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第八章 真なる聖剣
976 美味いとか不味いとかは関係ない世界
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「あの茶菓子、ちょっとくどい甘さだったが、師匠の言う通り、苦い茶に入れて食べるとちょうどよかったな。苦い茶も甘くなって飲みやすくなったし」
ミホム王との会食の場に案内されながら、勇者はさきほど飲んだ茶の感想を俺に言って来た。
まぁこいつからしたら慣れた城で親戚のおじさんと一緒にご飯を食べるぐらいの感覚なのかもしれんが、俺にとっては緊張する場である。
気を張っているところに緊張感を失わせる話をするのは、勘弁して欲しいという気持ちと、緊張がほぐれて丁度いいという気持ちが半々ぐらいあった。
結果として、返事をせずに聞き流す。
勇者は特に気にせず、その後もどうでもいい話を俺に向けて一方的にしゃべり続けた。
もしかすると、俺の緊張をほぐそうという、勇者なりの気遣いだったのかもしれない。
……いや、ないな。
「こちらへどうぞ。お席には、それぞれの担当の者がご案内いたします」
食堂の扉前まで案内してくれた人が、そう言って俺達から離れ、そのまま部屋の警護の兵に言葉を掛ける。
兵士はうなずくと、扉の片方を押して開き、俺達を通してくれた。
なかへと入ると、部屋まで連れて来てくれた男性の言葉通り、ずらっと並んだ侍女っぽい女性達が、さっと一人ずつ俺達に近づき、席まで案内する。
きびきびと訓練された無駄のない動きだ。
なんというか、街の食堂で働く女性も、いいところになると席まで案内してくれたりもするが、そういうのとは違って、まるでおもねる様子がない。
王との会食で客の世話をするだけでなく、監視も兼ねているのかもしれないな。
どっちかというと、兵士っぽい雰囲気だ。
ミホム王が座るであろう上座に一番近いのが勇者と俺となっている。
この会食の意味から考えれば当然なのかもしれないが、こんな場所で飯が食えるか! と声を大にして言いたい。
一番上座から遠い端の席で少しホッとしている様子のメルリルがうらやましいぞ。
とは言え、それでも王の席から俺の場所までは、椅子二つ分ぐらいの距離は空けてある。
その空間に椅子を置いていないのは、そこには誰も座らないという、意味だろう。
そして、人はそこそこ大勢いるのにしわぶき一つない空間で、じっと待機する。
もはやこれは、忍耐を試されているとしか思えない。
キツイ。
「陛下がいらっしゃいます。皆さまご起立を」
息苦しさが限界を突破する寸前、扉が開き侍従らしき人が宣言した。
慌てて立ち上がると、担当の女性が素早く椅子を下げ、立つ場所を小声で教えてくれる。
実にありがたい。
そして堂々と陛下がおでましになった。
ちらりと見ると、金髪に青い目、どこか勇者と似通った面差し。
同性だからか、アリアン王女とよりも、顔立ち自体は勇者と似ているな。
おっと、顔をじろじろ見てはいけないんだった。
確認するのに視線だけを動かしたものの、顔を伏せるのを忘れそうになる。
「此度の食事は私がたってと願ったもの。そのようにかしこまる必要はない。どうか楽に座ってくれ」
ミホム王の声が響く。
いや、そう言われて楽に出来るはずもない。
お付きの女性が的確なサポートをして座るべきタイミングを教えてくれる。
ありがとうございます。
全員が着席すると同時に、銀細工のカップが配られ、温められたワインのような飲み物が注がれた。
香りからすると、スパイスが入っているようだ。
春とは言えまだ浅く、寒い時期なので、それ自体はありがたいのだが、こんな席で酒はヤバい。
ミホム王が杯を掲げて飲んで見せるのに続いて、口だけつける。
だいぶ酒精は薄いな。
スパイスだけでなく、ハチミツや、何かの木の実を炒ったような香りもした。
普段酒を飲み慣れない人間でも飲みやすそうだ。
まぁ舐める程度なんだけどな。
「杯の半分程度はお飲みください」
耳元で囁かれて一瞬ビクッとしたが、なんとか素振りに出さないようにする。
同じく小声で「ありがとう」と礼を言って、杯の中身を喉に流し込んだ。
なるほど、中身が全く減っていないのはそれはそれで失礼になるんだな。
次に小さなカップでスープが運ばれて来て、パンが配られる。
テーブルの前方中央に肉料理などのメイン料理が並べられ、専門の給仕らしき者がそれを皿に取り分けて行く。
あの空いている場所は、料理のためのスペースだったのか。
取り分けにナイフなどの刃がついたものを一切使っていない。
俺達もここに来るときには、武器や武器になりそうなものは持ち込まないようにくれぐれも言われていたので、この空間に刃物を持ち込むのは厳禁なのだろう。
大きな肉などは、最初から切った状態で並べてある。
取り分けられた料理は、まずはミホム王の前に並べられ、何やら一つ一つ説明されていく。
美味そうな料理なのに、どれほど見せられても、却ってどんどん食欲が失せていくという、かつてない経験をした。
