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第八章 真なる聖剣
804 朝のルーチン
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その日は結局みんな疲れていて、晩飯を食べられた者は俺とルフぐらいだった。
ルフは勇者達を差し置いて自分だけ食べるのをものすごく遠慮していたが、飯は全ての基本だという俺の持論をごり押したので、ちゃんと美味しく味わってくれたようだ。
それほど疲れていたのに、全員次の朝は早かった。
おそらく鍛錬の習慣が身に付いているんだな。
いつも通りみんなよりも早く起き出した俺は、天空の庭というやつを確認しておいた。
鍛錬で使っていい場所かどうかを、先に知っておきたかったからだ。
「さすがパーニャ姫が自慢していただけはある。綺麗な庭だな」
テラスに造られた天空の庭は、崖の中腹から半円形のテラスを重ねて、城の上まで階段状に造られていた。
そのため、ほかにはない立体感のある風景を作り出している。
そしてなんと、庭には上から流れ落ちる滝があり、より下の段へと曲がりくねりながら水路が下っていた。
宿の水路のある庭も綺麗だったが、こっちはさすがに規模が違う。
色とりどりの花が季節に応じて咲くようになっているらしく、秋から冬へと移り変わろうとする今の季節にも、何種類かの花が庭を覆っていた。
広さは十分だが、この庭をうっかり荒らす訳にはいかないな。
部屋に戻ると、朝に強い聖女と勇者が洗面所を探してうろうろしていた。
それぞれの寝室用の部屋にもあったはずなんだが、どうしてこっちのバカでかい部屋で探してるんだろう。
「ほら、こっちの布の影に洗面所はあるぞ。このレバーをこう下ろすと水が出て、上げると止まる仕組みだ」
「東の国と同じ仕組みですね」
聖女が陶器の洗面容器に水を入れながら言った。
「あっちと取引しているようだからな。帝国と同じで、便利な技術はすぐに取り入れられるんだろう」
と、勇者。
「鍛錬は一番広いテラス前の部屋でやるぞ」
俺はそう告げると、ぶらぶらと戻る。
昨日はざっと見て回っただけだったが、よくよく見ると、区画ごとにテーマがあるようだ。
書棚がぎっしりと詰まった一画、ゲーム板や絵札など、ちょっとした遊びを楽しめそうな一画、カウンターの前に椅子が並べてあるところでは、酒でも楽しめということか?
やがて朝に弱い組が集まって来る。
メルリルやモンクは自分達の寝室で洗面所を使ったようだ。
なんで聖女はこっちに来たんだろう? と思ったが、ああと納得する。
二人が寝ていたから気を使ったんだな、きっと。
勇者が聖騎士に気を使ったとも思えないので、勇者の場合は単純にこっちに出て来ることを優先させたのだろう。
その聖騎士は、すでに鎧姿で庭に出ようとしていたので、素振りは止めて走り込みだけ行うように言っておいた。
「この庭で剣技の型を狭く鋭くなぞってみるのも面白そうだったのですけどね」
と、笑っていたが、まぁ聖騎士なら問題なくやれるだろう。
問題なのは勇者である。
聖騎士がやっているのに駄目だと言うと拗ねるので、勇者の素振りを止めさせるためには聖騎士を止めなければならないという話になってしまうのだ。
ということで、各々走り込みだけ庭で行った。
階段の多い場所なので、鍛錬向きだ。
「こんな地面から遠い場所に植物を育てるなんて、優秀な庭師の方がいるのかな」
メルリルがまるで花々と対話するように一つ一つに触れながらそんな風に言った。
実際精霊と対話しているのだろう。
風も強い場所だし、メルリルにとっても居心地がいいようだった。
鍛錬が終わる頃には日も昇り、ほんのりと暖かさが感じられるようになる。
その頃にはルフが起き出して来て、部屋で体をほぐしているみんなに付き合った。
子ども時代に無理をすると体のバランスが崩れることがあるので、ルフは本格的な鍛錬には参加させてないのだ。
