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第7章 南部編

焦燥

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<剣姫イリサヴィア視点>



 コーキに会いたいという思い。
 これは郷愁?
 いや、それ以上の何かかもしれないな。

 そのコーキがもし……。

 アリマと同一人物だというなら。
 私はコーキと一緒にいたことになる。

 異界でずっと一緒に。
 コーキと共に密度の高い時間を過ごしたことに……。

「……」

 けれど、アリマは違う。
 何と言っても、髪色が違う。
 これは決定的。
 たとえ名前が同じであろうとも、髪色という事実を変えることはできないのだから。

 私の持つラピタルの偽宝。
 姿を変えるこの宝具をアリマが持っていれば話は別だが……。


「では、彼の何が気になるのです?」

「……髪色」

「ああ、それは私も気になってましたよ」

「どういうことだ?」

「私がオルドウで彼に会った時とは、髪色が違うような気がしまして」

 何だと!

「アリマは、アリマの髪は何色だった?」

「確か、黒髪?」

「っ!?」

「以前のことなので記憶は曖昧ですが、黒だったような……」

 アリマが黒髪!
 ここでは茶色の髪だったアリマが!




**********************

<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>



「ゆきちゃん、この後カフェに行かない」

「今日はちょっと……」

「もう、いつもそればっかり」

「……ごめんなさい」

「こら。やめなさい。幸奈が困ってるでしょ」

「だってぇ」


 ここは幸奈さんが通う大学の一室。
 私に話しかけてくれたのは、幸奈さんの友人のふたり。
 大学生の仮面を被った幸奈さんが、大学生活の一環として捉えているふたりだ。
 ただ、表面的な付き合いに終始する幸奈さんに対し、相手のふたりは少なからず好意を抱いているように思える。

「だってじゃない」

「え~」

「……」

 彼女たちについては、もちろん知識として知っている。
 それでも、実際に会ってみると戸惑うことが多い。

「え~でもないでしょ。幸奈は忙しいんだから」

「うぅぅ……」

 幸奈さんの知識から、こうなることは分かっていた。
 だから、なるべく接触は避けようと思っていたのだけれど。
 今日はどうしても避けることができなくて……。

「私とふたりじゃ、嫌なわけ?」

「えっ、違う! ふたりでも嬉しいよ!」

「……」

「でもさ、ゆきちゃんともカフェ行きたいんだよぉ。分かるでしょ」

「……まあね」

 そう言って私を見つめるふたり。
 そんな顔をされると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 彼女たちふたりに対しても、幸奈さんに対しても。

「……本当にごめんなさい。次は、行けると思うから」

 だからつい、こんなことを言ってしまった。

「ホント?」

「……ええ」

 後悔しても、もう遅い。

「やったぁ、約束だよ。どこ行こうかなぁ~~」

「……」

 けど、こんなに喜んでくれるなら。
 少し頑張ればいい、かな。

 そうね。
 私が頑張ればいい。
 正体を知られないように、仮面がはがれないように。
 気をつければ大丈夫。

 和見の父や壬生さんに比べれば、これくらい平気だ。

「……」

 父と壬生さん。
 あの夜以来、何も言ってこない。
 不自然なくらい沈黙している。

 このまま何もなく、事が終わってくれればいいのだけれど……。

 もし何か良くないことが起きるのなら。
 私がこの世界にいる間にしてほしい。

 自分で蒔いた種は自分で刈り取りたいから。
 幸奈さんに任せるわけにはいかないのだから。

「……」

 でも、私はいつまでここにいるのだろう?

 幸奈さんの姿のまま。
 コーキさんも戻ってこない、この世界で?

 もし、このままコーキさんが戻って来なかったら……。

 私はひとり。
 本当の私を誰も知らない世界で、ひとり生きていく。

 義務も責任も放棄して、ひとりで。
 全てを捨てて、全てに捨てられて……。

 そんな!
 想像するだけで、とんでもない不安が押し寄せてくる!

 誰にも知られない孤独。
 誰にも話せない孤独。
 何もできない私。
 世界に見捨てられた私。

 痛い。
 胸が痛い。

「……」

「……」

「……」

 違う!
 そんなわけないわ!

 コーキさんは、きっと戻って来る。
 トトメリウス様もローディン様も私を見捨てたりしない。

 私はワディンに戻ることができる。
 神娘として、ワディンへ。
 みんなのもとへ必ず!

 だから、不安になっちゃ駄目。
 そんなこと考えちゃ駄目。

 自分を信じて、コーキさんを信じて、トトメリウス様とローディン様を信じて!
 私は頑張るだけ!

「……」

 けど、コーキさんがここまで戻って来ないのは?
 やっぱり、何かあったんじゃ?
 あちらの世界のコーキさんに、幸奈さんに何かが?

 そう考えると、今度は胸の違う部分が苦しくなる。
 心が痛くなる。

 痛いのに、やっぱり私は何もできない。
 この世界から出られない。

 ああ、また考えてしまう。
 駄目なのに。

 これまで数えきれないくらい感じてきた孤独感、焦燥感。
 無駄だと分かっていても感じてしまう。

 ほんと、無駄なのに。
 ばかだな、私……。


「どうしたの、ゆきちゃん? 嫌なことでもあった?」

「えっ?」

「幸奈が秘密主義なのは知っているけど、気が向いたらいつでも話してくれればいいよ。友達なんだしね」


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