勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

784 筋肉と魔封具

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 一番の問題は武器だ。
 当然だが、剣は取り上げられている。
 これだけ手の込んだ方法を取る相手だ、攫った現場に証拠となるような品物を残しておくとは思えないので、別に処分してしまったか、人間と一緒に運んだかどちらかだろう。
 いや、武器や装備品は個々人の特徴が強く出るものだ。
 これだけ用心深いなら、現地で処分しようとは思わないはずだ。

 とはいえ、同じように運ばれているというのは、半分以上願望だな。
 星降りはもはや俺にとってなくてはならない剣だ。
 失う訳にはいかない。
 もし、一緒に運ばれてなくても、なんとしても探し出すつもりだ。

 さて、とりあえず今の状況だが、捕まった人間は、荷物のようにしまい込まれている。
 人間の入った箱が並べられた倉庫のような密閉空間に、こうが濃く立ち込めているから、これで目覚めないようにしてあるのだろう。
 俺はフォルテが起こしてくれたおかげで助かったという訳だ。

 そして各々の状況を確認してみた結果、勇者と聖女が大変なことになっていることが判明した。
 それぞれの魔力が大きいせいで、魔封具がまるで呪具のようになっている。
 ドラゴンでも起きないんじゃないか? ありゃあ。
 正直、フォルテすら怖れて近寄れない状況だ。
 使った奴の想定を越えてるぞ、おそらく。
 どうやって解除するんだよ。

 とりあえず、勇者と聖女の問題は後回しだ。
 メルリルは揺さぶっても起きない。
 というか、女性陣は、俺達とは違うアクセサリータイプの魔道具を重ね掛けされているようだ。
 俺達は茶でやられたが、女性陣はアクセサリーに偽装した魔道具でやられたか。

 ルフは子どもだけに、こうの影響が心配だったが、今のところ異変はない。
 残るは聖騎士か。
 聖騎士は魔力がないので、魔封具はほとんど機能していないはずだ。
 最初の薬とこうの影響だけか?

 フォルテで聖騎士の箱へと近づく。
 お、聖騎士の鎧が全て剥がされて、内着だけになっている。
 実はあの内着がドラゴンの鱗を元に作られたものとはわからなかったようだ。
 まぁ普通はわからないよな。

「よし、フォルテ、魔力をぶっつけてやれ」

 魔封具は装着者の魔力を吸収するが、外からの魔力を防ぐようなものではない。
 魔力のない聖騎士にとって、そのままぶつけられる魔力は、単なる衝撃に感じる……はずだ。
 内着の保護のない頭には衝撃が入るはず。
 ……まぁ、死にはしないだろう。

「ピャウッ!」

 なぜかフォルテはかなり張り切って魔力を練り、聖騎士めがけて放った。
 ちょっとやりすぎなんじゃ? と、心配したが、なんと、聖騎士の奴、眠ったままそれを避けたのである。
 そして、パチッと目を覚ました。

 嘘だろ?
 こいつ、今まで勇者や聖女の影に隠れてあんまり目立たずに来たが、かなりとんでもない奴だよな。
 今までも、凄い奴だとは思っていたが、今のはちょっと人間離れしてたぞ?

「う……? 何が。……勇者!」
「クルス、動けるか?」

 聖騎士はぎょっとしたように声の聞こえる方向を向いた。
 聖騎士は箱のなかなので、フォルテの姿ははっきり見えないはずだ。
 隙間はあるが、細い網目のようなものに過ぎない。

「フォルテ……か? ダスター殿?」

 だが、さすが、すぐに気づいたようだ。
 そして、自分が拘束されているのに気づき、その拘束を解こうとする。
 ギシッ、ギシシッと、きしみを上げて、ベルト状の拘束具が引き伸ばされた。
 魔封具としての力は発揮しないものの、普通の拘束具程度の拘束力はある。
 そのベルトが、ギリリときしみを上げて、ピシッと音を立てた。
 拘束具には必ず接続部分がある。
 その接続部分が外れようとしているのだ。

 時間的にどのくらい掛かったか、ともあれ、短くない時間を費やして、とうとう聖騎士は拘束具を破壊した。
 聖騎士の筋肉が膨れ上がり、金具が吹っ飛ぶのを目撃してしまった。
 凄い。
 なんというか、男として憧れる力強さだ。

 次は箱。
 箱は、それぞれ紐のようなものでぐるぐる巻にされているだけだ。

「ぐうううううっ!」

 唸るような聖騎士の声と共に、バコン! と、箱の蓋が弾け飛ぶ。
 今の音、大丈夫かな?

「ふう。フォルテ、ありがとう」
「ピャッ!」

 聖騎士の礼に、どういたしましてと胸を張るフォルテ。
 まぁ頑張ったから、多少誇ってもいいだろう。

「ダスター殿はどこですか?」
「ここだ」

 箱を殴りつける。

「勇者達は?」
「あっちはちょっと厄介なことになっている。俺を先に出してくれ」
「わかりました」

 俺が解放されるのは簡単だった。
 箱を開けた後は、魔封具の核となっている術式紋を傷つけて機能を失わせ、ベルトの接続部を引きちぎるだけでいい。
 まぁ普通は引きちぎれないんだがな。

「助かった。油断したな、お互い」
「面目次第もありません」

 聖騎士は目に見えて落ち込んだ。
 いや、お前だけが引っかかった訳じゃないからな。

「相手が一枚上だったってことさ。ああいう日常的なことにいちいち神経を尖らしていたらまともに生活も出来ないからな。悪意のかけらも感じさせないとは、あの女かなりの曲者だな」
「勇者か聖女さまを狙ったものでしょうか?」
「いや、それならこんなふうに放置しておくとは思えない。もっと厳重に閉じ込めるだろ。それに……」

 俺はいくつかの箱を示す。

「一般人も何人か捕まっている。一番ありえるのは人さらいだな」
「なるほど」
「大公国では、以前も人さらいとやり合ったよな。もしかすると、大規模な人身売買組織があるのかもしれない」
「なるほど、あの連中ですか。女子どもにまで非道を行っていた……今度こそ、息の根を止めましょう」
「これだけ俺達に関わって来るんだ。覚悟は出来てるんだろ」

 聖騎士が物騒な目をしていたが、俺だって怒っている。
 この組織、ただじゃおかないからな。

「まずはメルリルとテスタを起こそう。ルフは拘束だけ解いて、起こさなくていいだろう。アルフとミュリアは……どうしたらいいかな? 下手に触ると本人達に反動がありそうだし」

 まさか魔封具がここまで妙なことになるとはな。
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