勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
569 / 885
第七章 幻の都

674 お宝と過ぎ去る時間

しおりを挟む
 扉は、開くために一定の魔力を必要とするということで、魔力が有り余っている勇者にやらせた。
 
「間違っても破壊するなよ?」
「なんでだ? 壊したほうが早いんじゃないか?」
「考えてみろ。この空洞が樹の内部ということなら、わずかにガワ・・が生きているからこそ、しっかりと空間が固定されているということかもしれないだろ。魔力が吸えなくなったら一気にもろくなって崩壊するかもしれないぞ」
「なるほど。さすが師匠の考えは深いな」

 いや、普通に考えるだろ。
 というか、お前またさすが師匠と言ったな。
 もう遠慮する気ないだろ!

 いろいろ言いたいことはあったが、こんなところで言い争っても仕方がない上に、俺も最近は勇者のひととなりを理解して、妙なところに頑固であることを知っている。
 言えば言うほど、より強固に自分の考えに固執するところがあるんだよな。
 こいつの指導の仕方は、匙加減が大切なのだ。
 とりあえず今は見逃すことにした。

 勇者は言われた通り、昔の乱暴な魔力操作とは打って変わった、繊細なタッチで魔力を通す。
 勇者が魔力操作を精密に出来るようになったことだけは、俺の指導の成果として誇っていいと思う。
 おかげで、いろいろ面白い魔法の応用方法を考えるようになったしな。

「あ、開いた」

 メルリルが宣言した途端、今まで単なる扉の見た目であるだけの、複雑な模様を刻まれた壁の一部だったその扉に、くっきりと筋が生じ、取っ手もない扉が、勝手に内側に入り込む形で開いた。

「ご苦労さま、アルフ」
「入れた端から魔力が消えて行くというのは妙な感覚だな」

 当の勇者は不思議そうにマジマジと扉を見つめている。

「普通はどう使おうともある程度魔力の痕跡というものは残るからな」

 この神樹が実際に天高く茂っていた時代は、どんな景色で、どんな世界だったのだろう。
 人間達は魔物と戦う力はなく、地に穴を穿ち住んでいたと言われているが、よくよく考えれば、多くの人が住めるほどに地面を掘って街を造るなどという技が可能なら、人は魔物と戦う力を持っていたはずだ。

 つまり弱かった人間は、より強く、危険ではない存在を利用することで、生き延びて来たということなのだろう。
 だから神樹の幹やその枝のなかを、負担にならない程度に削って街を造った。
 魔力を吸う樹は、魔物にとっては危険な存在だ。
 生命活動を魔力に依存していた魔物ほど、神樹には近づかなかったと予想出来る。
 そういう生き方の果てに神との盟約があったというなら、理解出来る流れだ。

「お師匠さま、みなさま、来てください」

 先に扉をくぐったモンクと聖女とメルリルが、何やら騒いでいる。
 なんだ? 嫌な感じの騒ぎ方じゃないが。

「私はここで周辺を見張っています」

 そう言った聖騎士を残し、俺と勇者も扉のなかへと入る。
 そこには、ランプに火を灯して掲げ持つメルリルがいた。

 ん? なんで火を灯すんだ? と、考えて、すぐに理解する。
 暗視が使えないのだ。
 どうやらこの場所では魔力を外に向けて使うことが出来ないようだ。
 聖女の灯りも使えないんだな。

「わ、暗視が使えないぞ」
「俺もだ。おそらく魔力を外界に作用させることが出来ないんだろう」
「面倒だな」

 勇者がぼやくのを聞きながら、俺は荷物から久しぶりにランタンを取り出し、油を入れて火を灯した。
 そうして、やっと聖女達が騒いでいた理由を理解する。
 周辺の壁全体に鮮やかな色彩で絵が描かれていたのだ。

「これはまた……」

 これが何千年も前の絵なのか? 鮮やかすぎる。
 だが、そう思った瞬間から、少しずつ絵は色あせて行くように見えた。

「どういうことだ?」
「きっと、わたくし達がこの空間に入り込んだことで、一気に時が押し寄せたのではないでしょうか?」

 聖女が言った。

「時が押し寄せるとは?」
「わたくし、教主の方にお伺いしたことがあるのです。太古の遺跡ではこういう現象がよくあるのだと。密封されている場所というのは、一種の時が切り離された空間で、外と繋がることで、止まっていた時間が一気に押し寄せてしまうのだそうです。それで貴重な資料が幾度も失われたと」
「ん? ってことは!」

 壁の絵だけではない。
 そこに積み上げられている物品も、一気に古びてしまうということだ。
 俺は手近にあった、紙か布のようなものを手にした。
 すると、手に取ったときにはしっかりとしたものに見えていたのに、見る間にボロボロと崩れ去る。

「うわぁ。これはとても運び出すのは無理か……ん? こっちは金属か」

 何千年も昔なら金属生成の技術もなかったのではないかと思っていた俺にとって、それは不思議なものだった。

「鉄……ではないな、これは銀と金じゃないか? 銀は少し黒くなっているが、思ったよりもひどくない。しかし、古代人のセンスはなかなかだな」

 勇者が首飾りか何かを拾い上げて吟味しながら言った。
 
「ああ、ここに嵌っていたのはおそらく魔宝石だったんだろうな。留め具でしっかりと固定してあった痕跡があるが、その留め具がそのままで中身がなくなっている。魔力で出来た魔宝石をこの場所が吸い上げてしまったんだ」

 さすが装飾品については俺よりも遥かに目利きだ。
 
「魔宝石がなくなってるにしても、銀や金なら今でも価値があるし、古代の遺跡なら素材の価値とは別に貴重品として欲しがる連中がいるから、これだけあればかなりのお宝だな」

 周囲を見回して俺はそう言った。
 だが、さすがにこれは持ち帰れないだろうな。
 勇者が発見したお宝というだけで、とんでもない騒ぎになる。
 外に持ち出すなら、別に発見者を用意する必要があるだろう。
 だが、そもそもこの場所を、俺は冒険者や探索者達に教えたくはなかった。
 彼等はためらうこともなく、迷宮鼠ゴブリン達を殺し、追いやるはずだ。
 俺達のせいでそんなことになったら寝覚めが悪いからな。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。