30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

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 昼まで宿で待っていたものの、ウィルさんは戻ってこないし連絡もない。
 さて、こうなると今日も自由な1日になってしまった。

「……」

 何の予定もない王都での1日。
 今日と同様に予定がなかった2日前は、コルドゥラの騒動から剣姫に遭遇し、ファミノとダンスをし、冒険者ギルドではヴァルターさんと手合わせをして、夜はギリオンに振り回され……。

 結果、忙しい一日に。

 とはいえ、偶然が重なっただけだ。
 さすがに今日は何も起こらないだろ。

「……」

 今日こそは、ゆっくり過ごせるはず。
 なら、まずは小広場でファミノの屋台に寄って、その後に噴水のある大広場で寛ごうか。

 善は急げということで、宿を出て小広場に足を向けたところ……。

 ウィルさんの姿が。
 後ろにはヴァルターさんとカロリナさんもいる。


「コーキさん、良かったぁ!」

 良かった?
 俺の姿を認めて安心しているのか?
 その様子には、既視感を覚えるぞ。

「宿にいたのですね」

「……ええ。ウィルさんは?」

「私はヴァルターたちと一緒に、あっ……昨日は連絡もせず申し訳ありませんでした」

「いえ、問題がないのなら、いいんですよ」

「でも、御迷惑を」

「迷惑ではないです。ただ、今後の予定だけは決めたいですね」

 予定が決まらないと、上手く動けないからな。

「まさに今、予定について話そうと思っていたんです」

「そうなんですか? なら、私の部屋で話しましょう」

 ウィルさん、ヴァルターさん、カロリナさんを促し宿に入り、部屋に戻る。



「ウィルさん、今後の予定は?」

「急な話なのですが……今日キュベルリアを出たいと思います」

 今日出発?
 ほんとに急だな。

「それで、良ければコーキさんにも同行してもらえないかと?」

 どうして俺にそんな質問を?
 答えるまでもない質問を?

「もちろん、オルドウには一緒に帰りますよ。私はウィルさんの護衛なんですから」

「あの、そうではなくて」

「……」

 ん?
 そうではない。
 では、どういうことだ?

「実は、王都を出てレザンジュに向かおうと考えているんです」

「……レザンジュ王国にですか?」

「はい」

 なるほど。
 確かに、これは想定外だ。

「私にもレザンジュに同行してほしいということですね」

「はい。コーキさんがよろしければ、レザンジュの王都に一緒に……」

「……」

 どうしたものか?

 こちらとしては、オルドウに帰るつもりでいたからな。
 レザンジュに行くなんて微塵も考えていなかった。

 とはいえ、俺に急ぎの用事があるわけでもなく。
 オルドウに戻ってすべきことも……。
 ないことはないか。
 それでも、急ぎはしない。

 なら、乗り掛かった船。
 レザンジュに行くのも悪くないな。

 エリシティア様とセレス様の国、レザンジュ王国に。


「突然の予定変更ですので、コーキさんが断られても依頼不達成ということにはなりませんから。ですので、無理なようでしたら断わってくださって結構です。でも、もし、可能なら一緒に来ていただければ……嬉しいです」

 遠慮がちに、そして心配そうにこちらの様子を窺っているウィルさん。

「いいですよ。レザンジュに行きましょう」

「本当ですか! ありがとうございます」

「コーキさん、ありがたい。あんたがいりゃ万全だ。これほど心強いことはないぞ」

 心強いって、ヴァルターさんがいれば問題ないだろ。

 まさか、同行しないのか?

「ヴァルターさんとカロリナさんもレザンジュに行くのですよね?」

「はい、ふたりも一緒です」

 そうだよな。

「では、急がせて申し訳ないのですが、コーキさんの用意ができたらすぐに出発しようかと」

「今すぐですか?」

「はい」

「……分かりました。準備ができたら受付に集合ということで」




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