30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

セレス邸 1

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 本来なら直接会って伝えたいところだが、体調不良なら仕方ない。
 電話で簡単に伝えさせてもらう。

 内容は、武志が1週間後に家に戻って来ること、その後は外泊などせず家で真面目に暮らすつもりでいることなど、武志から幸奈への伝言だ。


「……と、今はそういう状況かな」

「えっ!?」

 受話器越しの幸奈の声。
 息を飲むのが感じられる。

「本当なの?」

「間違いない」

「本当なのね! ……良かったぁ」

 心からの安堵がこもった幸奈の声に、こっちも一安心だ。

「功己、ありがとう」

「……ああ」

 幸奈には、俺がしたことについては何も話していない。
 それなのに、感謝の言葉をくれる。

「でも、どうして1週間後なの?」

「それは……」

 なのに、俺は秘密ばかり。
 話せないことばかり。

「うん?」

 ごめん、それも話せないんだ。
 真実は話せない。
 本当に、ごめん。

 そう心の中で謝罪しながら、武志の現状や、帰宅が1週間後になる理由、また俺がこの件を知っている理由などを適当にごまかすことで話を終了させてもらった。


「そう、なんだ」

 いつもの元気な幸奈なら、簡単には納得してくれないだろう俺のごまかし。
 体調が良くないからか、今回はすんなり納得してくれたように見える。

 とはいえ、あまりにも淡白じゃないか?
 話すのも辛いくらいの体調だと?

「……」

 言い知れぬ不安が静かに鎌首をもたげてくる。

「……」

 いや、大丈夫なはず。
 1週間も経てば解消されるはずなんだから。

 そう言い聞かせるように受話器を置き。

 俺は懸念を振り払ってしまった。




********************************




 幸奈と電話で話をした日の深夜。
 軽い気分と重い気持ちを引きずりながら、異世界間移動でオルドウに渡った俺。

 いつも通り、常宿で準備を整え街に出ることに。
 その宿の入り口から一歩踏み出したところで。

「コーキさん、お久しぶりです」

 声をかけてきたのはフォルディさん。

「お久しぶりです」

 両手にいくつもの鞄を抱えている。

「今日は買い出しでしょうか?」

「ええ、それでコーキさんに挨拶をしようと思いまして」

 あの病の一件以来、エンノアの方々は食材を手に入れるため定期的にオルドウに訪れるようになっている。
 ただし、街に不慣れな人たちが多いので、今のところオルドウに足を運ぶのはフォルディさんを含め数人のみ。
 それでもこの変化はエンノアにとって大きな一歩だと考えてもいいだろう。

「わざわざすみません」

「いえいえ、ボクがコーキさんに会いたかっただけなので」

 そう言って、こちらを眺めるフォルディさん。
 彼の青い目には、相変わらず好奇心が溢れている。

 もう何度も会っているし話もしているフォルディさんが、いまだにこんな目をするという事実に若干戸惑ってしまうな。

「コーキさんと一緒にいると退屈しませんしね。それで、これからお出かけですか?」

「はい、少し出かけようかと」

「お邪魔でしたら、ボクは戻りますけど」

 特に急ぎの用事があるわけでもない。
 武志の件が一応の決着を見たので、セレス様の様子を伺いに行こうと思っていただけだ。

 なら、フォルディさんも。

「シアとアルのもとへ行こうかと思っていたんですよ。良ければ一緒にどうです?」

「ああ、コーキさんとギリオンさんの弟子になったおふたりですね」

 アルの腕を見るために常夜の森に赴いた際に一緒だったフォルディさん。
 当然、ふたりとは面識がある。

「懐かしいですね。でも、ボクが行ってもいいのかなぁ」

「もちろんです。シアとアルも喜ぶと思いますよ」

 セレス様の身元は隠す必要があるが、エンノアの方ならまず問題はないだろう。

「では、お言葉に甘えて」

「ええ、一緒に行きましょう」

 そんなわけで、フォルディさんとふたりでセレス様のもとへ向かうことになった。



 オルドウの大通りはいつもと変わらぬ眺め。
 多くの人々が道を行き交い、活気に満ち溢れている。
 同じ空気を吸っているだけで元気がもらえるような活気だ。

「オルドウは良い街ですね」

 穏やかなのに活気にあふれ、居心地の良さも申し分ないと思える街。

「ええ、私もそう思います」

 俺もフォルディさんもこの世界の街については詳しくはない。
 なので、他の街と比べることもできないのだが、それでもオルドウは素晴らしい街だと感じてしまう。

「……」

 この世界に来た当初。
 オルドウはあくまで当面の拠点となる街と考えていただけだった。
 それが今は……随分と愛着がわいてしまったものだ。

 とはいえ、他の街を訪れたい気持ちも当然存在している。
 この世界にもそれなりに慣れてきたことだし、そろそろという思いもあるかな。


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