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第4章 異能編

和見幸奈 11

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<和見幸奈視点>



「乙女心は複雑なのです」

 極上の微笑みで。
 何気なく、さり気なく。
 最高の演技。

「さいですか」

「もっと勉強しなさい」

「はい、はい」

 功己はいつもの苦笑。
 何も気づかない……。

 ほらね、上手くいった。

 でも……。

 どうしてだろ?

 演技なのに。
 切ないはずなのに。 

 それでも、功己と一緒だと沈まないの。

 ううん。
 沈まないどころか……。

 嫌じゃない。
 心と裏腹なことを喋っていても、軽くなってくる。

 楽しく笑って話ができる。
 演技の笑顔が、本物にすり替わっていく。

 信じられない。

「……」

 功己、あなたは魔法使いなの。

 あなたは、あなたは……。

 わたしは……。


 だいすき……。

 あなたのことが大好きだよ。


 駄目かな?
 わたしじゃ、駄目かな?
 
 こんな汚れた私じゃ……。

 でも、もし 受け止めてくれたら。
 汚れたわたしを受け入れてくれたら。

 そうすれば……。

 何もかもが変わるかもしれない。

 世界が……。
 諦めかけていた世界が……。




**********************




 幸奈の話を持ち出してきた直後、雰囲気が一変した武志。
 幸奈のことを気にかけていたからだろうが、その変化にはちょっと驚いてしまう。
 おそらく、俺の顔にも出ていたはずだ。

 とはいえ、態度がやわらいだ武志相手の話し合いはかなりスムーズに進み、お互いに納得できる決着を見たと思う。
 
 ……。

 正直なところ、武志については不安でいっぱいだったんだ。
 俺の知らない武志になっていたら、取り返しのつかないことになっていたら?
 そんなことばかり考えていたから。

 けど、問題なんかなかった。
 外見は変わっても、中身は昔のままの武志だった。

 ホッとしたよ。

 ……。

 ちなみに、今回の件について、武志は詳しい事情を知らなかったらしい。
 橘の指示通り動いていただけだと。

 そんな武志も今は事情を理解し、納得し、今後は異能を悪用しないという約束までしてくれた。

 本当に、これで一安心だな。

 さあ。
 こうなれば、あとは俺が何とかしてやるというもの。
 鷹郷さんの取り調べを受ける気があろうと無かろうと、手を貸してやらなきゃいけない。

 と思って確認したところ。

 武志本人が取り調べを受けると言い出したんだ。
 犯した罪は罪なので、しっかりと受けてくると。

 この潔さ。

 俺の知っている武志だ。
 正義感溢れる武志だよ。

 ということで、武志を鷹郷さんのもとに連れて行くことになった。


 能力開発研究所に戻ってからの鷹郷さんたちへの説明は、まあ……。
 いろいろと大変だったかな。

 こちらとしては、橘戦、壬生戦、武志との会話を経てのことなのだから、かなり疲れも溜まっている。
 そこに、鷹郷さんへの説明とくれば、疲労もピークに達っするというもの。

 それでも、鷹郷さんとの話し合いを何とか無事に終えることができた。
 武志の件についても上手く話を進めることができたと思う。

 取り調べや異能検査、適性検査などでの1週間の勾留は避けることができなかったけれど、今回はそれで済ましてくれそうだからな。
 もちろん、1週間という期間は武志に問題がなければの話。
 まっ、今の武志なら大丈夫だろう。

 その後の武志は当分監視対象とはなるものの、おそらく行動自体の制限は設けられないとのこと。
 そのかわり、俺がしっかりと面倒を見るようにと言われてしまった。
 言われなくとも、できることはするつもりだよ。

 ああ、そうそう。
 武志の異能については、現状は家族にも伏せておくことに決定したらしい。

 異能発現はその家族にとっても非常にデリケートな問題なので、鷹郷さんたちが今後も様子を見ながら対処を考えるそうだ。

 ……。

 ……。

 幸奈に真実を伝えられない状況に、チクチクと心が痛む。
 本当にそう……。

 ただ、異能世界の恐ろしさを考えると。
 これで良かったとも思える。
 普通人の幸奈を異能の争いに巻き込みたくはないから……。


 ということで、全て終了。

 あとは、武志が1週間後に帰ると幸奈に伝えるだけ。
 幸奈も両親も、きっと安心してくれるはずだ。




 能力開発研究所での騒動があった夜。

「会えなくてごめんね」

「体調が悪いんだろ。そんなこと気にしなくていいから」

 電話口での幸奈は確かに元気がなく、その声からも体調の悪さが伝わってくる。

「それで、身体は大丈夫か」

「うん、少し疲れているだけだから」

「疲れているだけなら、いいけど……」

 本当に元気がない。

「何かあったんじゃないのか?」

「……」

「話せるなら、何でも話してくれよ」

「……」

 話したくないのか、話すことがないのか?

「……父が…………」

「ん? どうした?」

「……ううん、何でもない。ちょっと神経質になってただけ。大丈夫だから」

「……そうか」

 最近はずっと武志の心配ばかりして大変な思いをしていたのだろうからな。
 幸奈と両親の神経が過敏になっていても不思議じゃない。

 それでも。
 いや、それだからこそ、幸奈の身体が心配になってしまう。

「……」

 ただまあ、この憂慮ももうすぐ終わるはず。
 武志が帰って来るのだから。

 武志の帰宅まであと少し待ってもらわなければならないが、まずは武志の言葉を聞いて安心してもらいたい。

「今日はいい報告があるぞ」

「何かな?」

「実はな……」




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