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第八章 真なる聖剣
739 根が腐った樹は枯れる
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「今日はお前達に慶事を伝えに来た」
「け……慶事でございますか?」
教会の者達は、また勇者が神罰魔法をぶっ放すんじゃないかと戦々恐々としていたのだろう。
勇者の言葉に、少しホッとした雰囲気になる。
「そうだ。実は迷宮探索で、ずっと消息不明であった不帰の勇者の聖なる剣を取り戻したのだ」
「おおっ!」
「それはめでたい!」
「おめでとうございます!」
決して、勇者におもねっているだけではない、本心からの喜びが、彼等の表情から感じられた。
いろいろあったが、神を完全に裏切っている訳ではないのだろう。
とりあえず、勇者に対する畏敬の念は、持ち合わせているようだ。
「そ、それでは……その聖なる剣を我が教会にお預けになると?」
教手の一人が、とても正直な気持ちを口にした。
そうだな。
もし、教会に勇者の聖剣を奉納してもらえれば、それは名誉なことだろう。
でもな、ちょっとでも考える頭があれば、先日の勇者の剣幕で、それが有り得ると思えるか?
かなりおめでたい頭をしている教手である。
教主が軟禁状態にある今、ここにいる教手の誰かがこの教会の代表となる訳だが、まさかこいつじゃないだろうな?
「まさか。俺は帰らぬ勇者の志を継ぎ、剣も引き継ごうと思う」
おお、勇者、あれでよく神罰魔法を発動しなかったな。
見掛けもそうだが、ここのところぐっと大人らしさが増して来たようだ。
「そ、そうですか……」
教手の男は残念そうだ。
さて、集まっている全体を見ると、教手に一人、奉仕者に複数人、その発言をした教手の男を蔑んだような目で見ている者達がいる。
なるほど。
内部にも、ああいう強欲さを快く思わない者はちゃんといる訳だ。
「それでは、その、報告を大聖堂に届けよというお話しでしょうか?」
強欲な教手……いや、教手と呼ぶのもなんだか嫌なので、今の上層教会の代表者らしき奴と呼ぼう。
その代表者らしき男は、またも、勇者の先を制して自分の予想を告げる。
「お前」
「は?」
「この教会の代表代理か?」
「あ、はい」
「なら今日限りその任を解く」
「えっ!」
勇者の言葉に、どうやら本当に代表者だったらしい男は、純粋な驚きの声を上げた。
何を言われたのか、まだよく理解していないようだ。
その顔が段々と赤く染まり、一部分黒ずんだ凶相に変貌する。
「そ、そのような越権! いかに勇者さまとて!」
「いいえ!」
抗議する代表だった男を、ぴしりと咎めたのは聖女だった。
「越権ではありません。勇者さまは神の御子。その言葉は神のお言葉。我らが盟約の使徒である以上、従う義務があります」
「う……あっ……」
バカだな。
つい先日あんなことがあったばかりなのに、勇者を舐めすぎだろ。
きっと、ちょっと力があって見た目がいいだけの若造、とか思ってバカにしてんだろうな。
俺も最初そうだったし。
勇者は政治には関われないが、大聖堂の掲げる教義上の最上位者にあたる。
本来、大聖堂や教会を統括するのは聖者であり、実質的な指導者は、導師なんだが、勇者は全ての権限を飛び越えることが出来るのだ。
現場が混乱するので、むやみに権限を行使しないようにしているだけだ。
もし緊急事態が起こった場合、そこに勇者がいたら、勇者を中心に教会が民に呼びかけて一丸となって苦難に対処する。という、そういった場面を想定しての、権利らしいんだけどな。
