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第八章 真なる聖剣
738 動き出す舞台裏
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「師匠。せっかくの心躍る話なんだが、一つ訂正していいかな?」
勇者が手を上げる。
カーンとメイサーとホルスは、なんで手を上げているのだろうという顔をしていたが、うちの連中に外聞を気にするような奴はいない。
誰もその疑問を解消する手助けをすることはなかった。
とりあえず俺は、勇者に発言を促した。
「何か間違いがあったか?」
「ほら、あの自分が作った魔物に食われたおっさん、ええっと富国公だったかな? あの家は呼ばなくていいんじゃないか?」
「自分が作った魔物?」「食われた?」
勇者の発言に、カーンとメイサーが疑問を全開にした顔をこっちに向けた。
なんで俺を見る。言ったのは勇者なんだから、勇者に聞けよ!
「すまん。その件については俺の判断で話せない。どうせしばらくしたら大々的に通達が回って来ると思う」
さすがに大公国の政治に深く関わる話は出来ない。
大公陛下に迷惑がかかるかもしれないしな。
「その辺については大公陛下にお伺いしよう。俺達じゃ判断出来ないしな」
「わかった」
俺の答えに勇者は納得したようだったが、納得しない者もいる。
くっ、視線が痛い。
メイサーはすぐに興味を失ったようだが、カーンのほうの視線は強さを増すばかりだ。
視線が刺さるってのはこういう状態を言うんだな。
「ダスターよぉ。昔なじみのよしみじゃないか。貴族ってのはいち早く情報を握ったほうがマウントを取れるだぜ? 基本的にはやっていることは探索者ギルド同士の競争と同じさ。ほかの連中がまだ知らない時期に情報を持っておくのが大事なんだ」
「俺に聞くな、勇者に聞け」
なんと言われても、しゃべる気はない。
大公陛下がどう処理をするのか知らないが、俺達が大々的に関わったことを知られてしまうと、勇者が国の問題に手を出したことになりかねない。
そしてそのことを隠すからこそ、俺達はその事件で失った勇者の剣の代わりになる剣を探していたのだ。
失った状況を明らかに出来るなら、こんな苦労をする必要もなかった。
「……勇者殿?」
「大人しく大公陛下の発表を待つんだな。それが国に仕える者の成すべきことだろ」
俺以上に取り付く島もない。
「うぬぬ……。わかった。少なくともほかの七家に劣っていないなら、特に問題はない。……っと、ホルス。さっきの命令は一度撤回する」
「はっ」
よかったな、勇者。
勇者祭とか開催されずに済んだぞ。
一安心だな。
「しかし、大公陛下への繋ぎはどうする? 自慢じゃないが、うちのくされ親父が、陛下の暗殺を企んだせいで、我が家と大公陛下との間には全く信頼関係はないぞ。それどころか今も警戒されているはずだ」
「ああ、それについてはこれを使え」
テーブルを飛び越えて、ホスト側からゲスト側に来ていたカーンに、俺はベルトの隠しに入れておいた一枚のコインを渡した。
渡されたコインを目にして、カーンが息を呑む。
「こ、これは! 聖なるコインじゃねえか!」
「えっ! 本当?」
バサァッと、ドレスをひるがえしたメイサーがテーブルを飛び越して来た。
お、お前、その格好で何しやがる!
「メイサー! はしたないだろうが! これからカーンの嫁になる奴が何してんだ!」
思わず怒鳴ってしまった。
すると、メイサーはべーと舌を出し、何食わぬ顔でカーンの持つコインを見る。
こいつ!
すると、ポンと肩を叩かれた。
ホルスである。
「ご安心ください。これでもこの家は、永く続く公家。礼儀作法を教えるに優れた者がおります。必ず、奥方さまをこの国随一の淑女に仕立て上げてごらんにいれます」
笑顔がこええよ。
てか、仕立て上げるとか、もっと言い方があるだろ?
