勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

684 ヤサの人々

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「まずはこっちがうちのリーダーの勇者で……」
「アルフレッドだ」

 うわっ、すげえ素っ気ない挨拶をしやがった。
 まぁ仕方ないか。
 逆にここで勇者が愛想よくしたら驚く。

「ケッ、若さと顔と生まれに恵まれてるからって偉そうにすんなよ!」
「男は強さだぞ!」

 一方で、メイサーの仲間達からもヤジが上がる。
 お前等勇気あるな。
 勇者だって言ったろ?

「で、こっちは聖女の……」
「ミュリア・ニィデス・ロストです。お見知りおきを」

 聖女は丁寧に礼をする。
 相手がもう何か月も身体を洗っていないような小汚い連中でも、きちんと礼儀を守る姿勢は立派だな。

「おお、聖女さまだ」
「ありがてえ」
「可憐だなぁ」
「そうか、ああいうのが本当の女の子なんだよなぁ……」
「しっ、あねさんに聞こえるだろ!」

 筒抜けなんだよなぁ。
 メイサーがじろりと睨むと、男共は首を縮めてすくみ上った。

「俺のときと全然態度が違う!」

 勇者が抗議をした。
 お前、なんでわざわざわかり切ったことを聞くんだ? まさか本当にわかってないってことはないよな。

「たりめーだろ! バーカ」
「勇者なんてありがたみはねえんだよ!」
「顔がちょっといいからってつけ上がるな!」
「おのれ……」

 あーあ、男共のうっぷん晴らしの的にされてやがる。

「コホン! あー、それで、こっちが勇者のお付きの聖騎士で……」
「ロジクルス・フェイバーズだ」

 聖騎士は一礼した後は、元の直立不動の姿勢に戻った。
 さすがの無法者同様の連中も、聖騎士の実力はなんとなくわかるのか、からかったりはしない。
 何人かは、鋭い視線を向けて、その一挙手一投足を観察しているようだ。

「……師匠、俺はあいつらに軽く見られているのか?」

 まだ仲間達の紹介の途中だというのに、自分と聖騎士に対する態度の違いにも憤慨したらしい勇者がうるさい。

「ああいう連中ぐらい自分であしらえ」

 俺は冷たく突き放すと、次のモンクの紹介へと移った。

「こっちは、大聖堂からの護衛で、使徒拳士モンクの……」
「……はぁ、テスタだ」

 ものすごく嫌そうにモンクが自己紹介した。
 
「大聖堂の拳士かぁ、噂には聞いたことがあるが、見るのは初めてだなぁ」
「武器を持ち込めない場所での要人の護衛についているらしいな」

 ざわざわと、今度は一部の知識層らしき連中が会話をしている。
 この集団にも案外とまともな連中がいるようだ。

「あー、あと、こっちがうちのパーティメンバーで、見ての通り森人だ。んで、俺はお前等と同じ冒険者でダスター。今は故合って勇者のお付きをしている」
「おい! そのべっぴんさんの名前はなんだ?」
「出し惜しみしてんじゃねえぞ!」
「は? その臭い口を閉じやがれ! 文句があるなら俺と勝負しろ!」
「ダスター……」

 俺がバカ共を牽制していると、メルリルが俺の腕を引っ張って、呆れたように名前を呼んだ。
 どうした? こいつらに近づくと、危ないぞ。
 何しろ長い間穴倉で男ばっかりで暮らしてるんだからな。

 すると、メルリルはぺこりと頭を下げ「メルリルです」と自己紹介した。
 名前なんて教えてやる必要ないのに。
 あんな連中に呼ばれたら、メルリルの名前が汚れる。

 ん? メルリルが凄い困った顔で俺を見ているぞ。
 どいつだ? どいつがメルリルを困らせた?

