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第4章 異能編

和見幸奈 10

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<和見幸奈視点>


 意図せず口から出てしまった結婚という言葉。
 すごく焦ってしまうけれど……。

 功己が珍しく動揺している。
 わたし以上に?

 これって、まさか!

「……」

 結果として、功己の気持ちを聞く良い機会になったかもしれない。

 よし!

 内心の焦りを隠し平静を装って……。

「そう。できる年齢だよね」

 功己、どうかな?
 もう結婚できるんだよ。

 わたしじゃ駄目かな?

 わたしと一緒に!
 わたしと……。

「……そんなの無理に決まってるだろ」

「……」

 やっぱり……。

 やっぱり届かない、か。

 高揚が一瞬で冷めていく。
 心が冷えていく。

「だいたい、ふたり共学生なんだし」

 学生?
 理由は学生だから?

 えっ、それだけ?

「……」

 功己……困ったような顔しているけど、嫌がってないよね。
 それなら、まだ可能性はあるの?

 少しだけ温かいものが戻ってくる。

 でも……。

「……冗談に決まっているでしょ。なのに、そんな本気で答えて」

 つい、こんなことを言ってしまう。

「ん、悪い。そうだな」

 違う。
 違うの。

 わたし心にもないことを!
 功己がわたしのこと、真剣に考えてくれたかもしれないのに。

 ああぁ……。

 ダメ!
 このままじゃ、話が終わってしまう。

 だから……。

「まあ、結婚は無理だろうけどさ……その、つ、つ」

 頑張れ!
 今度こそ、言うんだ!

「何だ?」

 しっかりと。
 しっかりと想いを!

「……つ、月に1回くらいは一緒に遊びに行こうよ」

 わたしの口から出たのは、そんな言葉。
 しかも、最後は消えるような小声で。

 はあぁぁ。

 バカだ。
 何やってるの。

「……」

 でも。
 言えない。
 怖い。
 やっぱり、聞けない。

 結婚の言葉は出せたのに、その言葉を口にする勇気は……。

 だって!
 一度断られたから!

 あの時は、はっきりと言葉にしたわけじゃないけど。
 断られたようなものだから。

 もし、今回も断られたら。
 そう思うと。

 言葉が……。


「そうだな」

 えっ?
 これは、いい返事?

 思わず口から出たお願いに、功己が応えてくれた?

「……」

 そっかぁ。
 月に1回かぁ……。

 結婚でも、つ……でもないけど。

 今日はこれでいい、かな。
 うん!
 これでいい!

 次がある。
 まだ可能性があるんだから。
 それなら、わたしは頑張れる。

 なんて思っていたら。

「ところで、幸奈は気になる男性とかいないのか?」

「ふぇ!?」

 自分でも信じられない声が漏れてしまった。

「どこから声出してんだ」

「だって、いきなりそんなこと聞くから」

 急に聞かれたら戸惑うのは当然だよ。

「変なことか?」

 変というか、わたしにとっては大変なことなの。
 心の準備はできてないし、それに……。

「そうだよ」

 それに。
 何より……。

 胸が痛いよ。
 辛いよ。

 好きな人に、そんなこと聞かれたら。
 目の前で、自然にそんなこと言われたら……。



 功己はわたしの気持ちなんて分かってないのかな?

 多分、分かってないよね。
 分かってたら、こんなこと……。

「そうかなぁ? で、いないのか?」

 っ!

 やめて。
 そんな顔で聞かないで!

「……」

 功己は昔から、こんな感じだった。
 さりげなく、自然に、抉ってくるんだ。

 だから。

 心は痛いけど、体は反応できる。
 口は動く。

 慣れてるから。
 舞台で振る舞うのは慣れてるから。

「うーん、いるような、いないような~」

 ほらね。
 できたでしょ。

 こんなこと簡単。

 でもさ……。

 したくないよ。
 功己の前で、こんなこと!

 女優になるのは、家と学校だけで十分。
 功己の前では……。

「何だそれ」

 何だじゃないの。

 分かってよ、功己。
 気づいてよ!

 痛い。
 切ない。

「……」

 わたしの気持ちなんて、そんなの決まっている。
 昔からずっと、決まっているの。

 気になるひとは1人だけ。
 今も昔も、ひとりだけ。

 功己、あなただけだよ。


 ねえ……。
 ねえ、功己。

 あなたは、どう思っているの?

「……」

 でも、言えない。
 聞けない。

 だから……。

 だから、わたしは演技する。
 笑顔で精一杯。
 演技をしてしまう。

 まるで、道化のように。

「……乙女心は複雑なのです」



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