「し、しかし、理由は? 理由もなしでは、いかな勇者さまとて……」
「理由はそれだ」
「へ?」
「貴様は、俺の言葉を何も聞こうとせず、お前の都合のいいことばかり並べたてた。そのような不敬の者は、教会の代表者に相応しくない」
「う……ぐっ」
偉そうだった元代表者は、ぐうの音も出ないのか、すごすごと下がった。
ここでならば実力で! と、ならないのが、聖職者らしいな。
勇者はぐるりと見回すと、勇者の近くに集まっていた集団から視線を外し、教会の入り口近くで、今も尚、膝を突き、うやうやしく、奉仕者と共に礼を取る、ひとりの教手に視線を向ける。
「お前……」
勇者がその相手を呼ぼうとしたところ。
「お、お待ちください! その者は下賤の者で!……」
先ほど下がった元代表が、勇者の言葉を遮った。
バチィッ! と、青白い光が弾ける。
「人の言葉が聞こえない耳ならいらないな」
「ひぎゃあああっ!」
元代表の男が転げまわった。
手で両耳を押さえているところを見ると、勇者が神罰魔法で耳を灼いたのだろう。
えぐい……。
「まぁお気の毒に。大丈夫、すぐに痛みを取ってさしあげますわ」
聖女が駆け寄って、元代表者を癒す。
ほっとけばいいのにな。
だがまぁ、見た目も見苦しかったので、助かった気持ちもある。
「あ、ありがとうござ……あ? あれ? 聞こえない。何も……あ、あれ?」
元代表の男は、何やら混乱しているが、聖女はにっこりと微笑むと、そのままそいつを放置して、しずしずと勇者の後ろに回った。当然だが、その間ずっとモンクが傍に付き従っている。
勇者の周りに集まっていた者達は、色を失って一斉に後ずさった。
その逆に、勇者に指名された教手の女性は、頭を下げ、両手を胸の前に交差したままで、勇者の前に進み出た。
「お恥ずかしい限りです。我が身の不徳を罰してください」
「いらん。まずは俺の話を聞け。お前達の事情は、そっちでなんとかするがいい」
「承りました」
上層教会の者達は、一斉に膝を突き、頭を垂れた。
しわぶき一つ聞こえない。
ちょっとやりすぎ感はあるが、この教会腐り過ぎだな。
まともな人が、かなり苦労していたようだ。
そりゃあ勇者もキレる。
罪を問われた元教主だけが悪い訳じゃなさそうだが、そもそもはそいつが腐ったせいで、こうなったのかもしれない。
上が腐った組織なんて、憐れなもんだからな。
「け……慶事でございますか?」
教会の者達は、また勇者が神罰魔法をぶっ放すんじゃないかと戦々恐々としていたのだろう。
勇者の言葉に、少しホッとした雰囲気になる。
「そうだ。実は迷宮探索で、ずっと消息不明であった不帰の勇者の聖なる剣を取り戻したのだ」
「おおっ!」
「それはめでたい!」
「おめでとうございます!」
決して、勇者におもねっているだけではない、本心からの喜びが、彼等の表情から感じられた。
いろいろあったが、神を完全に裏切っている訳ではないのだろう。
とりあえず、勇者に対する畏敬の念は、持ち合わせているようだ。
「そ、それでは……その聖なる剣を我が教会にお預けになると?」
教手の一人が、とても正直な気持ちを口にした。
そうだな。
もし、教会に勇者の聖剣を奉納してもらえれば、それは名誉なことだろう。
でもな、ちょっとでも考える頭があれば、先日の勇者の剣幕で、それが有り得ると思えるか?
かなりおめでたい頭をしている教手である。
教主が軟禁状態にある今、ここにいる教手の誰かがこの教会の代表となる訳だが、まさかこいつじゃないだろうな?
