30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

東へ 1

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 今回は急な出発ということもあって、エリシティア様やジンクに別れの挨拶もできないまま王都を去ることになってしまった。

 王都を出る際には声をかけるようにと言われていたのに申し訳ない。

 一応、宿の従業員に簡単な手紙を託して配達を頼んでおいたので、これで許してほしいものだ。
 ああ、ギリオンにも一言だけな。

 屋台のファミノ親子とは、王都を出る前に広場に立ち寄って言葉を交わすことができた。
 コルドゥラに妨害されることなく、無事に商売できているようで安心したよ。
 約束通り、イリサヴィア様が手を回してくれたのだろう。


 三泊四日の王都滞在。
 非常に濃密な時間だった。
 それでも、まあ、楽しい時間を過ごすことができたとは思う。
 こうして離れるとなると寂しさを感じるくらいには、王都のことが気に入ったかな。

 王都キュベルリア。
 また訪れたいものだ。
 
「……」

 南の時忘門から王都を出る間際。
 振り返って、中央大通りと白亜宮の真白の眺めを目に焼き付ける。
 何度見ても飽きない……。

 お別れだ!





「グラスブル、ナガアランと南下した後に東に進路を取り、その後は順調に進めば5日ほどでレザンジュ王国に入ることになりますね。レザンジュに入ってからレザンジュの王都に到着するまでは5、6日でしょうか。なので、目的地に着くまで10日程度といったところです」

 王都を出て半刻ほど経った頃。
 ウィルさんからレザンジュ行の簡単な旅程を説明してもらった。
 ただ、予定を口にする彼女もレザンジュに行くのは初めてとのことなので、今回の旅程はヴァルターさんが考えたらしい。

「了解です。それで、今回もまた馬車に乗っているだけでいいんですか?」

「はい。でも、何かあったらお願いします。また盗賊に遭遇するかもしれませんし」

「もちろんです」

「今回はヴァルターもいますけど」

「それは心強いですね」

 今回のレザンジュ行はオルドウからの旅とは異なり、乗合馬車を利用していない。
 ヴァルターさんの所有する馬車での移動となっている。

 その馬車にはウィルさん、ヴァルターさん、カロリナさん、俺に加え、御者の方も同乗。
 5人での旅ということだ。

 そうそう、こいつも忘れちゃいけない。
 今も俺の横で大人しく座っているノワール。

「クウーン」

 王都ではあまり構ってやれず悪かったな。
 けど、この旅では一緒にいる時間も増えるはずだからさ。

「クウーン」

「……」



 ところで、この馬車……。

 乗合馬車に比べるとかなり小さな車体なのに、内装は整っているし乗り心地も悪くない。
 いや、ひょっとすると乗合馬車より上という可能性もある。

 こんな馬車を個人で所有しているとは、さすがヴァルターさんだ。
 冒険者ギルドの教官をする前は高名な冒険者だったのだから、当然なんだろうけど。

 そのヴァルターさん、長期で冒険者ギルドを休むことになる。
 よく許可をもらえたな。

「冒険者ギルドでの仕事は大丈夫だったのですか?」

「ああ、問題ない。他の教官に任せておいたからな。俺はレザンジュへの出張という扱いだ」

 なるほど。
 出張扱いか。

「ということは、レザンジュでも何か仕事を?」

「まあなぁ。こればかりは見逃してもらえなかったわ」

「……大変ですね」

「でも、あっちでの仕事は簡単なんでしょ」

「ええ、すぐに片付けられるはずですよ。つまり、ほとんどお嬢と一緒にいられるってことです」

「ふふ、そうね」

 王都キュベルリアを出る頃までは、少し落ち着きがなかったウィルさん。
 今はすっかりリラックスしている。
 ヴァルターさんとカロリナさんも柔らかい雰囲気。

 おかげで車内の空気も軽い。

「……」


 いきなり王都出発を告げられてから、王都を出るまでの時間。
 ウィルさん、ヴァルターさん、カロリナさんには緊張感みたいなものが漂っていた。
 明らかに普通じゃないと分かるその様子……。

 急な出発なのだから、問題があるのも当然だろう。
 それは俺も理解している。

 ただ、それが何かというと?
 分かるわけがない。

「こうして一緒に旅するのは、子供のころ以来ね」

「そうなりますなぁ」

「懐かしいわ」

「オレも懐かしいですよ」

 そんな3人も今は穏やかなもの。
 結局何も問題は起こっていないが、それはもちろん良いことだ。


「ウィル様、無事にキュベルリアを出ることもできましたし、ここからはゆっくり行きましょ」

「そうね」

 カロリナさんの言葉通り、ゆっくりと無事に馬車の旅は続き。
 盗賊に襲われることもなければ、悪天候に悩まされることもなく、ほとんどトラブルもないまま順調に時間が過ぎていった。


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