勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

683 お見合いでも果し合いでもない

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 メイサーのヤサとやらは、古代の遺跡の一つだった。
 大きさからするとかなり大きい。
 見た目からは、家というよりも、厚みのある壁と言ってしまったほうがいいだろう。
 その壁のあちこちに不規則に出入り口が設置されている。
 ドアなどはもう跡形もないが、見ると、入り口には毛皮のようなものを被せているようだ。

 俺達が来た方向は、ちょうど、このヤサの裏側にあたるらしい。
 メイサーによれば、この遺跡の表側は、普通の崖のようになっているので、一見して遺跡とわからないとのこと。

「あたし達は、ここを砦と呼んでるんだ。まぁ仲間達は育ちが悪いのが多いから、ヤサって呼んでるけどね」
「砦、ね。誰と戦うつもりなんだ?」

 誰もが知っている常識だが、砦というものは戦争における拠点だ。
 何かを守るための防衛場所であり、戦いの最前線でもある。

「ふふん。相変わらず鋭いじゃないか。だけど、うちの連中はほとんど学がないからね。砦って言っても大きな家程度にしか思っちゃいないよ。もしくはギルド、だね」
「今、ごまかしただろう?」
「えー、何のことかなぁ」
「ちっ、地上に戻ったらくそったれなカーンにチクってやる」
「ふーん。そんなこと言っていいのかなぁ、仲間想いのダスター?」
「あ? うちの連中に脅しは無理だからな」

 カーンは、メイサーが装備を持たずに迷宮に潜り、戻って来なかったと言った。
 あの男のことだから、その後この女を探さなかったはずがない。
 だが、メイサーが姿を隠すと腹を決めて行動していたなら、子どもの頃から迷宮で小遣い稼ぎをしていたメイサーに、カーンが地の利で敵うはずがなかった。
 メイサーとその兄のディクネスは、子どもの頃からかなりトラブル体質だったらしい。
 いや、それは仕方なかったのかもしれない。
 何しろとんでもない美貌の持ち主達だ。
 ちょっと外を歩いていただけで、誘拐や暴力が、向こうから寄って来るのは、この暴力こそが正義の街ではむしろ当然と言える。

 二人を雇ったパーティのなかには、他人の目がない迷宮のなかで、子ども二人を自分達の意のままにしようと考えた奴等もいただろう。
 必然的に迷宮のなかを逃げ回ることになり、迷宮を自分達の庭のようにして育ったのだ。

 さて、そのメイサーだが、自分達が砦と呼ぶ場所に俺達を招いたところで、自分達の事情を簡単に説明し始めた。
 だが、どうも肝心なことははぐらかしている感じがして、ツッコんだら、脅しをかけて来たのだ。
 しかしまぁ、相手が勇者一行とわかっていながら脅すか? 普通。

「別に勇者の坊や達を脅している訳じゃないよ。あたしが言っているのはカーンのことさ。だから坊や、そのおっかない魔力を収めてちょうだい」

 また殺気をまき散らしている勇者に、メイサーはからかうようにそう言った。
 わざと煽ってやがるな。
 勇者はあんまりこらえ性のあるほうじゃないんだから止めて欲しい。

「お前、簡単に乗せられるな。あれはあの女の常套手段だ。相手の気持ちを揺さぶって、冷静にものを考えさせないようにしているんだ」
「ふーん。意外。ダスターなら、お偉い勇者さまに適当に仕えてみせているだけだって思ったけど、結構親身じゃない。さっきもそうだったけど」
「当たり前だ! 師匠は俺の師匠だからな!」

 殺気を抑え込んだのはいいが、勇者はなぜか鼻息も荒く、俺の弟子であることを主張し始めた。
 
「坊や。勇者さまはまだ若いから人の絆なんてものを信じているのかもしれないけど。人と人のつながりなんて脆いものさ。ましてや、親子でも夫婦でもない子弟なんてね。実際、ダスターだって、最後には師匠に置いて行かれたんだよ」
「は? 絆は求めるものじゃないぞ。俺が師匠を師匠と思っているなら、その絆は壊れたりしない。相手がどう考えているかなんか関係ないね」

 なるほど。
 お前が何度言っても俺を師匠と呼ぶのを止めないのは、それが理由か。
 さすがは勇者だな、諦めない心は立派だ。
 俺に対するものじゃなければ、素直に感心出来たかもな。

「へー、さすがは勇者さま、ご立派だねぇ。……ダスターどうしよう、あたし、この子好きかも?」
「やめろ、こいつこんな優男だが、あんがいウブなんだ。お前みたいなのにもて遊ばれたら性癖が歪む」

 わりと本気で勇者を気に入ったらしいメイサーに釘を刺す。
 こいつ、皮肉屋で、毒舌家で、性格がひん曲がっているが、案外正論を振りかざす人間が大好きなのだ。
 カーンは敵対する相手から蛇蝎のごとく嫌われたくそったれ野郎だが、一方で、ものごとの正しさというものをとても大事にする男だった。
 意外な話かもしれないが、実はメイサーのほうがよりカーンに惚れていたと、俺は考えている。

「師匠、俺はガキじゃないぞ!」
「いや、今はおとなしくしてろや。マジでこの女に憑りつかれたら、人生終わるぞ?」
「本人を目の前にしていい度胸じゃない?」

 おかしい。
 なんで俺が両側から責められなきゃならんのだ。
 理不尽だろう。

「ダスター。あの、私達、お互いにちゃんと紹介し合っていません」

 そんな混沌としたなか、メルリルが、どこか決然とした様子を見せながら、強めの口調でそう言った。
 もしかして、怒ってる?
 そう言えば、なし崩し的にメイサー達の本拠地に招かれてしまって、ちゃんとした紹介はないままだったな。
 実のところ、俺としては、メイサーに対して、勇者達はもとより、メルリルをきっちりと紹介するのは、少々抵抗があった。
 メイサーは仲間であった頃から、油断のならない女だったからだ。
 とは言え、ここまで来てしまって、さすがにそれはないか。

「悪い、昔の知り合いだからってなし崩し的に同行したのは悪かったな」

 俺は仲間に謝罪する。
 そして改めてメイサーに向き直った。

「もう、十年そこら経ったんだ。お互いに昔のままじゃない。改めて俺を含め、仲間達を紹介しよう」
「ああ、そうだね。そこはあたしもきっちりしておくよ。ほら、あんた達も、相手が勇者さま達だからって、おどおどしたりすんじゃないよ!」
「へい、あねさん!」
「ケッ、勇者がなんぼのもんじゃ!」
「なめたらあかんぜよ!」

 どこの殴り込みカチコミだよ。
 こういう雰囲気のなかにいると、さすがは迷宮都市だなと思う。
 なんか懐かしいな。
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