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第7章 南部編
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「コーキという名前は何なのだ?」
異界からの脱出に加え、仲間とも再会を果たした剣姫。
感慨もひとしおのはずなのに、なぜ今さらそんなことを?
「アリマなのか、コーキなのか? どうなってる?」
しかも、この上なく真剣な表情で聞いてくるなんて。
「……」
けど、そうか。
剣姫には有馬と名乗っただけで、功己という名は告げていなかったんだ。
「有馬は家名で、功己が私の名前になります」
「家名!」
「コーキが家名持ち!」
剣姫だけじゃなくヴァーンまで?
「おまえ、貴族だったのかよ?」
「アリマは、貴族ではないと言っていたはず。あれは嘘だったのか!」
「……」
なるほど。
ふたりとも、そこに引っ掛かってたんだな。
「どうなんだ?」
「……私は平民ですよ」
「だが、家名がある」
「そうだぜ。どういうこった?」
「私の出身地では、平民も家名を持っているんです」
「そんな地があると?」
「はい。この辺りとは文化も風習もかなり異なる場所ですね」
何と言っても異世界だからな。
「……」
「おまえ、どこの遠国出身だよ」
「キュベリッツやレザンジュからは、かなり離れてるぞ」
「だろうなぁ。平民が家名持ちなんて聞いたこともねえ」
この世界で家名を持つのは貴族のみ。
それが常識ってことか。
「ならば、君は……コーキ・アリマなのだな?」
「ええ」
「君がコーキ……」
「イリサヴィアさん、良ければ今後は私のことをコーキと呼んでください」
「ん? ああ……」
そう答えた剣姫が俯いてしまった。
有馬と呼ぶ方がいいのか?
「コーキ……コーキだった……しかし……」
心ここにあらずといった様子で、何かつぶやいている。
「髪色が……なら、別人? いや、それでも……」
「コーキ、そろそろ行くか?」
「ああ、みんなが待っているんだよな」
「そういうこった。5刻半までに戻るぞ」
剣姫の様子は気になるが。
俺が考えてもどうしようもない。
「では、イリサヴィアさん、メルビンさん。我々はここで失礼します」
「ええ、お気をつけて」
「……うむ……いや、あれは……」
剣姫は相変わらず上の空。
別れの言葉もない。
ずっと一緒に過ごしてきたというのに、この別れ。
若干の寂しさを感じてしまうな。
「……」
しかし、ここまで俺の名前が気になるとは。
理解しがたいし、少し心配にもなる。
まっ、彼女のことはメルビンが何とかしてくれるだろう。
「よーし、ちっと急ぐぜ」
「了解」
テポレン方面に向かって駆けるヴァーンの背を追うように足を動かす。
「……」
やっぱり、エビルズマリスの創った異界とは違う。
緑の中を走るのはいいもんだ。
**********************
<剣姫イリサヴィア視点>
「……ん? アリマは?」
「とっくに去りましたよ」
「なっ! もう去ったのか?」
「ええ。あなたが考え事をしている間にね」
「……」
メルビンが呆れた顔でこちらを見ている。
それも当然か。
アリマが去ったことすら気づかずにいたのだから。
「ほんと、どうしたんです? 戦闘でどこかやられました?」
「……大丈夫だ。問題ない」
「なら良いのですが。ところで、あの魔物は?」
「倒した」
「おお、さすがイリサヴィアさん。重畳です」
「いや……」
「浮かない顔ですねぇ」
「浮かない? 私がか?」
「そうですよ」
「……」
「今回あなたは途轍もない魔物を倒し、ミッドレミルトの異常解明にも成功しました。いや、それどころか解決したと言ってもいいでしょう。なのに、どうしてそんな顔を? 何を考えているのです?」
何を考えているかと言われれば……。
「辺境伯ですか?」
彼にはもう興味はない。
「違うようですね。まっ、この件は仕方のないことですし」
その通り。
ワディン辺境伯については、エビルズピークにいなかった時点で私の手から離れている。
「では、冒険者コーキ?」
「……うむ」
「なるほど。確かに彼は凄腕の冒険者です。今回は共闘者でもあります。ですが、先刻まで敵対していたのですよ。そんな相手にイリサヴィアさん、まさか?」
「邪推だな、メルビン」
アリマに対して、そんな感情は持っていない。
感謝の思いはあるが、そんなもの抱くわけがない。
私の心の中にいるのは、今もこれからもひとりだけなのだから。
ただ、違う意味で、もうひとり。
コーキにはいつか会いたいと思っている。
異界からの脱出に加え、仲間とも再会を果たした剣姫。
感慨もひとしおのはずなのに、なぜ今さらそんなことを?