ああ、街の食堂で安い値段で注文出来る、適当な残り物をぶっこんだ、くそ不味いごった煮料理が、今は猛烈に恋しいな。
ミホム王との会食の場に案内されながら、勇者はさきほど飲んだ茶の感想を俺に言って来た。
まぁこいつからしたら慣れた城で親戚のおじさんと一緒にご飯を食べるぐらいの感覚なのかもしれんが、俺にとっては緊張する場である。
気を張っているところに緊張感を失わせる話をするのは、勘弁して欲しいという気持ちと、緊張がほぐれて丁度いいという気持ちが半々ぐらいあった。
結果として、返事をせずに聞き流す。
勇者は特に気にせず、その後もどうでもいい話を俺に向けて一方的にしゃべり続けた。
もしかすると、俺の緊張をほぐそうという、勇者なりの気遣いだったのかもしれない。
……いや、ないな。
「こちらへどうぞ。お席には、それぞれの担当の者がご案内いたします」
食堂の扉前まで案内してくれた人が、そう言って俺達から離れ、そのまま部屋の警護の兵に言葉を掛ける。
兵士はうなずくと、扉の片方を押して開き、俺達を通してくれた。
なかへと入ると、部屋まで連れて来てくれた男性の言葉通り、ずらっと並んだ侍女っぽい女性達が、さっと一人ずつ俺達に近づき、席まで案内する。
きびきびと訓練された無駄のない動きだ。
なんというか、街の食堂で働く女性も、いいところになると席まで案内してくれたりもするが、そういうのとは違って、まるでおもねる様子がない。
王との会食で客の世話をするだけでなく、監視も兼ねているのかもしれないな。
どっちかというと、兵士っぽい雰囲気だ。
ミホム王が座るであろう上座に一番近いのが勇者と俺となっている。
この会食の意味から考えれば当然なのかもしれないが、こんな場所で飯が食えるか! と声を大にして言いたい。
一番上座から遠い端の席で少しホッとしている様子のメルリルがうらやましいぞ。
とは言え、それでも王の席から俺の場所までは、椅子二つ分ぐらいの距離は空けてある。
その空間に椅子を置いていないのは、そこには誰も座らないという、意味だろう。
そして、人はそこそこ大勢いるのにしわぶき一つない空間で、じっと待機する。
もはやこれは、忍耐を試されているとしか思えない。
キツイ。
「陛下がいらっしゃいます。皆さまご起立を」
息苦しさが限界を突破する寸前、扉が開き侍従らしき人が宣言した。
慌てて立ち上がると、担当の女性が素早く椅子を下げ、立つ場所を小声で教えてくれる。
実にありがたい。
そして堂々と陛下がおでましになった。
ちらりと見ると、金髪に青い目、どこか勇者と似通った面差し。
同性だからか、アリアン王女とよりも、顔立ち自体は勇者と似ているな。
おっと、顔をじろじろ見てはいけないんだった。
確認するのに視線だけを動かしたものの、顔を伏せるのを忘れそうになる。
「此度の食事は私がたってと願ったもの。そのようにかしこまる必要はない。どうか楽に座ってくれ」
ミホム王の声が響く。
いや、そう言われて楽に出来るはずもない。
お付きの女性が的確なサポートをして座るべきタイミングを教えてくれる。
ありがとうございます。
全員が着席すると同時に、銀細工のカップが配られ、温められたワインのような飲み物が注がれた。
香りからすると、スパイスが入っているようだ。
春とは言えまだ浅く、寒い時期なので、それ自体はありがたいのだが、こんな席で酒はヤバい。
ミホム王が杯を掲げて飲んで見せるのに続いて、口だけつける。
だいぶ酒精は薄いな。
スパイスだけでなく、ハチミツや、何かの木の実を炒ったような香りもした。
普段酒を飲み慣れない人間でも飲みやすそうだ。
まぁ舐める程度なんだけどな。
「杯の半分程度はお飲みください」
耳元で囁かれて一瞬ビクッとしたが、なんとか素振りに出さないようにする。
同じく小声で「ありがとう」と礼を言って、杯の中身を喉に流し込んだ。
なるほど、中身が全く減っていないのはそれはそれで失礼になるんだな。
次に小さなカップでスープが運ばれて来て、パンが配られる。
テーブルの前方中央に肉料理などのメイン料理が並べられ、専門の給仕らしき者がそれを皿に取り分けて行く。
あの空いている場所は、料理のためのスペースだったのか。
取り分けにナイフなどの刃がついたものを一切使っていない。
俺達もここに来るときには、武器や武器になりそうなものは持ち込まないようにくれぐれも言われていたので、この空間に刃物を持ち込むのは厳禁なのだろう。
大きな肉などは、最初から切った状態で並べてある。
取り分けられた料理は、まずはミホム王の前に並べられ、何やら一つ一つ説明されていく。
美味そうな料理なのに、どれほど見せられても、却ってどんどん食欲が失せていくという、かつてない経験をした。
ああ、街の食堂で安い値段で注文出来る、適当な残り物をぶっこんだ、くそ不味いごった煮料理が、今は猛烈に恋しいな。
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