから」
「うぅぅ……」
幸奈さんの知識から、こうなることは分かっていた。
だから、なるべく接触は避けようと思っていたのだけれど。
今日はどうしても避けることができなくて……。
「私とふたりじゃ、嫌なわけ?」
「えっ、違う! ふたりでも嬉しいよ!」
「……」
「でもさ、ゆきちゃんともカフェ行きたいんだよぉ。分かるでしょ」
「……まあね」
そう言って私を見つめるふたり。
そんな顔をされると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
彼女たちふたりに対しても、幸奈さんに対しても。
「……本当にごめんなさい。次は、行けると思うから」
だからつい、こんなことを言ってしまった。
「ホント?」
「……ええ」
後悔しても、もう遅い。
「やったぁ、約束だよ。どこ行こうかなぁ~~」
「……」
けど、こんなに喜んでくれるなら。
少し頑張ればいい、かな。
そうね。
私が頑張ればいい。
正体を知られないように、仮面がはがれないように。
気をつければ大丈夫。
和見の父や壬生さんに比べれば、これくらい平気だ。
「……」
父と壬生さん。
あの夜以来、何も言ってこない。
不自然なくらい沈黙している。
このまま何もなく、事が終わってくれればいいのだけれど……。
もし何か良くないことが起きるのなら。
私がこの世界にいる間にしてほしい。
自分で蒔いた種は自分で刈り取りたいから。
幸奈さんに任せるわけにはいかないのだから。
「……」
でも、私はいつまでここにいるのだろう?
幸奈さんの姿のまま。
コーキさんも戻ってこない、この世界で?
もし、このままコーキさんが戻って来なかったら……。
私はひとり。
本当の私を誰も知らない世界で、ひとり生きていく。
義務も責任も放棄して、ひとりで。
全てを捨てて、全てに捨てられて……。
そんな!
想像するだけで、とんでもない不安が押し寄せてくる!
誰にも知られない孤独。
誰にも話せない孤独。
何もできない私。
世界に見捨てられた私。
痛い。
胸が痛い。
「……」
「……」
「……」
違う!
そんなわけないわ!
コーキさんは、きっと戻って来る。
トトメリウス様もローディン様も私を見捨てたりしない。
私はワディンに戻ることができる。
神娘として、ワディンへ。
みんなのもとへ必ず!
だから、不安になっちゃ駄目。
そんなこと考えちゃ駄目。
自分を信じて、コーキさんを信じて、トトメリウス様とローディン様を信じて!
私は頑張るだけ!
「……」
けど、コーキさんがここまで戻って来ないのは?
やっぱり、何かあったんじゃ?
あちらの世界のコーキさんに、幸奈さんに何かが?
そう考えると、今度は胸の違う部分が苦しくなる。
心が痛くなる。
痛いのに、やっぱり私は何もできない。
この世界から出られない。
ああ、また考えてしまう。
駄目なのに。
これまで数えきれないくらい感じてきた孤独感、焦燥感。
無駄だと分かっていても感じてしまう。
ほんと、無駄なのに。
ばかだな、私……。
「どうしたの、ゆきちゃん? 嫌なことでもあった?」
「えっ?」
「幸奈が秘密主義なのは知っているけど、気が向いたらいつでも話してくれればいいよ。友達なんだしね」
11
お気に入りに追加
540
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる