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第八章 真なる聖剣
785 ナイフ
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メルリルとモンクの左腕に嵌っていたのは、いつだったか見たことがある魔道具だった。
「茨の冠か」
「茨の冠? 腕に嵌っているようですが」
「見た目、茨でもない、だろ? 茨の冠ってのは、確か昔話にちなんだ呼び名でな。装着した者の意識を混濁させて、命令者の言葉に従うようにする魔道具だ」
「そんなものがあるんですか? こんなかわいらしい飾りなのに」
聖騎士の示すブレスレットは、彩り美しい二枚貝の貝殻を、適度な間隔で飾ったものだ。
聖騎士の言う通り、かわいらしく、何の害もなさそうに見える。
「飾り部分は関係ない。その芯になっている紐にあたる部分だ。細かく編まれているだろう?」
「そう言えば、見事な細工ものですね」
「この一本一本が、魔鉱石を粉にしたものを練り込んだ紐で、五種類ぐらいのその紐を複雑に編み込んであるんだ。どうもその編み方に秘密があるらしくってな。装着した者の意識を曖昧にして、近くで指示を出されると従ってしまう状態になっちまうんだ。……知らないかな? 昔、とある街で、子どもばかりが行方不明になった事件があったんだが」
「ああ、知っています。祝祭日の集団失踪事件ですね。……そうか、そのときに使われたのがこれと同じものなんですね」
四、五年前だったか、俺達の母国であるミホム王国で、かなり世間を騒がした事件だったはずだ。
あのとき、あらゆる冒険者に、所属不明の子どもを見掛けたら報告すること、というお達しが国からあった。
たまたま事件があった街近くまでの護衛の仕事を終えた俺は、その街に立ち寄って、被害に遭った家族から話を聞く機会があったのだ。
結局、事件を解決したのは、王都から派遣された親衛隊の一部隊だったが、事件に使われた小道具として、被害者が身につけていたのが、この茨の冠だった。
そのときの親衛隊の隊長とか言うのが、だいぶロマンチックな男で、「昔話の茨の冠みたいですね」などと言ったせいでこの名前が定着することとなる。
そう言えば、少し、勇者に似ていたな。
「そういうことだ。しかし、専門家によって分析はされたが、同じものは作れなかった。それが使われているってことは……」
「そのときの犯人と根は同じということですか?」
「ああ。だいぶ根は深そうだな」
聖騎士は緊張した面持ちで、俺の話を聞き、周囲への警戒を一段階引き上げる。
なまなかな相手ではないと理解したのだろう。
「とりあえず、二人から茨の冠を取り除かなきゃならないんだが、手首から普通に抜こうとすると装着者が激しく抵抗する仕掛けなんで、切断しなきゃならん……ナイフも、取り上げられてるか」
俺のベルトに挿してあったナイフが、剣と同じように消えている。
「お待ちください」
聖騎士は、ブーツに装着してあるすね当てを探った。
どうやら、脚の装備は剥がされていなかったようだ。
そして、すね当ての隠し部分からナイフが出て来る。
暗器かよ!
まぁ今はありがたいが。
「それは……例のナイフか」
「ええ。薄いので、こういう場所に収納するのに向いていますね」
アドミニス殿が全員に作ったドラゴンの鱗製のナイフだ。
当然、切れ味に間違いはないので、茨の冠はあっけなく切断された。
それどころか、なんか燃え上がって灰になってしまったんだが?
「……」
「……呪いを解く作用があったのかもしれませんね?」
「もしそうなら、アルフとミュリアの解呪に使えるかもしれないな。慎重に試してみるか」
「はい」
とりあえずはメルリルとモンクである。
茨の冠を外した後は、拘束具のベルトを同じように切断した。
試しにドラゴンのナイフで術式紋の部分に傷を付けたら、術式部分がバラバラに砕けてしまう。
この様子なら、解呪もいけそうだな。
「メルリル、わかるか?」
「ん……んあ? ダスター……ふふっ」
なんだか幸せそうだが、まだちょっと状態が怪しいな。
「しっかりするんだ。目を覚ませ」
「あ、ダスター、また私より先に起きて。……ちょっと自分にがっかり……ん? あれ?」
「意識がはっきりしたか? 今ちょっと状況に問題があるから騒がないようにな」
メルリルはコクリとうなずいた。
若干頬が赤い。
一方で、聖騎士がモンクを起こしたようだ。
「最悪……」
などと言いながら、モンクが寄って来た。
「はぁ、私がついていながらミュリアを苦しい目に遭わせるなんて。……これを仕掛けた奴、ギッタギタにしてやるからね」
モンクは、怒りが自分にではなく敵に向かったようだ。
健全でなによりである。
「さて、問題のアルフとミュリアだが……」
二人の様子を見たメルリルが息を呑む。
「まさか……封印状態になってる」
「さすが、凶悪な魔物を封印し続けている一族だな」
つい軽口を叩いてしまった。
聖騎士の持つナイフに視線を向ける。
「ドラゴンのナイフで解呪出来ると思うか?」
「ドラゴンの力は誰にとっても未知数だから……」
つまりはわからないということだ。
「あ、待って。ダスター、勇者さまのほう、封印が変なことになっている。……あ、内側から食べられてる?」
「……食べられてる? ああ、そうか」
忘れていた訳じゃないが、勇者には若葉がくっついている。
てっきりフォルテのように逃れたかと思っていたが、脱皮だかなんだかで、固まっていたからそのまま勇者にくっついていたのか。
……それって大丈夫か? 暴走とかやらかさないよな?