その代わりという訳ではないが、朝食の準備を手伝ってもらう。
昨日の夕食は、調理済のものはこっちの厨房に保管して置いたので、それを食べる前提で朝食は断っておいた。
夕食の内容をそのまま朝に出すのも何なので、それぞれ、溶いた卵でくるんで焼いたり、焼いたパンに乗せて食べられるようにしたりと少し工夫する。
この部屋付属の厨房には、毎食の料理とは別に、毎朝、新鮮な食材が届けられるとのことなので、そういうものを活用したのだ。
なによりも新鮮な卵とミルクが豊富にあるのが嬉しい。
この国に来てからたくさん食べるようになった食材だ。
ミホムではどっちも農場や家畜を飼っている家で、朝だけに食べられるご馳走なのである。
「これ、師匠が手を入れた料理だろ。俺にはわかる。美味いし」
「お城の料理人に失礼だぞ。もともとの料理が美味いから、俺が手を加えても美味いんだよ」
そう言いながらも、俺が手を加えた料理だけを的確に見抜く勇者に舌を巻く。
こいつ、本当に誰が作ったかわかるのか? 無駄な才能だなぁ。
さて、食事が終わり、これからどうするかのいつもの話し合いになった。
と言っても、とりあえず海洋公がどう動いて、事件がどう進展しているのかがわからないと決めにくいということはある。
「どうせ海洋公に世話になったんだ。ついでに大聖堂まで行く船に乗せてくれと言ってみたらどうだろう?」
と、勇者が提案して来た。
「確かにな。今回の件で海洋公は俺達に対する引け目を感じているはずだ。そこで特別に船を出してもらうことにすれば、海洋公としても少しは気持ち的に楽になるだろう」
「いや、船で大聖堂に行って、面倒な砂嵐を避けたいだけだぞ。あのハゲオヤジの気持ちはどうでもいい」
「アルフ、他人の身体的特徴を悪し様に言うのはやめるんだ。本人の責任ではないんだからな」
俺は厳しく勇者に注意する。
ハゲとか傷つくだろ。
ルフは勇者達を差し置いて自分だけ食べるのをものすごく遠慮していたが、飯は全ての基本だという俺の持論をごり押したので、ちゃんと美味しく味わってくれたようだ。
それほど疲れていたのに、全員次の朝は早かった。
おそらく鍛錬の習慣が身に付いているんだな。
いつも通りみんなよりも早く起き出した俺は、天空の庭というやつを確認しておいた。
鍛錬で使っていい場所かどうかを、先に知っておきたかったからだ。
「さすがパーニャ姫が自慢していただけはある。綺麗な庭だな」
テラスに造られた天空の庭は、崖の中腹から半円形のテラスを重ねて、城の上まで階段状に造られていた。
そのため、ほかにはない立体感のある風景を作り出している。
そしてなんと、庭には上から流れ落ちる滝があり、より下の段へと曲がりくねりながら水路が下っていた。
宿の水路のある庭も綺麗だったが、こっちはさすがに規模が違う。
色とりどりの花が季節に応じて咲くようになっているらしく、秋から冬へと移り変わろうとする今の季節にも、何種類かの花が庭を覆っていた。
広さは十分だが、この庭をうっかり荒らす訳にはいかないな。
部屋に戻ると、朝に強い聖女と勇者が洗面所を探してうろうろしていた。
それぞれの寝室用の部屋にもあったはずなんだが、どうしてこっちのバカでかい部屋で探してるんだろう。
「ほら、こっちの布の影に洗面所はあるぞ。このレバーをこう下ろすと水が出て、上げると止まる仕組みだ」
「東の国と同じ仕組みですね」
聖女が陶器の洗面容器に水を入れながら言った。
「あっちと取引しているようだからな。帝国と同じで、便利な技術はすぐに取り入れられるんだろう」
と、勇者。
「鍛錬は一番広いテラス前の部屋でやるぞ」
俺はそう告げると、ぶらぶらと戻る。
昨日はざっと見て回っただけだったが、よくよく見ると、区画ごとにテーマがあるようだ。
書棚がぎっしりと詰まった一画、ゲーム板や絵札など、ちょっとした遊びを楽しめそうな一画、カウンターの前に椅子が並べてあるところでは、酒でも楽しめということか?
