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第7章 南部編

野営 1

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<ヴァーンベック視点>



「では、見回り頼んだぞ」

「そっちもしっかり準備してくれよ」

「了解だ」

 剣姫と別れた後、本体と合流し休む間もなくテポレン山を横断することになってしまったコーキと俺。
 コーキにとってはかなりハードな道行きだが、これはあくまで当初の予定通り。一刻も早くテポレンを抜けワディン領内に入りたい皆の気持ちを考えれば当然の行動だったのだろう。

 そんなテポレンでの道行きはエビルズピークのそれとは比べ物にならないくらい順調で、夕方には想定以上の距離を稼ぐことに成功。明日に備え、今日は早めの野営となったわけだ。


「早く行きましょ」

「おう」

 野営の準備を始めたワディンの騎士連中から離れ、付近を見回る任務を受けた俺とシア。気を遣われたようで、どうにも居心地が悪い。
 そんな俺とは対照的に、シアは軽い足取りで歩を進めている。

「こっちよ」

 言われるままに、皆の目の届かない茂みに入った途端。

「ヴァーン! よかった!」

 シアが躊躇なく俺の胸に飛び込んできた!

「無事でよかった。本当によかった」

「あ、ああ」

 どんな危険にさらされても、こんなことは今まで一度もなかったのに。

「ヴァーンがあの怪物に襲われるかもしれないと思うと、わたし……」

 ここまで激情を抑えきれないシアを見るのは初めてだ。

「大丈夫だって言っただろ」

「そうだけど、でも……剣姫との戦いで傷つくヴァーンを見たばかりだから」

 確かに、あの戦闘では完膚無きまでにやられる姿を見せちまった。
 シアが不安になるのも仕方ないのかもしれない。

「傷も完全には癒えてなかったし」

 いや、傷に関しては回復薬と治癒魔法のおかげでほぼ治ってる。
 まっ、シアの目には怪我人のように映ってるんだろうが。

「わたし、不安が消えなくて」

「……悪かった」

「あっ、違うの。謝ってほしいわけじゃないの」

「それでもだ。心配かけて悪かった」

 シアの気持ちを分かった上で、現場まで戻ったのは俺だ。
 ここは謝らせてくれ。

「ヴァーン……」

「……」

「……」

 気まずくはないが、微妙な沈黙が続いちまう。

「……」

 何というか。
 今日みたいな日に湿っぽいのは相応しくねえ。
 よし。

「昨日今日と激動の2日間だったな」

「……うん」

「レザンジュ王軍の追跡をかわし、剣姫と和解し、竜の怪物もコーキが倒した。その上、全員が無事。最高の結果じゃねえか」

「……うん」

「明日にはテポレンを下りてワディン領に入る。セレスさんとシアの故郷だ」

「……うん」

「今夜は最高の夜になりそうだろ」

「わたしは、ヴァーンが無事なら……」

「……」

 ほんと、可愛いこと言ってくれる。
 けどよ。

「セレスさんも無事じゃねえとな」

「それは、もちろんそうだけど」

「アルとコーキもな」

「……」

 分かってるから、そんな顔すんなって。

「俺も一緒だ」

「えっ?」

「シアが無事でいてくれて、本当に嬉しいんだぜ」

「ヴァーン……」

「今回ばかりは、危なかったからよ」

「……」

「まっ、そんな危地も何とか切り抜けて、今はこうしてシアとふたりきり。やっぱり最高だろ」

「うん!」

 それでいい。
 こんな日は笑顔が一番だ。

「さっ、見回りをして皆のもとへ戻らねえとな」

「……うん」

 と言っても、周囲には特にあやしい気配もない。
 形だけの巡回だが。



 そんな感じで、しばらく歩き続け。
 野営地がすぐそこに見えてきたところで。

「ああぁぁ!」

 悲鳴?
 これは?

「セレス様!」

 セレスさんの悲鳴なのか?
 そう思った時には、シアは駆け出していた。

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