勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第七章 幻の都

675 幻の都の最下層へ1

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「この辺は神樹の種とか木片を使った加工物みたい。加工物は触ったら崩れるか、硬くなっているか。種は壺に入って密封されていたから、もしかしたら……まだ生きているかも」
「まさか! 今の時代に神樹が蘇る可能性があるのか? 何千年も昔の種だろ?」

 メルリルの言葉に驚愕する。
 植物の種ってそんなに持つものなのか?

「植物は、いろいろな方法で子孫を残そうとするの。そういう意味ではほかの生き物と同じだけど、植物は自分では動けないでしょう? だから最適な場所と最適な時期に芽を出せるのが、いつになるかわからない。そのために出来るだけ種が長く生きられるように硬い殻で覆っているの。だから水分のない場所では、びっくりするほど長く生きるんだよ」
「なるほどな。とは言え、これが神樹なら、どこにでも植えていい樹じゃねえよな。魔力を必要とするバカでかい樹で、しかも万病の薬になるとか。金銀以上にヤバい」

 勇者の剣を手に入れようとして、とんでもないものばっかり引き当てているんだが、これはあれか? 勇者の悪運の巡りなのか?

「そういうヤバめなもんは大聖堂に任せておけばいい。あそこはそういうことのためにあるんだし」
「いや、それはそれで酷い言いようだな」

 仮にもか弱き人間の心のよすがとなっている場所だぞ。
 とは言え、勇者の言うことにも一理ある。
 もしこの神樹が大聖堂に生えたら、ありがたがる人が増えるだけで、特に問題が起きることはないだろう。

「問題は癒しの樹……いえ、神樹が、どのくらい魔力を必要とするか、ですね」

 聖女が考え込むようにしながら言った。
 大聖堂には強い魔力持つ人間が集まってはいるが、もし神樹が際限なく魔力を吸うようでは、問題が発生するだろう。
 とは言え……。

「太古の昔は魔力持ちなんてめったにいなかったはずだから。魔力のある品物を定期的に収めていたとしても、それほどではないんじゃないかな? まぁそういう詳しいことは、学者達に任せればいい。俺達が心配すべきは、ここにあるものをどうするか、だろ」
「種だけ持って帰ろう」

 勇者がそう言った。

「この壺と種は、パッと見た感じではただの古ぼけた壺に入ったゴミでしかない。だが、金銀は人目を引く。面倒を避けるならそれが無難だろう。それに俺達には財宝は必要ない。いつかここを訪れる探索者の楽しみを奪うのも気の毒だしな」

 勇者の言葉は理にかなっている上に、探索者のことを考えている。
 俺は思わず感心してしまった。

「いい判断だな」
「そうだろう!」

 ちょっと褒めたら自慢げにするのは、いかがなものかとは思うけどな。

「その種、私が持とうか?」

 モンクが提案する。
 じいっと壺に入った種に視線を固定していた。

「もし、この種が芽を出したら、誰も、うちの妹のように病で苦しみながら死んで行くことはなくなるんだよね」

 ああ、そうか。
 モンクは病で亡くなった妹さんのことを今でも気に病んでいるんだな。
 だが、もしこの神樹が立派に育って、たわわに実をつけたとしても、それは全ての病気の人間よりもずっと少ない数だろう。
 こぼれ落ちる者がいなくなりはしない。
 とは言え、助かる者が増えるのは確かだ。

「そうだな。俺はさっきの迷宮鼠ゴブリンからの礼の品が重いから、そっちはテスタが引き受けてくれると助かる」
「……ありがとう」

 モンクは照れたように笑った。
 俺のへたくそな理由付けがバレていたんだろう。

「さて、扉はもう一つ見つかっていたよな。そっちは出口か?」
「ここが根元の部分だから、地上に通じる出口の可能性は高いと思う」

 俺の独り言にメルリルが答えた。
 根元の部分に栄養を埋めておく貯蔵庫があって、反対側に扉がある。
 納得のいく構造だ。
 俺達はもう一度勇者に扉に触れてもらって外に出た。
 この扉、魔力を通して放置していると、いつのまにか壁と一体化してしまうようだ。

 外には、周囲に気を配る聖騎士の姿があった。

「どうでした?」
「いろいろあった。詳しくは師匠から話があると思う」

 勇者がいつも通り俺に責任を押し付けて来る。

「お前が説明しろ。他人に物事を正確に伝える技術も、磨かないでいると衰えるぞ」
「えー」
「えー、じゃない」

 勇者はしぶしぶ聖騎士に説明をした。
 聖騎士はその説明を大人しく拝聴しているようだ。
 あいつ、勇者に甘いから、いい加減な説明でも納得してしまいそうだな。

 とりあえず俺はそっちは放置しておいて、もう一つの扉へと向かった。
 さっきの扉と似たような感じだが、なんとなく模様が違う。

「ここも魔力を通すのかな?」
「場所によって作りを変えているとも思えないし。そうじゃないかな?」

 メルリルのお墨付きをもらい、俺は今度は自分で扉に手を当てて、魔力を通した。
 手に集めたはずの魔力が、するっと手ごたえなく消えていく感触が、気持ち悪い。
 勇者の言っていたことが実感出来た。

 さきほどの貯蔵庫と同じように扉に筋が入って開く。
 ここまでは予想通りだったが、扉が開いた先が真っ暗だった。

「うわっ、ここも魔力が吸われて暗視が使えねえ。ランタンを消さずに持って来てよかったな。おい、二人共! 早く来い。扉が閉まっちまうと、無駄に魔力を使わなきゃならなくなるぞ」

 扉を開いた状態にして、メルリルと、聖女とモンクが外に出たのを見届け、勇者と聖騎士を呼ぶ。
 二人は慌ててこっちに駆けて来た。
 
「師匠、いつの間にか置いてきぼりにするのは酷いぞ」
「お前の説明が長すぎるんだよ。なんで順を追って説明してるんだ。要点だけ話せ」
「そうすると面白みがないだろ」
「面白い話は安全な場所でゆっくりやればいいだろ」

 慌てて二人が出たところで扉から手を離す。
 元の通りに戻った扉は、すでに外側からは、ただの岩にしか見えなかった。
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