しかし、まぁ、ほんとに、この夫婦にはホルスがいないとダメだな。
面倒な仕事(領主)を押し付けたりせずに、大切にしろよ、マジで。
「ひゃー、この国の民の憧れの英雄さまと知り合いとは、マジでダスター、お前、すげえ奴になったな」
「これもあたし達の薫陶のおかげだね!」
キラキラした目でコインを眺めながらカーンとメイサーが口々に言う。
メイサー、薫陶なんて難しい言葉よく知ってたな。
そもそも国を代表する八家のうち一つの当主と、その奥方になった奴等が、いったい何言ってるんだ?
「それでだな。誰か口が堅い、信頼出来る鍛冶師はいないか? 腕よりも口の堅さが大事だ。あの、金床通りのゲンコツ爺はどうだ?」
「あー、あの爺さんな。酒の飲みすぎで数年前にころっと逝っちまった」
カーンがさらりと答える。
この街では、人の生き死には、それほど重大なことではないのだ。
「マジか」
「だが、当てならあるぜ。ほら、うちのギルドにいたろ、大地人の、盾持ちが」
「ああ」
「あいつがな、爺さんの跡を継いで、鍛冶師になったんだよ」
「はぁ? あいつ、鍛冶仕事なんかやったことなかったろ?」
「そこはさすが大地人だよなぁ」
「いやいや……」
まぁいいか。
今回必要なのは口の堅さだ。
鍛冶の腕は最低限あればいい。
◇◇◇
準備は、ひっそりと進められた。
大公陛下への手紙を持たせた信頼出来る使者に、例のコインを預けて、その返事を待つ間、大きな動きは出来ないが、出来ることはやっておく必要がある。
俺達が最初に行ったのは、勇者の神罰を受けた上層教会への再訪だった。
まぁ俺は初めてなんだが。
勇者によって破壊された大事なシンボルは、すでに修復され、尖塔には真新しい水晶環がキラキラと光っていた。
今回は事前に訪問を連絡していたので、勇者達が馬車に乗って訪れると、教手や奉仕者がずらりと並んで出迎える。
全員心なしか顔色が悪い。
なかには寒くもないのにガタガタ震えている者や、びっしょりと、ローブまでが汗で湿っている者もいる。
どんだけ、前回脅したんだよ?
勇者が手を上げる。
カーンとメイサーとホルスは、なんで手を上げているのだろうという顔をしていたが、うちの連中に外聞を気にするような奴はいない。
誰もその疑問を解消する手助けをすることはなかった。
とりあえず俺は、勇者に発言を促した。
「何か間違いがあったか?」
「ほら、あの自分が作った魔物に食われたおっさん、ええっと富国公だったかな? あの家は呼ばなくていいんじゃないか?」
「自分が作った魔物?」「食われた?」
勇者の発言に、カーンとメイサーが疑問を全開にした顔をこっちに向けた。
なんで俺を見る。言ったのは勇者なんだから、勇者に聞けよ!
「すまん。その件については俺の判断で話せない。どうせしばらくしたら大々的に通達が回って来ると思う」
さすがに大公国の政治に深く関わる話は出来ない。
大公陛下に迷惑がかかるかもしれないしな。
「その辺については大公陛下にお伺いしよう。俺達じゃ判断出来ないしな」
「わかった」
俺の答えに勇者は納得したようだったが、納得しない者もいる。
くっ、視線が痛い。
メイサーはすぐに興味を失ったようだが、カーンのほうの視線は強さを増すばかりだ。
視線が刺さるってのはこういう状態を言うんだな。
「ダスターよぉ。昔なじみのよしみじゃないか。貴族ってのはいち早く情報を握ったほうがマウントを取れるだぜ? 基本的にはやっていることは探索者ギルド同士の競争と同じさ。ほかの連中がまだ知らない時期に情報を持っておくのが大事なんだ」
「俺に聞くな、勇者に聞け」
なんと言われても、しゃべる気はない。
大公陛下がどう処理をするのか知らないが、俺達が大々的に関わったことを知られてしまうと、勇者が国の問題に手を出したことになりかねない。
そしてそのことを隠すからこそ、俺達はその事件で失った勇者の剣の代わりになる剣を探していたのだ。
失った状況を明らかに出来るなら、こんな苦労をする必要もなかった。
「……勇者殿?」
「大人しく大公陛下の発表を待つんだな。それが国に仕える者の成すべきことだろ」
俺以上に取り付く島もない。
「うぬぬ……。わかった。少なくともほかの七家に劣っていないなら、特に問題はない。……っと、ホルス。さっきの命令は一度撤回する」
「はっ」
よかったな、勇者。
勇者祭とか開催されずに済んだぞ。
一安心だな。
「しかし、大公陛下への繋ぎはどうする? 自慢じゃないが、うちのくされ親父が、陛下の暗殺を企んだせいで、我が家と大公陛下との間には全く信頼関係はないぞ。それどころか今も警戒されているはずだ」
「ああ、それについてはこれを使え」
テーブルを飛び越えて、ホスト側からゲスト側に来ていたカーンに、俺はベルトの隠しに入れておいた一枚のコインを渡した。
渡されたコインを目にして、カーンが息を呑む。
「こ、これは! 聖なるコインじゃねえか!」
「えっ! 本当?」
バサァッと、ドレスをひるがえしたメイサーがテーブルを飛び越して来た。
お、お前、その格好で何しやがる!
