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第八章 真なる聖剣
977 無邪気さゆえの悪意
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「此度はほかでもない、勇者が師として慕っているという冒険者殿のお話を伺おうと思ってな」
ミホム王は、メインの料理を食し終えると、プディングと呼ばれる卵を使った柔らかい料理をスプーンで掬いつつ、話を切り出した。
卵は貴重な食材なので、卵を使った料理は基本的に贅沢とされている。
明らかに潤沢に卵を使っているこの料理は、正に王様の食事の最後を飾るにふさわしいと言えるだろう。
……おっと、つい料理に意識を集中して、現実逃避をしそうになってしまった。
ミホム王に返事をしないとな。
「はっ、もったいないお言葉です」
実は勇者と聖女に、王と会話をする際に無難な言葉はないか? と聞いたところ、教えてもらったのがこの「もったいないお言葉」というものだ。
詳細な説明を求められたとき以外は、だいたいこの言葉で事足りるらしい。
本当か? 便利だな。
「実はそこな勇者は、我がミホム王家に連なるものでな。知っての通り、我がミホム王家は初代勇者の血を受け継ぐ、由緒正しい血筋となっておる。ゆえに、我が血族から、初代勇者の生まれ変わりとされる者が出たのは、ある意味当然と言えるだろう」
ミホム王の言葉に、俺はちらりと対面に座る勇者の顔を見た。
この話題は、勇者にとって一番聞きたくない話だろう。
だが、勇者はわずかなりとも表情を変えることなく、淡々と食事を進めている。
無関心が過ぎて失礼なんじゃないか? と不安になるぐらいだ。
というか、あれ、少し怒ってないか?
「とは言え、高貴な血筋ゆえ、魔物のような汚らわしきものどもとの戦い方を知らぬ。叔父としても、少し心配しておったのだよ」
ぴくりと勇者のスプーンを持つ手に力が入った。
さすがの俺でも、今の勇者の心境は理解出来る。
勇者は、慕ってくれるアリアン王女にもけじめをつけさせるほど、血や家を、さらには名さえ捨てさせられたことを気にしていた。
その血を吐くような覚悟を、こうもあっさりと元の主である王が無視して来るとは、耐えられない気持ちだろう。
勇者がミホムの王城に立ち寄るのを嫌がる理由がなんとなくわかった。
「それで、宰相からの助言もあって、魔物退治のベテランであるそなたを、勇者のサポートとしてつけさせたという訳だ。それが功を奏したようで、なによりだ」
「……はっ、もったいないお言葉」
よかった万能の返事を聞いておいて。
あまりのもの言いに、つい、言葉を失ってしまったぜ。
なんだ、話が聞きたいというのは、勇者の師を選んだ自分達の見立ての正しさを誇りたいということだったんだな。
俺は特に意見は求められていないようで、楽と言えば楽だ。
ちょっと拍子抜けではあるものの、変に覚えがめでたくなるよりはマシだろう。
将来的に俺はミホムに居を構えるつもりだし、自国の王に変に覚えられてしまうのはいろいろとマズいからな。
自分達のおかげで、有能な勇者が出来上がったと自慢するための事実確認ということなら、すぐに俺の名前など忘れてしまうだろう。
いいことか悪いことかと聞かれれば、いいことに違いない。
とは言え、これはだいぶしんどいぞ。
後で勇者を労ってやらないとな。
まぁ王様の主な用事も終わっただろうし、使命がどうのとか言い訳を考えて、さっさと城を出ることにしよう。
それが、今の勇者にとっては一番の薬になるはずだ。
ミホム王は、メインの料理を食し終えると、プディングと呼ばれる卵を使った柔らかい料理をスプーンで掬いつつ、話を切り出した。
卵は貴重な食材なので、卵を使った料理は基本的に贅沢とされている。
明らかに潤沢に卵を使っているこの料理は、正に王様の食事の最後を飾るにふさわしいと言えるだろう。
……おっと、つい料理に意識を集中して、現実逃避をしそうになってしまった。
ミホム王に返事をしないとな。
「はっ、もったいないお言葉です」
実は勇者と聖女に、王と会話をする際に無難な言葉はないか? と聞いたところ、教えてもらったのがこの「もったいないお言葉」というものだ。
詳細な説明を求められたとき以外は、だいたいこの言葉で事足りるらしい。
本当か? 便利だな。
「実はそこな勇者は、我がミホム王家に連なるものでな。知っての通り、我がミホム王家は初代勇者の血を受け継ぐ、由緒正しい血筋となっておる。ゆえに、我が血族から、初代勇者の生まれ変わりとされる者が出たのは、ある意味当然と言えるだろう」
ミホム王の言葉に、俺はちらりと対面に座る勇者の顔を見た。
この話題は、勇者にとって一番聞きたくない話だろう。
だが、勇者はわずかなりとも表情を変えることなく、淡々と食事を進めている。
無関心が過ぎて失礼なんじゃないか? と不安になるぐらいだ。
というか、あれ、少し怒ってないか?
「とは言え、高貴な血筋ゆえ、魔物のような汚らわしきものどもとの戦い方を知らぬ。叔父としても、少し心配しておったのだよ」
ぴくりと勇者のスプーンを持つ手に力が入った。
さすがの俺でも、今の勇者の心境は理解出来る。
勇者は、慕ってくれるアリアン王女にもけじめをつけさせるほど、血や家を、さらには名さえ捨てさせられたことを気にしていた。
その血を吐くような覚悟を、こうもあっさりと元の主である王が無視して来るとは、耐えられない気持ちだろう。
勇者がミホムの王城に立ち寄るのを嫌がる理由がなんとなくわかった。
「それで、宰相からの助言もあって、魔物退治のベテランであるそなたを、勇者のサポートとしてつけさせたという訳だ。それが功を奏したようで、なによりだ」
「……はっ、もったいないお言葉」
よかった万能の返事を聞いておいて。
あまりのもの言いに、つい、言葉を失ってしまったぜ。
なんだ、話が聞きたいというのは、勇者の師を選んだ自分達の見立ての正しさを誇りたいということだったんだな。
俺は特に意見は求められていないようで、楽と言えば楽だ。
ちょっと拍子抜けではあるものの、変に覚えがめでたくなるよりはマシだろう。
将来的に俺はミホムに居を構えるつもりだし、自国の王に変に覚えられてしまうのはいろいろとマズいからな。
自分達のおかげで、有能な勇者が出来上がったと自慢するための事実確認ということなら、すぐに俺の名前など忘れてしまうだろう。
いいことか悪いことかと聞かれれば、いいことに違いない。
とは言え、これはだいぶしんどいぞ。
後で勇者を労ってやらないとな。
まぁ王様の主な用事も終わっただろうし、使命がどうのとか言い訳を考えて、さっさと城を出ることにしよう。
それが、今の勇者にとっては一番の薬になるはずだ。
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