「まさか。俺は帰らぬ勇者の志を継ぎ、剣も引き継ごうと思う」
おお、勇者、あれでよく神罰魔法を発動しなかったな。
見掛けもそうだが、ここのところぐっと大人らしさが増して来たようだ。
「そ、そうですか……」
教手の男は残念そうだ。
さて、集まっている全体を見ると、教手に一人、奉仕者に複数人、その発言をした教手の男を蔑んだような目で見ている者達がいる。
なるほど。
内部にも、ああいう強欲さを快く思わない者はちゃんといる訳だ。
「それでは、その、報告を大聖堂に届けよというお話しでしょうか?」
強欲な教手……いや、教手と呼ぶのもなんだか嫌なので、今の上層教会の代表者らしき奴と呼ぼう。
その代表者らしき男は、またも、勇者の先を制して自分の予想を告げる。
「お前」
「は?」
「この教会の代表代理か?」
「あ、はい」
「なら今日限りその任を解く」
「えっ!」
勇者の言葉に、どうやら本当に代表者だったらしい男は、純粋な驚きの声を上げた。
何を言われたのか、まだよく理解していないようだ。
その顔が段々と赤く染まり、一部分黒ずんだ凶相に変貌する。
「そ、そのような越権! いかに勇者さまとて!」
「いいえ!」
抗議する代表だった男を、ぴしりと咎めたのは聖女だった。
「越権ではありません。勇者さまは神の御子。その言葉は神のお言葉。我らが盟約の使徒である以上、従う義務があります」
「う……あっ……」
バカだな。
つい先日あんなことがあったばかりなのに、勇者を舐めすぎだろ。
きっと、ちょっと力があって見た目がいいだけの若造、とか思ってバカにしてんだろうな。
俺も最初そうだったし。
勇者は政治には関われないが、大聖堂の掲げる教義上の最上位者にあたる。
本来、大聖堂や教会を統括するのは聖者であり、実質的な指導者は、導師なんだが、勇者は全ての権限を飛び越えることが出来るのだ。
現場が混乱するので、むやみに権限を行使しないようにしているだけだ。
もし緊急事態が起こった場合、そこに勇者がいたら、勇者を中心に教会が民に呼びかけて一丸となって苦難に対処する。という、そういった場面を想定しての、権利らしいんだけどな。
「し、しかし、理由は? 理由もなしでは、いかな勇者さまとて……」
「理由はそれだ」
「へ?」
「貴様は、俺の言葉を何も聞こうとせず、お前の都合のいいことばかり並べたてた。そのような不敬の者は、教会の代表者に相応しくない」
「う……ぐっ」
偉そうだった元代表者は、ぐうの音も出ないのか、すごすごと下がった。
ここでならば実力で! と、ならないのが、聖職者らしいな。
勇者はぐるりと見回すと、勇者の近くに集まっていた集団から視線を外し、教会の入り口近くで、今も尚、膝を突き、うやうやしく、奉仕者と共に礼を取る、ひとりの教手に視線を向ける。
「お前……」
勇者がその相手を呼ぼうとしたところ。
「お、お待ちください! その者は下賤の者で!……」
先ほど下がった元代表が、勇者の言葉を遮った。
バチィッ! と、青白い光が弾ける。
「人の言葉が聞こえない耳ならいらないな」
「ひぎゃあああっ!」
元代表の男が転げまわった。
手で両耳を押さえているところを見ると、勇者が神罰魔法で耳を灼いたのだろう。
えぐい……。
「まぁお気の毒に。大丈夫、すぐに痛みを取ってさしあげますわ」
聖女が駆け寄って、元代表者を癒す。
ほっとけばいいのにな。
だがまぁ、見た目も見苦しかったので、助かった気持ちもある。
「あ、ありがとうござ……あ? あれ? 聞こえない。何も……あ、あれ?」
元代表の男は、何やら混乱しているが、聖女はにっこりと微笑むと、そのままそいつを放置して、しずしずと勇者の後ろに回った。当然だが、その間ずっとモンクが傍に付き従っている。
勇者の周りに集まっていた者達は、色を失って一斉に後ずさった。
その逆に、勇者に指名された教手の女性は、頭を下げ、両手を胸の前に交差したままで、勇者の前に進み出た。
「お恥ずかしい限りです。我が身の不徳を罰してください」
「いらん。まずは俺の話を聞け。お前達の事情は、そっちでなんとかするがいい」
「承りました」
上層教会の者達は、一斉に膝を突き、頭を垂れた。
しわぶき一つ聞こえない。
ちょっとやりすぎ感はあるが、この教会腐り過ぎだな。
まともな人が、かなり苦労していたようだ。
そりゃあ勇者もキレる。
罪を問われた元教主だけが悪い訳じゃなさそうだが、そもそもはそいつが腐ったせいで、こうなったのかもしれない。
上が腐った組織なんて、憐れなもんだからな。
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