「メイサー! はしたないだろうが! これからカーンの嫁になる奴が何してんだ!」
思わず怒鳴ってしまった。
すると、メイサーはべーと舌を出し、何食わぬ顔でカーンの持つコインを見る。
こいつ!
すると、ポンと肩を叩かれた。
ホルスである。
「ご安心ください。これでもこの家は、永く続く公家。礼儀作法を教えるに優れた者がおります。必ず、奥方さまをこの国随一の淑女に仕立て上げてごらんにいれます」
笑顔がこええよ。
てか、仕立て上げるとか、もっと言い方があるだろ?
しかし、まぁ、ほんとに、この夫婦にはホルスがいないとダメだな。
面倒な仕事(領主)を押し付けたりせずに、大切にしろよ、マジで。
「ひゃー、この国の民の憧れの英雄さまと知り合いとは、マジでダスター、お前、すげえ奴になったな」
「これもあたし達の薫陶のおかげだね!」
キラキラした目でコインを眺めながらカーンとメイサーが口々に言う。
メイサー、薫陶なんて難しい言葉よく知ってたな。
そもそも国を代表する八家のうち一つの当主と、その奥方になった奴等が、いったい何言ってるんだ?
「それでだな。誰か口が堅い、信頼出来る鍛冶師はいないか? 腕よりも口の堅さが大事だ。あの、金床通りのゲンコツ爺はどうだ?」
「あー、あの爺さんな。酒の飲みすぎで数年前にころっと逝っちまった」
カーンがさらりと答える。
この街では、人の生き死には、それほど重大なことではないのだ。
「マジか」
「だが、当てならあるぜ。ほら、うちのギルドにいたろ、大地人の、盾持ちが」
「ああ」
「あいつがな、爺さんの跡を継いで、鍛冶師になったんだよ」
「はぁ? あいつ、鍛冶仕事なんかやったことなかったろ?」
「そこはさすが大地人だよなぁ」
「いやいや……」
まぁいいか。
今回必要なのは口の堅さだ。
鍛冶の腕は最低限あればいい。
◇◇◇
準備は、ひっそりと進められた。
大公陛下への手紙を持たせた信頼出来る使者に、例のコインを預けて、その返事を待つ間、大きな動きは出来ないが、出来ることはやっておく必要がある。
俺達が最初に行ったのは、勇者の神罰を受けた上層教会への再訪だった。
まぁ俺は初めてなんだが。
勇者によって破壊された大事なシンボルは、すでに修復され、尖塔には真新しい水晶環がキラキラと光っていた。
今回は事前に訪問を連絡していたので、勇者達が馬車に乗って訪れると、教手や奉仕者がずらりと並んで出迎える。
全員心なしか顔色が悪い。
なかには寒くもないのにガタガタ震えている者や、びっしょりと、ローブまでが汗で湿っている者もいる。
どんだけ、前回脅したんだよ?
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