「おい、若葉?」
うかつに触れることも出来ない状態の勇者に、くっついているはずの若葉に呼びかける。
メルリルが封印と表現した、呪いのような魔力の塊が、揺らいだ。
「茨の冠か」
「茨の冠? 腕に嵌っているようですが」
「見た目、茨でもない、だろ? 茨の冠ってのは、確か昔話にちなんだ呼び名でな。装着した者の意識を混濁させて、命令者の言葉に従うようにする魔道具だ」
「そんなものがあるんですか? こんなかわいらしい飾りなのに」
聖騎士の示すブレスレットは、彩り美しい二枚貝の貝殻を、適度な間隔で飾ったものだ。
聖騎士の言う通り、かわいらしく、何の害もなさそうに見える。
「飾り部分は関係ない。その芯になっている紐にあたる部分だ。細かく編まれているだろう?」
「そう言えば、見事な細工ものですね」
「この一本一本が、魔鉱石を粉にしたものを練り込んだ紐で、五種類ぐらいのその紐を複雑に編み込んであるんだ。どうもその編み方に秘密があるらしくってな。装着した者の意識を曖昧にして、近くで指示を出されると従ってしまう状態になっちまうんだ。……知らないかな? 昔、とある街で、子どもばかりが行方不明になった事件があったんだが」
「ああ、知っています。祝祭日の集団失踪事件ですね。……そうか、そのときに使われたのがこれと同じものなんですね」
四、五年前だったか、俺達の母国であるミホム王国で、かなり世間を騒がした事件だったはずだ。
あのとき、あらゆる冒険者に、所属不明の子どもを見掛けたら報告すること、というお達しが国からあった。
たまたま事件があった街近くまでの護衛の仕事を終えた俺は、その街に立ち寄って、被害に遭った家族から話を聞く機会があったのだ。
結局、事件を解決したのは、王都から派遣された親衛隊の一部隊だったが、事件に使われた小道具として、被害者が身につけていたのが、この茨の冠だった。
そのときの親衛隊の隊長とか言うのが、だいぶロマンチックな男で、「昔話の茨の冠みたいですね」などと言ったせいでこの名前が定着することとなる。
そう言えば、少し、勇者に似ていたな。
「そういうことだ。しかし、専門家によって分析はされたが、同じものは作れなかった。それが使われているってことは……」
「そのときの犯人と根は同じということですか?」
「ああ。だいぶ根は深そうだな」
聖騎士は緊張した面持ちで、俺の話を聞き、周囲への警戒を一段階引き上げる。
なまなかな相手ではないと理解したのだろう。
「とりあえず、二人から茨の冠を取り除かなきゃならないんだが、手首から普通に抜こうとすると装着者が激しく抵抗する仕掛けなんで、切断しなきゃならん……ナイフも、取り上げられてるか」
俺のベルトに挿してあったナイフが、剣と同じように消えている。
「お待ちください」
聖騎士は、ブーツに装着してあるすね当てを探った。
どうやら、脚の装備は剥がされていなかったようだ。
そして、すね当ての隠し部分からナイフが出て来る。
暗器かよ!
まぁ今はありがたいが。
「それは……例のナイフか」
「ええ。薄いので、こういう場所に収納するのに向いていますね」
アドミニス殿が全員に作ったドラゴンの鱗製のナイフだ。
当然、切れ味に間違いはないので、茨の冠はあっけなく切断された。
それどころか、なんか燃え上がって灰になってしまったんだが?
「……」
「……呪いを解く作用があったのかもしれませんね?」
「もしそうなら、アルフとミュリアの解呪に使えるかもしれないな。慎重に試してみるか」
「はい」
とりあえずはメルリルとモンクである。
茨の冠を外した後は、拘束具のベルトを同じように切断した。
試しにドラゴンのナイフで術式紋の部分に傷を付けたら、術式部分がバラバラに砕けてしまう。
この様子なら、解呪もいけそうだな。
「メルリル、わかるか?」
「ん……んあ? ダスター……ふふっ」
なんだか幸せそうだが、まだちょっと状態が怪しいな。
「しっかりするんだ。目を覚ませ」
「あ、ダスター、また私より先に起きて。……ちょっと自分にがっかり……ん? あれ?」
「意識がはっきりしたか? 今ちょっと状況に問題があるから騒がないようにな」
メルリルはコクリとうなずいた。
若干頬が赤い。
一方で、聖騎士がモンクを起こしたようだ。
「最悪……」
などと言いながら、モンクが寄って来た。
「はぁ、私がついていながらミュリアを苦しい目に遭わせるなんて。……これを仕掛けた奴、ギッタギタにしてやるからね」
モンクは、怒りが自分にではなく敵に向かったようだ。
健全でなによりである。
「さて、問題のアルフとミュリアだが……」
二人の様子を見たメルリルが息を呑む。
「まさか……封印状態になってる」
「さすが、凶悪な魔物を封印し続けている一族だな」
つい軽口を叩いてしまった。
聖騎士の持つナイフに視線を向ける。
「ドラゴンのナイフで解呪出来ると思うか?」
「ドラゴンの力は誰にとっても未知数だから……」
つまりはわからないということだ。
「あ、待って。ダスター、勇者さまのほう、封印が変なことになっている。……あ、内側から食べられてる?」
「……食べられてる? ああ、そうか」
忘れていた訳じゃないが、勇者には若葉がくっついている。
てっきりフォルテのように逃れたかと思っていたが、脱皮だかなんだかで、固まっていたからそのまま勇者にくっついていたのか。
……それって大丈夫か? 暴走とかやらかさないよな?
「おい、若葉?」
うかつに触れることも出来ない状態の勇者に、くっついているはずの若葉に呼びかける。
メルリルが封印と表現した、呪いのような魔力の塊が、揺らいだ。
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