やがて朝に弱い組が集まって来る。
メルリルやモンクは自分達の寝室で洗面所を使ったようだ。
なんで聖女はこっちに来たんだろう? と思ったが、ああと納得する。
二人が寝ていたから気を使ったんだな、きっと。
勇者が聖騎士に気を使ったとも思えないので、勇者の場合は単純にこっちに出て来ることを優先させたのだろう。
その聖騎士は、すでに鎧姿で庭に出ようとしていたので、素振りは止めて走り込みだけ行うように言っておいた。
「この庭で剣技の型を狭く鋭くなぞってみるのも面白そうだったのですけどね」
と、笑っていたが、まぁ聖騎士なら問題なくやれるだろう。
問題なのは勇者である。
聖騎士がやっているのに駄目だと言うと拗ねるので、勇者の素振りを止めさせるためには聖騎士を止めなければならないという話になってしまうのだ。
ということで、各々走り込みだけ庭で行った。
階段の多い場所なので、鍛錬向きだ。
「こんな地面から遠い場所に植物を育てるなんて、優秀な庭師の方がいるのかな」
メルリルがまるで花々と対話するように一つ一つに触れながらそんな風に言った。
実際精霊と対話しているのだろう。
風も強い場所だし、メルリルにとっても居心地がいいようだった。
鍛錬が終わる頃には日も昇り、ほんのりと暖かさが感じられるようになる。
その頃にはルフが起き出して来て、部屋で体をほぐしているみんなに付き合った。
子ども時代に無理をすると体のバランスが崩れることがあるので、ルフは本格的な鍛錬には参加させてないのだ。
その代わりという訳ではないが、朝食の準備を手伝ってもらう。
昨日の夕食は、調理済のものはこっちの厨房に保管して置いたので、それを食べる前提で朝食は断っておいた。
夕食の内容をそのまま朝に出すのも何なので、それぞれ、溶いた卵でくるんで焼いたり、焼いたパンに乗せて食べられるようにしたりと少し工夫する。
この部屋付属の厨房には、毎食の料理とは別に、毎朝、新鮮な食材が届けられるとのことなので、そういうものを活用したのだ。
なによりも新鮮な卵とミルクが豊富にあるのが嬉しい。
この国に来てからたくさん食べるようになった食材だ。
ミホムではどっちも農場や家畜を飼っている家で、朝だけに食べられるご馳走なのである。
「これ、師匠が手を入れた料理だろ。俺にはわかる。美味いし」
「お城の料理人に失礼だぞ。もともとの料理が美味いから、俺が手を加えても美味いんだよ」
そう言いながらも、俺が手を加えた料理だけを的確に見抜く勇者に舌を巻く。
こいつ、本当に誰が作ったかわかるのか? 無駄な才能だなぁ。
さて、食事が終わり、これからどうするかのいつもの話し合いになった。
と言っても、とりあえず海洋公がどう動いて、事件がどう進展しているのかがわからないと決めにくいということはある。
「どうせ海洋公に世話になったんだ。ついでに大聖堂まで行く船に乗せてくれと言ってみたらどうだろう?」
と、勇者が提案して来た。
「確かにな。今回の件で海洋公は俺達に対する引け目を感じているはずだ。そこで特別に船を出してもらうことにすれば、海洋公としても少しは気持ち的に楽になるだろう」
「いや、船で大聖堂に行って、面倒な砂嵐を避けたいだけだぞ。あのハゲオヤジの気持ちはどうでもいい」
「アルフ、他人の身体的特徴を悪し様に言うのはやめるんだ。本人の責任ではないんだからな」
俺は厳しく勇者に注意する。
ハゲとか傷つくだろ。
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