「アリマなのか、コーキなのか? どうなってる?」
しかも、この上なく真剣な表情で聞いてくるなんて。
「……」
けど、そうか。
剣姫には有馬と名乗っただけで、功己という名は告げていなかったんだ。
「有馬は家名で、功己が私の名前になります」
「家名!」
「コーキが家名持ち!」
剣姫だけじゃなくヴァーンまで?
「おまえ、貴族だったのかよ?」
「アリマは、貴族ではないと言っていたはず。あれは嘘だったのか!」
「……」
なるほど。
ふたりとも、そこに引っ掛かってたんだな。
「どうなんだ?」
「……私は平民ですよ」
「だが、家名がある」
「そうだぜ。どういうこった?」
「私の出身地では、平民も家名を持っているんです」
「そんな地があると?」
「はい。この辺りとは文化も風習もかなり異なる場所ですね」
何と言っても異世界だからな。
「……」
「おまえ、どこの遠国出身だよ」
「キュベリッツやレザンジュからは、かなり離れてるぞ」
「だろうなぁ。平民が家名持ちなんて聞いたこともねえ」
この世界で家名を持つのは貴族のみ。
それが常識ってことか。
「ならば、君は……コーキ・アリマなのだな?」
「ええ」
「君がコーキ……」
「イリサヴィアさん、良ければ今後は私のことをコーキと呼んでください」
「ん? ああ……」
そう答えた剣姫が俯いてしまった。
有馬と呼ぶ方がいいのか?
「コーキ……コーキだった……しかし……」
心ここにあらずといった様子で、何かつぶやいている。
「髪色が……なら、別人? いや、それでも……」
「コーキ、そろそろ行くか?」
「ああ、みんなが待っているんだよな」
「そういうこった。5刻半までに戻るぞ」
剣姫の様子は気になるが。
俺が考えてもどうしようもない。
「では、イリサヴィアさん、メルビンさん。我々はここで失礼します」
「ええ、お気をつけて」
「……うむ……いや、あれは……」
剣姫は相変わらず上の空。
別れの言葉もない。
ずっと一緒に過ごしてきたというのに、この別れ。
若干の寂しさを感じてしまうな。
「……」
しかし、ここまで俺の名前が気になるとは。
理解しがたいし、少し心配にもなる。
まっ、彼女のことはメルビンが何とかしてくれるだろう。
「よーし、ちっと急ぐぜ」
「了解」
テポレン方面に向かって駆けるヴァーンの背を追うように足を動かす。
「……」
やっぱり、エビルズマリスの創った異界とは違う。
緑の中を走るのはいいもんだ。
**********************
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「……ん? アリマは?」
「とっくに去りましたよ」
「なっ! もう去ったのか?」
「ええ。あなたが考え事をしている間にね」
「……」
メルビンが呆れた顔でこちらを見ている。
それも当然か。
アリマが去ったことすら気づかずにいたのだから。
「ほんと、どうしたんです? 戦闘でどこかやられました?」
「……大丈夫だ。問題ない」
「なら良いのですが。ところで、あの魔物は?」
「倒した」
「おお、さすがイリサヴィアさん。重畳です」
「いや……」
「浮かない顔ですねぇ」
「浮かない? 私がか?」
「そうですよ」
「……」
「今回あなたは途轍もない魔物を倒し、ミッドレミルトの異常解明にも成功しました。いや、それどころか解決したと言ってもいいでしょう。なのに、どうしてそんな顔を? 何を考えているのです?」
何を考えているかと言われれば……。
「辺境伯ですか?」
彼にはもう興味はない。
「違うようですね。まっ、この件は仕方のないことですし」
その通り。
ワディン辺境伯については、エビルズピークにいなかった時点で私の手から離れている。
「では、冒険者コーキ?」
「……うむ」
「なるほど。確かに彼は凄腕の冒険者です。今回は共闘者でもあります。ですが、先刻まで敵対していたのですよ。そんな相手にイリサヴィアさん、まさか?」
「邪推だな、メルビン」
アリマに対して、そんな感情は持っていない。
感謝の思いはあるが、そんなもの抱くわけがない。
私の心の中にいるのは、今もこれからもひとりだけなのだから。
ただ、違う意味で、もうひとり。
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