「あんた、本当に変わったねぇ」

 メイサーが笑う。

「うるさい。で、そっちはどうなんだ?」
「全員紹介してたら終わらないし、なかには名前がない奴もいるからね。主要な連中だけ紹介するから、後は各々知り合ってちょうだい」
「適当だな、おい」
「そりゃあ、勇者さま達に比べれば、うちの連中なんて塵芥も同じよ」
「あねさん、そりゃあねえぜ!」
「そういうクールなところがたまらないんだけどな!」

 そんな風に、わいわい賑やかな連中を、紹介してもらった。
 モクというメイサーの信頼の篤い補佐役の男と、バッジという、油断ならない目つきの男だ。
 バッジという男が、壁が崩れた場所にいち早く異変を察知して、メイサーに知らせたらしい。
 
 そのほかにも、驚いたことに、この砦には、女性もいた。
 年老いて迷宮に捨てられた老女や、探索者と共に迷宮に潜ったはいいが、使い捨てられた奴隷の少女などだ。

「うちの女共になんかしたらワシが承知せんぞ!」

 そう言ったのは、ドッロという、裏方のまとめをしているというオヤジだ。
 というか、もう初老だな。
 迷宮に潜るのは限界だろうに、よくもまぁこんな場所で生活しているもんだ。

「やると思うか? こっちは仮にも勇者さまの一行だぞ」
「師匠、仮にもって、どういう意味だ?」

 勇者め、耳ざといな。

「あ、あの、お、お水を……どうぞ」

 やせ細った少女が、そんな勇者に歩み寄ってカップに入った水を差しだす。

「いらん。水ならある。お前が飲め」
「え、え、でも。汚くない水だよ?」
「だからお前が飲めといってるだろうが」
「アルフ、もうちょっとやさしく」
「そうですよ、勇者さま」

 俺と聖女から責められて、勇者はますます不服そうな顔になる。
 おどおどして泣きそうにしている少女に、仕方ないので説明してやる。

「俺達は水の魔道具を持っているんだ。この迷宮じゃ水は貴重だろ? 俺達のために消費する必要はない。勇者はそう言いたいんだよ」
「あ、そうか。私が毒見してあげるね」

 どうやら少女には、俺の言った意味がよくわからなかったらしい。
 俺達がこの砦の連中を疑っているので水を飲まないのだと思ったようだ。
 カップからひと口だけ水を飲んでみせると、にっこりと笑って勇者に差し出した。
 あと、この少女、さっきから右手は添えているだけで、左手しか動いてないな。
 
 カップを再び差し出された勇者はと言うと、俺に助けを求めるような視線を向けて来た。
 俺は無言で水を飲む仕草をしてみせる。
 もうそこまで来たら飲まないと逆に失礼だろう。
 勇者は渋い顔をしながらも、カップを受け取って水を飲んでいた。

「あの娘。奴隷だったんだよ。迷宮探索中のなぐさみに連れて来られて、帰りはお荷物だからって捨てていかれたのさ」
「奴隷は貴重な財産だろ?」

 俺の言葉に、メイサーはフンと鼻を鳴らしてみせた。

「どうせ違法奴隷さ。無理やりどっかから攫って来たんだろうよ。この街はほんと、昔から腐ってるよ」
「カーンは変えるつもりのようだぞ」
「あいつ一人じゃ無理さ。上がいくら綺麗に見えても、迷宮の闇のなかは無法地帯なんだからね。その点あたしなら、闇は慣れているからねぇ」

 俺はメイサーを見返した。

「まさか、カーンの統治を助けるために迷宮にこもったのか?」
「まさか。あたしがそんな優しい女だと思ったのかい?」
「いや、思わないから聞いてるんだ」

 ガシッと、メイサーの手が俺の頭を掴む。
 全く反応出来なかった。
 相変わらずおっそろしい速さだ。

「いてっいてえっ!」

 しかも女とは思えないとんでもない握力だ。

「ダスター、あんたには失望したよ。こんな可愛い彼女が出来たんだから、もうちょっと女扱いの上手い男になっていると思ったのにさ」
「お前は女の範疇に入らないだろうが!」
「へー」

 言うなり、なんとメイサーは、俺の頭を自分の胸に突っ込んだ。
 一応分厚い装備をつけているんで、ダイレクトな感触はないが、それでも、男にはない、やわらかさが感じられる。

「ダスター……」

 メルリルの悲しそうな声を聞いて、俺は慌てて飛び離れる。

「ち、違うんだ。あれは無理やり」
「ダスター、男が女に恥をかかせるもんじゃないよ」
「あんた、本当に、変わらないな!」

 俺の言葉を聞いて、メイサーは高笑いを響かせながら、俺達を放置してどこかへと行ってしまったのだった。

「あー、メルリル、違うからな?」
「うん。わかってる。すごく魅力的な人だよね」
「いやいやいや」

 あの女、覚えてやがれ!
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