勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

805 嵐の予兆

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 大聖堂に行く船の話はともかくとして、誘拐事件についてのその後の経過が聞けたのは、昼過ぎのことだった。
 勇者がそろそろ城を出て、自分達で動こうと言い出していたので、タイミング的には助かったと言えるだろう。
 ツテもコネもない街で、裏の事情を探り出そうなんて、無茶な話でしかない。
 まぁせいぜいが、俺達が探っていることを当の相手に知られた挙げ句、証拠隠滅されてしまうのが関の山だろう。

 それにしても、普通は城主の求めに応じて、客が面会用の部屋に出向くのが礼儀だと聞いたことがあるが、海洋公は自分からわざわざ俺達の部屋を訪れてくれた。
 勇者に対する心酔度がよくわかるな。

「勇者さま。ご報告が遅れてしまったこと、深くお詫び申し上げます」

 いやいや、海洋公が勇者に事態を報告する義務はないんだが、まぁ本人が詫びると言っているんだからいいか。
 海洋公は、たった一日見なかった間に、なにやらげっそりと憔悴しているようだった。
 少し小太りで、商人ではよく見る体型だった海洋公だが、心なし、痩せたような気がする。

「待ちかねた」

 勇者の返事もまたひどかった。
 お前、海洋公の主じゃないんだからな。
 その物言いはさすがに失礼だろ?

「ははっ」

 だが、海洋公のほうは一片たりとも疑問を抱いていない様子で、逆に声を掛けてもらったことに喜びを感じている風だった。
 ……うん、まぁ、二人がちょうど噛み合ってるみたいだから、いいんだろう。

 海洋公は、くるくると丸めた書類を引き伸ばし、目の前に掲げて読み上げる。

「まずは勇者さま方が鹵獲してくださった海賊船及び乗組員ですが、船は接収し調査、乗組員のうち、勇者さまに恭順の意を示した者は、聞き取り調査の後、犯罪奴隷として強制労働を十年、罪が重く、死罪が免れない者は、厳しい取り調べによって、組織の詳細を聞き出した後に縛り首に。特に、船長と異国の者共は念入りに調べております」
「罪の重い連中は、どうせ殺されるならと何も言わないんじゃないか?」

 勇者の問いに、海洋公は鋭い目つきで答えた。

「世の中には、死んだほうがマシということもあるものです」
「そ、そうか」

 あ、勇者、ちょっとたじろいだな。
 人間相手はこういうのがあるから、勇者達に関わらせたくないんだよな。
 とは言え、いつかはそういうことにも決断を下さなければならなくなるときが来るんだろう。
 人の死に積極的に関われば、必ずどこかで恨みを買うものだ。
 勇者がまつりごとに関わらないという決まりごとは、勇者という輝かしい存在を、そういった人間の愛憎に、巻き込まないためのものでもあるのかもしれない。

「それと、さらわれた者達ですが、船にいた三名のほかに、奴等が攫い小屋と呼んでいるいくつかの店にも、五名程が監禁されていたのを救出しました。こちらは例の憲兵隊のお手柄ですな」
「なるほど。あの憲兵隊長には十分に報いてやってくれ」
「心得ました」

 海洋公、自分のことじゃないのに褒められて嬉しそうだな。
 あの憲兵隊長さん、分不相応な昇進とかさせられて、苦労しなければいいんだが。
 せめて金で労ってやって欲しい。

「そして、勇者さま。肝心の身内の裏切り者についてですが、港湾の管理官が海賊共に買収されていることが判明いたしました」
「それはだいぶマズいな」
「はっ、恥ずかしながら、こやつらが、外国の商船の運行情報を流していたようなのです。さらには、海賊についての陳情も、こやつらのところで握りつぶされていたようです」

 海洋公の顔がみるみる真っ赤に染まる。

「大公国の海を守護する者と、海洋公の名を名乗りながらのこの体たらく。あまりの生き恥に、何度自らを海の魔物に食わせようかと思ったことか……」

 思うにこの地域では、海の魔物に食われることが、一番最悪な死に方なんだろうな。
 だから海洋公も度々こういう言い回しをするのだろう。

「前も言ったが、お前が死んだところで何一つ解決しない。恥に思うなら、そういうことが二度と起きないように手を入れるんだな。お前一人で改善方法が思いつかなければ、見識高い者の意見を聞くがいい。俺は政治には口出し出来ないから、好き勝手言うだけだがな」
「はっ、勇者さまのお言葉、心してございます」

 海洋公は両膝を突いて、床に額を擦り付け、涙ながらに誓ったのである。

 昼過ぎにそんなことがあったので、俺達としては、海賊連中のことは海洋公に任せることで意見は一致した。
 そして、大聖堂行きの船のことをどう切り出すか、という話し合いを、夕食の後にしていたのだ。
 だが、その場に、パーニャ姫の侍女が訪れたことで、全ての予定が後回しになる。

「失礼いたします。こちらにパーニャ姫さまはいらしてませんでしょうか?」

 俺達は顔を見合わせ、俺が代表して返事をした。

「いや、今日は来られてないですよ。パーニャ姫がどうかされたのですか?」
「それが、お昼過ぎにお友達に宝物を見せに行くのだと言ってお部屋を出てからお戻りでなくて……」

 昼過ぎ? 嫌な予感がする。
 俺は勇者に視線を向けたが不思議そうな顔をするばかりで、事態を把握していない様子だ。

「姫さまは、恐れ多くも僕を友達だとおっしゃってくれてました。……あの、ほかにお友達に心当たりは?」

 ルフが尋ねる。
 侍女は、今更ながらに顔色を悪くしていた。

「い、いえ。何分姫さまはお歳が、お小さいので……ああっ……姫さま」
「落ち着いて。あなたが混乱してしまったら、見つかるものも見つからなくなってしまいますよ」

 俺はゆっくりとやさしく語りかけて侍女を落ち着かせる。
 この侍女もまだ少女と言っていい年齢だ。
 出来るだけ歳の近い側付きを選んだ結果なんだろうが、いかんせん若すぎる。

「済まないが、昨日の女官さんを呼んで来てもらえるかな? 大丈夫、まだ何か悪いことが起きたと決まった訳じゃない」

 噛み砕くようにゆっくりと言って聞かせると、侍女もようやく落ち着いたようで、何度もうなずいて、部屋を後にした。

「……まずいな」
「子どものことだ。どっかに潜り込んで寝てしまったんじゃないのか?」
「お前の子ども時代が目に見えるようだよ」

 勇者の言葉にため息を吐く。
 だが実際、俺の考えすぎで、勇者の言う通りパーニャ姫が無事に見つかるといいんだが。
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